それから。私は1日ゆっくりと安静をとらせていただいて、無事地下牢教室に戻ってきました。
生徒達には私も襲われてしまったのだと不安にさせたみたいで、戻ってきた時には色んな生徒から安堵の声をいただきました。
そして数日が過ぎた頃、地下牢教室の扉を開けた瞬間、私は、立ったままのスネイプ先生と机の上にいるフェインが睨み合っているその現場に鉢合わせました。
教室の入口で思わず立ち止まった私。
フェインは何事もなかったかのように蜷局を巻き、スネイプ先生も何事もなかったかのようにフェインから視線を逸らして調合を再開させていました。
「………仲良くしてました?」
教卓の方に近寄っていきながら、私は怪訝そうに声をかけます。フェインだけがご機嫌そうに鳴きました。
天文台から落ちた時、気絶をしてしまった私を助けるために、フェインは真っ先にスネイプ先生を呼びに行ってくれました。
それでもフェインはスネイプ先生のことが嫌いなままなようで、彼の傍に近寄るのを極力避けているようでした。
彼らには仲良くしていただきたいのですが、どうやらまだ時間がかかりそうです。
指先で彼の頭を撫でると、彼は心地よさそうに長く小さく鳴いていました。
溜息をつきながら私はフェインに手を伸ばし、彼を抱き上げて、スネイプ先生に声をかけました。
「スプラウト先生の所に行ってきたんです。マンドレイクがもう少しで成熟するそうなので様子を見に」
「先にクィディッチ試合に行ったかと思ったが」
スネイプ先生が言うように、そういえば今日はグリフィンドール対ハッフルパフの試合です。ですが、今日は。
「……マンドレイクの完成が待ち遠しくて」
私は囁くようにそう言います。スネイプ先生が怪訝そうな顔して手を止めた瞬間、教室の扉を何回もノックする音が聞こえました。
入口に近かった私が、扉を開くと、教室内に飛び込んでくる紙でできた鳥。
その鳥は口早に、マクゴナガル先生の声で話しだしました。
「セブルス、リク。また生徒が襲われました。
生徒達の誘導をしたのち、校長室へ集まってください」
鳥はそれだけを伝えると、また素早く飛んで行きました。険しい顔をしたスネイプ先生が一瞬だけ考えるようにしてから歩き出して、後ろをついていく私に声をかけます。
「君は生徒の誘導を。我輩は先に校長室へ行って話を聞いてくる」
「はい」
私は短く返事をして、途中まで一緒に歩いたあとすぐに別れます。
スリザリンの寮監であるスネイプ先生の代わりに、スリザリン生をメインに誘導をしていきます。
他の寮生が不安げな顔をしている中、スリザリン生はそこまでの危機感はないようでした。
今回襲われたのはハーマイオニーとレイブンクロー生のクリアウォーターちゃんでした。
スリザリン生徒は今回の事件で襲われたことはないのです。
生徒達を談話室に誘導し、残っている生徒がいないかどうかを確かめてから、校長室に行こうとするとスネイプ先生が向こう側からやって来ました。
少し悩んだ私ですが、校長室には行かずに、スネイプ先生のあとを続きます。
歩きながらスネイプ先生は短く説明して下さいます。
「これから生徒に説明をする。君も来たまえ」
私はまた短く返事をしてスネイプ先生と一緒にスリザリン寮の談話室へと足を踏み入れます。
私が滅多に入ることがないスリザリン寮には、沢山の生徒が集まっていました。
スネイプ先生が中に入ると少しざわついていた談話室が静かになります。スネイプ先生は羊皮紙を読み上げ始めました。
全校生徒は夕方6時までに必ず各寮の談話室へ。
授業に行く時には必ず教師が引率。
クィディッチは試合も練習も事件が解決するまで延期。
このままでは学校の閉鎖すらされる可能性もある、との説明でした。
「何か情報を知っている者がいたら申し出るように」
そう告げてから、マントを翻して談話室を出るスネイプ先生と一緒に私もスリザリン寮を出ます。
そのままさらに階段を下りて、地下牢教室へと帰っていく途中で、スネイプ先生は私に振り返りもせずに声をかけました。
「君は、何か情報を知っているのでは?」
かけられた言葉に私は彼の背中をじっと見つめます。
先に地下牢教室の扉を開いて待っていて下さる彼に、お礼を言いながら中に入ります。
戸締まりのために鍵を閉めたあと、スネイプ先生は何も言わずにいる私をじっと見つめていました。
「……知っていても言えない、かね?」
どこか侮蔑を込めたスネイプ先生の言葉に、私は寂しく微笑みを返すことしか出来ません。
彼からしたら、何故私が情報を提供しないのかが不思議で、そして疑わしいのでしょう。
浅く微笑むと、スネイプ先生は不服気な顔をしたまま、自室へと入って行きました。私も自分の部屋の扉を開きます。
そしてその日の夜。ダンブルドア校長先生に停職命令が出され、ホグワーツはかつてないほど不安に包まれていきました。
†††
「えっ? 試験は行うんですっけ?」
スネイプ先生が用意した試験用紙を見て、私は思わずそう返していました。
校長先生が不在の今、マグル生まれの生徒達は怯えきってきます。そんな中でも試験も行うとは思ってはいませんでした。
私が2年生だった時はどうだったかを必死に思い出す中、スネイプ先生は呆れたように私を見ていました。
「授業は通常通り行っている。よって、試験もいつものように行う。校長の言いつけにあっただろう」
「…そうですけれども…。生徒達もびっくりしてたでしょうに」
私は口を尖らせて試験用紙をぺらぺらとめくります。いつの間に作っていたのでしょう。全然気がつきませんでした。
私も手伝わなくてはいけない仕事だっただけに心苦しくなります。
スネイプ先生は試験用紙を私に1枚手渡します。私は生徒用の椅子につき、羽ペンを取り出しました。私も試験内容の確認をしなくてはいけません。
1年生用試験の、最初の問題から順番に解いていく中、スネイプ先生はちらりと私の周りを見て声をかけました。
「蛇は?」
「フェインですよ」
ぷくと頬を膨らませて名前の訂正をします。スネイプ先生は大して気にしている風もなく、私の答えを待っていました。
Q3.にまで進みながら私は流れてきた髪を耳にかけながら答えます。この時間ならフェインは…。
「お散歩にでも行ったんでしょう」
「生徒に見つかったら厄介なのでは?」
問いかけにふふと笑みを浮かべます。彼は生徒に見つからずホグワーツをお散歩するエキスパートなのですから。
「フェインだけの特別なお散歩コースがあるんですよ。
ホグワーツには沢山パイプが通っていて、」
そこで突然走った頭痛に、手が咄嗟にこめかみあたりを抑えてしまいます。
どうやら今はまだ、このことを言ってはいけないようです。
自分自身でもよくわかっていない頭痛に苛立ちすら覚えますが、スネイプ先生がじっと私を見ていることに気が付いて、私はすぐに手を離しました。
スネイプ先生が静かに言葉を零します。
「……頭痛かね」
「たまにあるんですよねぇ」
意外と心配症な彼を心配させないように、私は朗らかに微笑み返します。スネイプ先生の表情は険しいままでした。
「………。それで中庭で倒れたのかね?」
「違いますよ」
答えてしまってから、少し食い気味に返事をしてしまったことを後悔しました。
もう少し落ち着いて答えなければいけなかったことに気がついて、私は再び視線を試験用紙に戻します。彼が作った問題なだけに難易度は高めなように思えます。
「1年生ならもう少し選択問題を増やしてもいいんじゃないです?」
「内容自体は簡単だ」
短く言い切るスネイプ先生。どうやら内容はこのままになりそうです。
試験用紙を全て記入しきって満足げに微笑んでいると、彼は間髪入れずに2年生の試験用紙を置きました。
ふと気がついた私はしょんぼりと肩を落として、ちらりとスネイプ先生を見上げます。
「もしかしなくても全学年分作り終えてます?」
「次は君に作ってもらう」
「すみません…」
2年生の試験を解きながら、私は生徒になった気分で小さくなりながら謝罪を告げました。
さらさらと答えを書き込んでいると、私の隣にいれたての紅茶がおかれました。にこりと微笑んでお礼を告げると、紅茶を口にしているスネイプ先生は斜め前の席に座りました。
そして彼は目の前に木箱を呼び寄せました。それは少し前に大量に仕入れた薬草達でした。もう殆ど処理したと思っていましたが、まだあったんですね!
「試験を解き終わったら、君もこれを」
「はーい」
呑気な返事をして、私達はそれぞれ黙々と作業を進めます。