2人の先生が、2人の生徒から離れたところで、私はもう1度カウントダウンを始めました。

号令をかけた瞬間。先に動いたのはドラコくんでした。

「『サーペンソーティア(蛇出よ)』!」

ドラコくんが素早く杖を振り上げると、杖先から真っ黒い蛇が現れました。
生徒達は悲鳴をあげて舞台から離れていきますが、私は思わず口元を緩めてしまいました。

スネイプ先生が1歩蛇に近づきます。

「動くなポッター。我輩が追い払ってやろう…」

スネイプ先生は蛇と目を見合わせているハリーを見て面白がっているかのように見えました。ハリーに関しては本当に意地の悪い人です。そこに関してはもう苦笑を浮かべることしかできません。

ですが、全くハリーは動じることなく、フレッチリーくんの前に近寄った蛇に向かって、蛇語で何かを語りかけました。
ハリーの言葉で蛇は途端に大人しくなります。攻撃態勢を取っていた蛇でしたが、これでもう誰も襲ったりしないでしょう。

「いったい、何を悪ふざけしてるんだ?」

大声。フレッチリーくんは怒ったように声を荒上げて、大広間から駆け足で出ていってしまいました。
生徒達は途端静まり返り、ハリーを恐るべきもののように見て、そしてひそひそと話し出します。

そういえばそうです。蛇語を使える人物は酷く限られているのですから。
それは例えば、噂で言えばスリザリン創設者のサラザール・スリザリンとか、闇の帝王であるヴォルデモートさんとか。

困惑の表情を浮かべるハリーを引き連れて、ロンとハーマイオニーが大広間を抜けていきました。

「何をしている?」

不意にスネイプ先生が怪訝そうに私に声をかけました。

私は壇上に上がり、鎌首を上げている蛇に向かって、四つ這いになってゆっくりと蛇に近づいているところでした。
ハリーに向いていた生徒達の視線が、今度は私に向きます。ですが、私はそんなこと気にすることもなく、どんどん蛇に手を伸ばします。

「……ほら、怖くないですよ」

片手を伸ばして、蛇に近づいていきます。怖くなんかありません。怖いハズがありません。

この子は、可愛らしい、大切な私のフェインなのですから。

「離れろ」

スネイプ先生が厳しく声をかけますが、言葉を無視して私はさらに蛇に近づいて手を伸ばします。
蛇に指先を見せると、彼はチロチロと見せていた舌で私の指を舐めたあと、手首に絡みついてきました。

「ふふ。いい子ですね」

微笑んで蛇を抱き上げます。蛇は私の顔を見つめたあと、肩まで登ってきて身体をだらんとさせて落ち着かせていました。

近くにいた生徒が恐る恐る私に問いかけてきました。

「リク、先生…、それ、大丈夫なの…?」
「大丈夫ですよ。…昔、学生の頃、蛇を買っていたんです。彼らの扱いには慣れているつもりです。
 驚かせなければみんな可愛くていい子達ですよ」

そう言葉を紡いでいる間にも私の頬に擦り寄ってくれる可愛らしい蛇。
私はその蛇を頭を撫でながら、厳しい表情をしているスネイプ先生に笑みを返しました。

「私は先に地下牢教室に戻っています。
 生徒の誘導はよろしくお願いいたします」

私はそう言って、蛇を肩に乗せて大広間を抜けていきます。
蛇を恐れるように、生徒達が左右に避けて私に道を譲りました。

廊下には誰もいませんでした。私は蛇の身体を撫でて、小さく囁きます。

「………名前を付けてあげますからね」

感覚的に彼を、再び『ムリフェイン』と呼んではいけない気がしていました。
新しい名前を色々と考えていると、蛇が私を見つめて顔を傾けて小さく鳴きました。

「シャー」

可愛いなぁと頬を緩めていると、蛇はすりすりと撫でていた私の手に擦り寄ります。
蛇の動きを見つめていた私は、ふとあることに気がついてしまって、ぱちくりと瞬きをします。

「……フェイン?」

思わずそう呼ぶと、彼は頷くように何度も何度も頭を縦に振りました。まさか、そんな。
私は両手で口を覆います。溢れそうになる涙を堪えます。

「フェイン! 貴方はフェインなんですね!」

なんということでしょう。彼は、彼は私の大切なムリフェインだったのです!

彼は、私のことを覚えていてくださったのです。堪えきれず涙を溢れさせた私はフェインを抱きしめます。

「よかった…よかった…。フェイン、貴方に会えて…」

ぼたぼたと溢れてくる涙を、フェインは身体をこすりつけるようにして拭います。
彼の身体を抱き上げて、ぎゅうと抱きしめると、フェインはその尾の部分で慰めるように私の頭を撫でてくださいました。本当に優しい子です。


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