「……。それほどまでに気に入ったのか?」

スネイプ先生は地下牢教室に戻って来た瞬間に、フェインと遊んでいた私にそう言葉をかけました。
フェインを腕に絡めて、身体を撫でていた私はにっこりと笑顔を返します。

「はい。とっても」

フェインの頭を撫でるとフェインも短く鳴いて私の指先を舐めて返事をしてくださいました。

フェインを警戒するかのように、私達をじっと見つめているスネイプ先生。
微笑みを浮かべてフェインを見せるように掲げると、彼はそれを無視して椅子に座りました。

私はフェインと遊びながら言葉を零します。

「私もハリーのようにパーセルマウスだったらよかったんですけれどね…」

蛇語を練習した時期も勿論ありました。ですが、結局はフェインの言葉を、理解してあげることは出来なかったのです。
腕に絡めたフェインを肩に乗せて、私は立ち上がって次の授業の準備を始めます。

フェインと出会えたことで浮かれていた私は、「そういえば、」とざわついていた大広間を思い出してスネイプ先生に声をかけます。

「貴方はハリーがスリザリンの継承者だと思います?」
「馬鹿馬鹿しい」

あっさりとそう言ったスネイプ先生に、私も微笑みを浮かべます。
例え蛇語を話したとしても、ハリーがスリザリンの継承者では無いことは明白なのですから。

ただ、生徒達もそう思ってくれるかまではわかりません。そこが難しいところですが…。

少しだけ憂い顔を浮かべつつ、生徒達が次に使う魔法薬を補充していると、スネイプ先生がフェインを見て短く鼻で笑いました。

「いつか魔法薬の素材になりそうですな」
「ふふ。させませんよ」

いつかと同じ会話に気づいた、私は目を伏せて笑みを零します。
その時、私の髪に身体を滑らせてきたフェインが、短く不機嫌そうな声を上げました。

「フェイン?」
「シャァ」

どこか不機嫌そうなフェインに首を傾げていると、私の体から降りていったフェインは机の上でゆっくりと蜷局を巻き直して睡眠を取る姿勢となっていました。
彼の身体をまたひと撫でして、私はまた薬草棚に向きます。呼び寄せた瓶を棚に上げようとすると私の背中に声がかかります。

「補充は必要分だけにしたまえ」
「は、はーい」

少し余分に追加しようとしていた私は釘を刺されて大人しく返事をしました。


†††


地下にある私のお部屋ですが、その窓は地上の天気を反映するようしていただいていたため、窓の外から雪が降っているのが見えました。

長いことこの国にいる私ですが、それでも冬の寒さには辛いものがあります。
私と同じく寒そうにしているフェインをマフラーに包んで抱き上げて、地下牢教室に入ります。

地下牢教室の暖炉に火を灯して、1番近い机にマフラーで包んだフェインを優しく置きます。次に翻訳薬の調合でもしようと大鍋を呼び寄せました。
そこでスネイプ先生が地下牢教室に戻ってきました。大鍋を持ったままの私が彼に「おかえりなさい」と声をかけます。

「フレッチリーとほとんど首なしニックが襲われた」

険しい顔をしているスネイプ先生の言葉に、私は持っていた大鍋を落としてしまいました。
咄嗟にスネイプ先生が浮遊呪文をかけてくださったおかげで、大鍋が落ちることはありませんでしたが、私は慌てて大鍋を持ち直します。

「気を付けたまえ」
「す、すみません…。驚いちゃったんです」

未だドキドキとしている胸を落ち着かせながら、大鍋を机の上に置き直します。足にでも落としたら大怪我をしてしまうところでした。
物語は私が覚えていたよりも進んでいたようでした。私は大鍋に水をはって火にかけながら、話を聞きます。

「2人はまた石化してしまったんです?」
「少なくともフレッチリーは。
 ニックは黒く煤けて動かなくなった。今はひとまず医務室に漂わせているらしい」

既にゴーストであるほとんど首なしニックさんにも影響を及ぼすことができる存在は、とても限られています。
よっぽど強い呪いではないと、ゴーストを傷つけることは出来ないのです。

スネイプ先生は静かに言葉を続けました。

「最初に2人を見つけたのがポッターだった」
「……そう、でしたか」

私は少しだけ困惑の表情を浮かべて、長く息をつきます。ハリーには平穏に過ごして欲しいのですが、そうもいかない人生のようです。わかっていたことでもありましたが、彼の苦労を思うと心配もしてしまいます。

ハリーは昨日の決闘クラブでのこともあって、様々な噂がたってしまっています。私は言葉を続けました。

「これ以上変な噂が広まらなければいいんですけれどね」
「難しいだろうな」
「ですよね…」

私はもう一度長く息をついて、大鍋に薬草いれて煮詰めます。
そこでふと気がつくと大鍋を置いたテーブルを挟んで反対側に立っていたスネイプ先生。私はきょとんと彼を見上げました。

「君は去年の終わり、未来を知っていると言ったな」

言葉に、私は困ったような笑みを浮かべたままでした。スネイプ先生は言葉を続けます。

「君は犯人が誰かわかっているのでは?」

本当のことを言えば、犯人が誰なのか私は知っています。
それがどこにいるのかも、何を使って忍び寄っているのかも、誰が協力することになってしまっているのかも。

ただ、知っていても、教えることは難しいのです。
私の都合で、ではありましたが。

「犯人はハリーじゃないですよ」

それを言っても頭痛は発生しませんでした。スネイプ先生もハリーが犯人ではないと思っているからでしょうか。
大鍋にさらに数種の薬草をいれて火にかけながら、スネイプ先生から視線を逸らしました。私は小さく言葉を呟きます。

「…知っていても、教えられないこともあるんです」
「………」

囁くように答えるとスネイプ先生は深く黙り込んでいました。
向かい側に立ったままのスネイプ先生が、私と同じ作業台の上でヴァレリアンの根を刻み始めました。
どうやら私の作業を手伝っていただけるようです。さらに何かを問われると思っていた私は、ぱちぱちと瞬きをしますが、次には小さく微笑みを彼に向けました。

「ありがとうございます」
「君はそのまま続けていたまえ」

それは今行っている調合のことだとは思いました。ですが、今は、私の行動を止めないでくれたのだともとれました。

「…ありがとうございます」

もう1度お礼を言うと、スネイプ先生は私の言葉が聞こえなかったふりをしていました。


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