リーマスさんの授業は今回も勿論といった風に、生徒達に大人気の授業となりました。
実践重視ということもあり、生徒達もいきいきと授業に望んでいるようでした。
ネビルのおばあさんの衣装になったボガードスネイプ先生の噂も瞬く間に広がり、予想していた通りスネイプ先生はいつにもまして不機嫌で、とっても意地悪に過ごしていました。
満月が近くなり、リーマスさんの体調はあまり良くなさそうです。今日分の脱狼薬を調合し終えた私は、それをゆっくりとゴブレットに注いでいきます。
どろどろとした液体は見た目はあまりよくありません。味もよくない事を知っている私は複雑な思いですが、今の私の力ではここまでが限界でした。
本当はもっと飲みやすいように調合したいのですが…。
「ホグズミードには?」
完成した脱狼薬を机に置いてふぅと息をついた私に、スネイプ先生から声をかけられました。
今日は今学期初めてのホグズミード行きの日でした。毎回息抜きがてらに行っていただけに、スネイプ先生も気になったのでしょう。
確かにホグズミードに行きたい気持ちもあるのですが、今日はもう少し多めに脱狼薬を煎じておきたいのです。
リーマスさんは今週はずっと薬を飲まないといけないでしょうし、脱狼薬は保存の効く薬ではなく、ストックすることはできません。
「もう少し調合したいんです」
私はにこりと笑ってそう答えます。ホグズミードにはいつでも行くことが出来ます。リーマスさんのためならもうちょこっと頑張りたいのです。
スネイプ先生はそんな私をじっと見たあとで、呆れたような溜息をつきました。そして彼は私が机に置いたゴブレットを手に取りました。
「持っていこう」
「え? いいんです?」
スネイプ先生からの提案に私は目をぱちくりとさせます。まさかスネイプ先生からそんな提案をしてくださるとは。
驚きの表情を浮かべていると、スネイプ先生はそんな私の額をぺちりと叩いていきました。いたいです。
「君が持っていくと長話をしてから戻ってくるだろう」
先生の言葉に私は視線を逸らします。リーマスさんのお部屋に行くとついついお茶会を開いてしまったりして長居してしまうのです。
あははと誤魔化すように笑っていると、スネイプ先生はじとと私を睨んでいました。
「戻ってきて、それからもう一鍋分調合していたら、夕食の時間を過ぎる。
大人しく今から調合していたまえ」
「…わかりましたー」
素直に返事をして、私はもう一鍋分の材料を呼び寄せます。また丁寧に薬草を刻んでいくことから始めていると、スネイプ先生は先程のゴブレットを持って教室を出て行きました。
さて、私も頑張らなくてはいけません。
†††
ずっと地下牢教室に篭っていた私は、大広間に来た時にそこに飾られているコウモリやパンプキンに、今日がハロウィーンだということを思い出しました。
煌びやかな飾りに驚いていると隣のスネイプ先生は呆れた顔をしていました。私はてへへと誤魔化すように笑います。
やっぱりホグズミードに行ってきた子が多いようで、長テーブルのあちらこちらでホグズミードの戦利品を広げている子ばかりでした。
いつものように教師陣の席につくと、既にリーマスさんは席についていました。フリットウィック先生とお話をしていたのでお声を掛けることはしませんでしたが、脱狼薬の効果が出ているようで体調は良さげです。
私もなんだがご機嫌になりつつ、ホグワーツ中のゴースト達が余興として、編隊を組んで空中滑走をしているのを眺めます。
楽しい時間はすぐに過ぎて、食べ終わるのが早い生徒達はちらほらと大広間を出ていく中、デザートを食べきった私も隣で既に食べ終わっている様子のスネイプ先生に声をかけました。
「行きましょうか」
「今日は早いようで」
ぱちりとひとつ瞬きをしたスネイプ先生。それもそうでしょう。私達はいつも夕食を食べ終わったあと、少しゆっくりとしてから地下牢教室に帰っていたのですから。
私は曖昧に笑いかけて、席を立ちます。少し不思議そうにしていたスネイプ先生ですが、特に何も言わず彼も立ち上がりました。
いつものように一緒に大広間を出て、階段の近くまで行くと、上の方で生徒達が集まっているのが遠く見えました。
「何かあったみたいですね」
淡々と声をかけるとスネイプ先生は一瞬睨むように私を見たあと、すぐに階段を上がり始めた私と共に集まっている生徒達の近くへと行きます。
「誰か、ダンブルドア校長先生を呼んで。急いで」
生徒達の人混みの中からパーシーくんの声が聞こえてきます。人混みに埋まりそうな私の後ろでスネイプ先生が声をかけると、スネイプ先生に気づいた生徒は遠慮がちに道を開けてくださいます。
どうにかして生徒達の真ん前、グリフィンドール寮の前まで来ると、いつの間にかダンブルドア校長先生もすぐそばに来ていました。
グリフィンドール寮の扉前まで来ると、生徒達がざわついていた原因がはっきりして、スネイプ先生も顔をしかめます。
太った婦人が描かれていた肖像画が無残にも滅多切りにされ、キャンパスの切れ端が床に散らばっています。
肖像画の主である太った婦人はその残骸の中にはおらず、無人でぼろぼろの肖像画だけが残されていました。
ダンブルドア校長先生は肖像画を見て、視線をすぐに私達や後ろから駆けつけていきたマクゴナガル先生に向けられました。
「婦人を探さなければならん」
そう言った時に、ダンブルドア校長先生の真上でピーブスがひょこひょこと飛び回っていました。彼は「校長閣下」と仰々しく声をかけつつ、今のこの騒ぎを面白がっている様子でした。
ピーブスはどうやら誰が肖像画引き裂いたのかを知っているようです。校長先生がゆっくりと問いかけると、ピーブスは嬉しそうに言葉を続けました。
「そいつは婦人が入れてやらないんで酷く怒っていましたねぇ。
あいつは癇癪持ちだね。あのシリウス・ブラックは」
そして出されたアズカバンの脱獄者の名前に、近くで聞いていた生徒達が短く悲鳴をあげていました。
生徒達にパニックが広がる前に、ダンブルドア校長先生はすぐにグリフィンドール生達に大広間へと戻るように指示を出しました。