そして決闘クラブ当日。夜の8時少し前には私とスネイプ先生は大広間に向かっていました。
途中で会ってしまったロックハート先生に、スネイプ先生が見るからに嫌そうな顔をしたので、私はこっそりと彼の腕をつつきます。
同僚さんなんですから仲良くしていて欲しいものです。

大広間に入ると既に生徒達が集まっていました。全部の寮から沢山の生徒が出席しています。
舞台に上がるロックハート先生が観衆に手を振り、「静粛に」と声をかけました。私とスネイプ先生は壇上端でロックハート先生を眺めます。

「皆さん、集まって。私がよく見えますか? 結構、結構!
 これは自らを守る必要が生じた万一の場合に備えて、皆さんをしっかり鍛え上げるためにです!
 では、助手のスネイプ先生とリク先生をご紹介しましょう」

視線がスネイプ先生と私に集まります。私は小さく手を振りましたが、スネイプ先生は心底不機嫌そうにしていただけでした。ロックハート先生が続けます。

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくわずかにご存知らしい。
 私が彼と手合わせしたあとでも、皆さんの魔法薬の先生は、ちゃんと存在します。ご心配めされるな!」

にっこり笑顔でそう言い切るロックハート先生。私は堪えきれずに短くクスクスと笑ってしまいました。
途端に殺気立つスネイプ先生の鋭い視線が私に向きます。

「何か?」
「何でもありませーん」

私は軽く答えて、壇上から降りてスネイプ先生とロックハート先生のために舞台を譲りました。

ロックハート先生が腕を振り上げて、大げさなくらいの礼をしたのに対し、スネイプ先生は不機嫌に小さく頭を下げるだけでした。対照的な2人を生徒達と一緒に眺めます。
それから2人とも杖を剣のように前につき出して構えます。

「3つ数えて最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」

朗らかにそう言うロックハート先生に私はまたクスリと笑います。スネイプ先生は鋭い視線でロックハート先生を睨んでいました。
構えている2人を見て、私がカウントダウンをはじめました。

「3、2、1、始め!」
「『エクスぺリアームズ(武器よ去れ)』!」

気が付けば赤い閃光が走り、ロックハート先生の身体が舞台から吹っ飛んで反対の壁に激突しました。痛そうです。でも。

「流石ですねぇ」

歓声を上げて拍手をするスリザリン生に混ざり、私も肩をすくめながら軽く手を打ちます。

ロックハート先生には申し訳ないのですが、スネイプ先生の手際の良さを見られて私は満足。
やっぱり格好いいなぁと思ってしまうのは、どうしようもなくやめられません。
微笑みを浮かべながらスネイプ先生の横顔を見つめます。彼もどこか満足げでした。

ひょっこり立ち上がったロックハート先生が身体についた埃を払いながら笑顔を浮かべました。

「さぁ、みんなわかったでしょうね! あれが『武装解除の術』です。
 スネイプ先生、確かに生徒にあの術を見せようとしたのはすばらしいお考えです。
 しかし私にはそれを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。生徒に見せた方が教育的によいと思いましてね」

勿論、ここでただで転ぶロックハート先生ではありません。その流れるような言質に私は苦笑を零します。
スネイプ先生の殺気が彼に向けれられていましたが、ロックハート先生は一切、気が付いていないようでした。

その時、殺気を含んだままのスネイプ先生の視線が笑っていた私に向き、嫌な予感が全身を包みます。
不自然にならないほどのスピードで視線を逸らすと、スネイプ先生が大広間にいる生徒に聞こえるように私に声をかけました。

「手本は多くても差し支えあるまい。君も壇上に上がってはいかがかね」

スネイプ先生のわざとらしい声と言葉に生徒のどよめくような声が響きます。
そして生徒達の期待の視線が一斉に私に向けられました。

きらきらと輝く期待いっぱいの無邪気な瞳。…やられました。これでは私も上がらざるをえません。

苦笑を浮かべながら断る言葉を一生懸命に考えている間、スネイプ先生の鋭い視線がずっと私に向けられていました。
その視線に押し負けてしまって私は短く溜息をついて、するりと杖を取り出しました。

途端、湧き上がる生徒の歓声と拍手。壇上に上がって彼と向き合うと、スネイプ先生は心底意地の悪い笑みを浮かべていました。

「使うのは『武装解除』と『盾の呪文』のみだ。これは生徒の見本なのだから」
「了解しました。お手柔らかにお願いしますね。これは生徒の見本なんですから」

にっこりと笑みを返して私とスネイプ先生は酷く丁寧な礼をして互いに杖を構えました。
「では私がカウントダウンしましょう!」と勢いよく立候補するロックハート先生。そしてカウントダウンが始まりました。

開始の合図と同時に飛んできた赤い閃光を『プロテゴ(守れ)』で弾きます。絶対そうすると思いました!

その後も、何度も打たれる『武装解除』の呪文を『盾の呪文』で防いでいきます。
DADAの授業や戦うことには不得手だった私ですが、以前、リドルくんに稽古を付けられてからは少しは戦えるようになったはずでした。

ただそれでも、スネイプ先生を前にしては『盾の呪文』しか出すことができません。
隙を突いて『武装解除』を放たなければいけませんが、彼の動きを見ていても私が見つけられるような隙などありません。

そして壇上の端まで追い込まれていることに気が付いた私は、咄嗟に踏み込んで杖を突き出します。

「『エクスぺリアー、」
「君の負けだ」

呪文を唱えようとした私の目の前に、気付けばスネイプ先生の杖がありました。スネイプ先生の方が速かったのです。

「むー。…負けました」

ぺたりと座り込んでしまった私は向けられている杖を、手で避けます。
あぁ、もう、『スコージファイ(清めよ)』を使ってもいいのならば勝てたと思います!

不貞腐れたように座ったまま頬を膨らませていると、溜息をついたスネイプ先生が杖をしまい、手を差し出してくださいました。
私はその手をとって立ち上がり、生徒達からの拍手喝采を浴びながら、共に壇上を下ります。

そして彼にだけ聞こえるような声で不服を零しました。

「大人げないです」
「拗ねているのかね」
「私が勝ったら美味しい紅茶でも買っていただこうと思っていたんですもん。残念です」
「大人げないのはどちらですかな」

呆れたように言うスネイプ先生に、私はぷいと顔を背けたあと、耐え切れずにふふと笑いました。

そして、ロックハート先生がお次は生徒達の決闘を進めようと、声をかけ、2人1組にしていきます。
スネイプ先生は真っ先にハリーとロンの所に行き、2人を別々の班にしていました。本当にハリーが大嫌いなんですから。

思わず呆れたような苦笑を零して、それがスネイプ先生にバレる前に、私も他の生徒達を2人組にしていきました。

そして行われた生徒達の決闘。

数分後出来たのは、一言で表すのならば、阿鼻叫喚。といった景色でした。
まだまだ彼らには決闘は早かったようです。ハリーとドラコくんのペアに至っては、ドラコくんは笑い続けていましたし、ハリーも軽快なダンスを続けていました。私は2人の元に駆け寄って『フィニート・インカンターテム(呪文よ、終われ)』を唱えまます。

一息ついたところで周囲を見ると、あちこちで煙が上がったり、悲鳴が上がったり。大怪我とまではいかないものの鼻血を出している子も何人かいました。
助けを求めるようにスネイプ先生を見上げると、彼はふいと顔を背けてしまいました。もう。

ロックハート先生は一瞬困ったような顔をしたあと、次に生徒達に声をかけました。

「さて、誰か進んでモデルになる組はありますか?」
「マルフォイとポッターはどうかね?」

スネイプ先生が颯爽とそう言いました。私が「え」と声を上げる横、ロックハート先生はにっこりと笑みを浮かべました。

「それは名案!」

ハリーにはロックハート先生がついて何かを教え、ドラコくんにはスネイプ先生がついて何かを教えていました。
私はその真ん中あたりに立ったまま、お話が終わるのを待ちます。


prev  next

- 25 / 60 -
back