ホグワーツにまた学生達が帰ってきて、城がまた賑やかになりました。やはりホグワーツは学生で溢れている時の方が心地良いのです。
私も久しぶりの授業を楽しみにしていました。昨晩までは。
朝、目覚めた私は風邪をひいていることを察してしまったのです。
身体中を包む倦怠感。思考力の低下。軽い、頭痛。
それでも何とか朝の支度を済ませて、地下牢教室に入ると、既に起きていたスネイプ先生が私の姿を見て、怪訝そうに片眉を上げました。
「風邪かね」
どうやら一目見ただけでもわかるくらいには、私の症状は良くないようでした。
「……みたいです」
今日は強がることはせずに、しょんぼりと肩を落として肯定の返事をします。
いつもやっているように、朝一の授業の準備を始めようと薬草棚から瓶を取り出すと、その瓶はいつの間にか背後にいたスネイプ先生に取り上げられてしまいました。
「その状態で出られても困る。寝ていたまえ」
「……いえ。午前中は2年生だけですし」
「そして生徒に風邪をうつす気かね」
そう言われてしまうと途端弱くなります。私は大人しく背伸びをやめました。
「…午前中は休ませてもらいます」
「良い判断だ」
そんな皮肉も慣れたもので、私はぷくと頬を膨らませた後に寝室に戻ろうとします。
「何処へ行く」
するとスネイプ先生の呆れたような声。歩を進めていた私は振り返ってきょとんとします。
「よっぽど酷いらしい。自室にすら戻れないとは」
今度はしっかりと呆れた声を出すスネイプ先生。そして私はやっと気がつきます。
私は無意識のうちにスネイプ先生の自室に向かおうとしていたのです。『昔』、『私達』のお部屋だったその場所へ。
「ま、間違えました」
昔の癖は、この数年でなくなっていたかと思っていました。
ぐわんぐわんと酷くなった気のする目眩を堪え、私はふらふらと今の私の部屋へと足を向けます。
「熱冷ましを作っておく」
「申し訳ないです…」
背中にかけられた声に私も小さく声を返しました。なんだか余計に体力を消耗した私は、ベッドに身体を沈めると、意識は簡単に闇に堕ちていきました。
†††
そうして目覚めたのは昼を過ぎた時でした。カーディガンを羽織って教室に顔を出した私は、スネイプ先生の姿が見えないことでとても寂しい思いをしていました。
きょろきょろとしていると、教卓の上で蜷局を巻いていたフェインを見つけ、私は彼の身体を撫でます。彼は挨拶のように私に短く鳴きました。
酷く喉が乾いていた私は紅茶セットを呼び寄せて、慣れたように紅茶を淹れていきます。
ガラスのポットに綺麗な赤色が広がってきた時、スネイプ先生が戻ってきました。私の表情に笑みが戻ります。
「おかえりなさい。
…何かあったんですか?」
ですが、何やら険しい顔をしていたスネイプ先生に私は思わずそう話しかけます。
カップをもう1人分呼び寄せて、彼の分の紅茶も淹れていると、スネイプ先生は疲れたような溜息をついていました。
「魔法生物飼育学の時間、ドラコが怪我をした」
「えっ? 大丈夫なんですか!?」
「本人は痛がっているが、大した怪我ではない。数日で治る」
記憶に検索をかける私は、ヒッポグリフのビックバークを思い出します。
ややこしい事態を思い出してしまい、小さな溜息が溢れます。ですが、『今年の最後』にはビックバークは必ず必要になるのです。
ドラコくんもそうですが、落ち込んでいるであろうハグリッドさんにあとでお酒でも持っていこうと思っていると、不意にスネイプ先生の視線に気が付きました。
「君は?」
視線があった時にされた問いかけに、私はにっこりと笑顔を向けました。
午前中ぐっすり眠っていたということもあり、倦怠感こそまだ残っているものの頭痛はもう治っていました。
「お陰さまでだいぶ良くなりました。次の授業には出られそうです」
にこにこと言葉を続けると、カップに口をつけているスネイプ先生が無言のまま、じとりと私を睨んでいました。
私の笑みが苦笑に変わります。意外と彼は心配性なのです。
「無理してませんよ。ちゃんとマスクもしていきますから」
「彼は許さないそうだが?」
スネイプ先生の視線が示す方を見ると、フェインが身体を起こしてじぃっと私を睨むように見つめていました。
不満げに低くごろごろと鳴いているフェイン。私はぱちくりと瞬きをした後、彼に手を伸ばしました。
「まだ駄目です?」
彼を両の掌に乗せて、小首を傾げながら問いかけるとフェインはこくりと重々しく頷きました。
そんな姿を見て私は思わず苦笑を零し、スネイプ先生を見上げました。私は色んなひと達に心配してもらっているようです。
「もう少し横になっていてもいいですか?」
「明日までには治すように」
「はーい」
呑気に返事をした私は残っている紅茶とフェインを持って、一緒に寝室へと向かいました。
今度はちゃんと迷わず自分のお部屋へ。