「みんなも何が1番怖いかを考えて。そして、その姿をどうやったらおかしな姿に変えられるか想像してみて…」

あぁ、なんて懐かしいんでしょう。私はこの時、にっこりと笑うリドルくんが出てきたらとっても怖いなぁと考えていたことを思い出します。
結局出てきた怖いものは、笑ってやることも出来ないくらいに恐ろしいものだったのですが。

「みんないいかい?」

私1人過去を思い返している中、リーマスさんの掛け声が聞こえます。
そして、ロングボトムくんが洋箪笥の前に残されました。顔は青ざめていましたが、覚悟は決めたようで、ローブの袖をまくりあげ、杖をしっかり構えていました。

「ネビル、3つ数えてからだ。
 いーち、にー、さん、それ!」

リーマスさんが杖を振るい、洋箪笥の扉が勢いよく開きました。そして中からゆっくりとスネイプ先生の姿となったボガードが現れました。

声を震わしながらロングボードくんが杖を振り上げました。

「り、り、り、『リディクラス(馬鹿馬鹿しい)』!」

バチンと音がして、スネイプ先生が躓きました。そして次の瞬間には、彼の姿をしたボガードは、緑色の長いドレスを着て、高いハゲタカのついた帽子をかぶり、そして赤いハンドバックを持ったまま呆然と立っていました。

職員室の中が大爆笑で包まれます。私も耐え切れずクスクスと笑いながら、リーマスさんの隣に立ちます。リーマスさんも笑いながら、私を見てやっぱり悪戯な顔をしていました。

「これはバレたら怒られるかな」
「ふふ。きっと、すごく」

私もにこにこと笑いながら、いつも以上に不機嫌になるスネイプ先生を想像して、笑みが苦笑へと変わります。

そうして、リーマスさんが次々と生徒達の名前を呼び、前に出て行く生徒達が順番にボガードを変身させていきます。

血塗れのミイラや耳をつんざく悲鳴を上げるバンシー。大きな蜘蛛やガラガラヘビ。目玉が1つだけ、切断された手首、手足のない幽霊。
生徒達の怖いもの達が現れ、次には滑稽な姿となり、笑いに包まれていきます。

「リク先生も行くかい?」

悪戯にかけられた声に私は首を左右に振ります。

「あはは…。すみません。私、ボガートはどうにも苦手でして」

苦笑を浮かべて、私はリーマスさんからの言葉をお断りします。
ボガートはいつも私の前に、大切な人の死体を見せてきます。それは例え偽物だとわかっていても、とてつもなく恐ろしいものでした。

リーマスさんも無理強いするつもりは全くないのか、次々と変わる怖いもの達に視線を戻して、また笑顔を浮かべていました。
ですが、巨大な熊が変形してぬいぐるみとなったボガードがハリーの足元に落ちた瞬間、リーマスさんは急にハリーの前に飛び出しました。

そしてボガードが銀色のまん丸に変形したあと、リーマスさんはつまらなそうに呪文を唱え、風船となったまん丸がまたロングボトムくんの元へと駆けていきました。リーマスさんが声をかけます。

「ネビル! 前へ! やっつけるんだ!」

ロングボトムくんの前に出た風船は、再びスネイプ先生の姿に変わりますが、すぐさまロングボトムくんの呪文が職員室に響きました。

「『リディクラス(馬鹿馬鹿しい)』!」

ほんの一瞬だけドレス姿になったスネイプ先生が見えましたが、ロングボトムくんの笑い声で破裂し、細い煙の筋となって消えていきました。私も含めたクラス中の拍手が響く中、リーマスさんがにっこりと笑いました。

「よくやった! ボガードと対決したグリフィンドール生1人につき5点を与える。ネビルは10点だ。2回やったからね。
 ハーマイオニーとハリーも5点ずつ。最初の質問に正しく答えてくれたからね」

リーマスさんは笑顔のままみんなへと振り返ると、両手を広げて朗らかに宿題を出しました。宿題を出されたにも関わらず、生徒達は未だにボガード退治を振り返って楽しそうにしています。

そして授業が終わり、生徒達が職員室を順々に出ていきます。私にも手を振って出ていく生徒達に手を振り返して、やがて職員室には私とリーマスさんが残されました。
笑顔だったリーマスさんが少し照れたように肩を竦めています。彼は私がさっき見た銀色のまん丸を少し気にしているのでしょう。

「……この歳にもなると怖いものを見られるとなんだか気恥ずかしいものなんだね」
「ふふ。かもしれません」

私は否定することなく小さく笑います。私だって、私の本当に怖いものを誰かに見られるのは、ちょっと嫌なのですから。

片付けた論文を抱えると、リーマスさんの視線が私の論文に向きます。
私が今回提出する論文は『脱狼薬』に関する論文なのです。視線に気が付いた私はにっこりと笑いかけます。

「貴方の怖いものを退治する手助けが出来ればいいんですけれども」

リーマスさんは銀色のまん丸のせいで、自分自身のことすら嫌ってしまうほど苦しんでします。
私はリーマスさんに苦しんでほしくはないのです。いつか、脱狼薬の研究を進めて、完全に治療が出来るような薬が出来れば…。

きっと沢山の人が救われます。でも私はその前にリーマスさんただひとりを手助けしたいのです。

「ひとまずは今日の夕方くらいにはお届けしますね」
「あはは。頼りにしてるよ」

リーマスさんは苦笑を浮かべます。頬に刻まれた傷がちょっと歪むのを私は見つめていました。


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