朝になり、生徒達をそれぞれの談話室に帰したあと、私は大きめのピクニック用バスケットを持って禁じられた森の近くを歩いていました。
誰にも見つからないように気をつけつつ、視線は地面あたりを探しつつ。数分近くを歩いていた私は、ようやく目当てのフェインを見つけました。
フェインは私の姿を見つけると「シュ」と短く鳴いて鎌首を上げています。すぐに駆け寄ると、私はフェインの後ろ、森の中の方に真っ黒い犬がいることに気が付きました。
「随分と可愛い犬を見つけてきましたね。フェイン」
にこりと微笑んだ私は少しだけ禁じられた森の中に入り、フェインが案内してくれた場所で小さなレジャーシートを広げました。
ピクニック用のバスケットをレジャーシートの上に置いて、色々と準備をしている私を、真っ黒い犬は少し離れたところでじっと睨むように見つめています。
そうして少し経った後、朝食の準備が出来た私は空になったバスケットの蓋の上にフェインを乗せて、にこりと両手を合わせていただきますをします。
ひとつサンドイッチを手に取って、私は少し遠くて舌を出している黒い犬にサンドイッチを差し出しました。
「怖がらないでいいんですよ。はい、サンドイッチは食べられます?」
じっと私を見つめる黒い犬を、私もじっと見つめ返していると、とてとてと動き出した黒い犬は私の手から奪い取るようにしてサンドイッチをくわえていったあと、少し離れたところでがつがつと食べきります。
サンドイッチを食べきったところで、また新しいものを差し出すと、黒い犬は少し近づいて、先程よりかは近いところでまたがつがつと食べきりました。
ふふと笑ってまた新しいものを差し出し、私はフェインににこりと笑いかけます。
「禁じられた森から出てきた犬を可愛がっていると言ったら彼に怒られてしまいますね」
「シュー」
フェインもどこか楽しそうな声を出して返事をしてくださいました。
いつの間にか手を伸ばしたら触れられる位置でサンドイッチを食べている黒い犬に私は微笑みを浮かべていました。
「もしよかったらまた明日もここに来てください。
何か美味しいものを持ってきますよ。
そうですね…。チキンとか」
がつがつとサンドイッチを食べ続けていた黒い犬が、チキンという単語に反応してバッと顔を上げました。
きゅーんと可愛らしい声で小さく鳴いています。それがとても愛おしく感じて、私は腕を伸ばします。びくりと警戒していましたが、それでも黒い犬は私の手から逃れようとはせずに大人しく撫でさせてくれました。
「いい子」
か細く呟いた私はその犬をぎゅうと抱きしめました。
†††
本格的なクィディッチシーズンが近づく中、連日大雨が続いていました。地下牢教室もなんだかじめじめとしている気がして私は杖を振るい換気をしていきます。
そこでふと聞こえたノックに、近くにいた私は扉を開きます。するとそこにはリーマスさんが立っていました。私はにこりと笑います。
「こんにちは。何かありましたか?」
「忙しいところにごめんね。セブルスにお願い事があって」
言葉を聞いて振り返ると、教卓前にいるスネイプ先生が見るからに嫌そうな顔をしていました。リーマスさんは申し訳なさそうな顔をしつつ、言葉を続けます。
「今月の満月の日のことなんだけれど、3年生のDADAの授業が入っているんだ。
休講にしても良いのだけれど、もしよかったらセブルスに1日交代してもらいたいと思って」
言葉を聞いて私はカレンダーに視線を向けます。いつしか満月の周期はカレンダーに書かずともわかるようになっていました。
深く黙り込んだ私を他所に、不服そうな顔をしていたスネイプ先生が短く問いかけます。
「……校長には?」
「もう相談はしてある。ダンブルドアも1日なら、と了承してくれたよ」
不服そうなスネイプ先生はずっと不服そうなままでした。それでも私がじっと見つめていると、彼とはたと目が合い、心底鬱陶しそうな表情をしつつも、諦めたような溜息をつきました。
「………。考えてはおこう」
「ありがとう」
リーマスさんはそこでにっこりと笑顔を浮かべました。それと相対してスネイプ先生は嫌そうな顔をしていました。
「あ、ちょっと待っててください」
お話が終わったあたりを見計らって、私はリーマスさんに声をかけます。振り返ったリーマスさんは小首を傾げていました。
私は笑顔で呼び寄せ呪文を使って、自室から可愛らしい装飾がされた缶を持ってきました。リーマスさんにそれを手渡します。
「この前、ハニーデュークスにお出かけしてきたんです。沢山買ったのでよかったら貰ってください」
「こんなにいいのかい?」
「いつもお世話になってますから」
リーマスさんの好きなお菓子の詰め合わせを手渡しながら、私はにっこりと笑顔を浮かべます。
「どれも私の好きなものだ!」と笑顔を返して下さるリーマスさんに幸せすら感じます。
そのまま二言三言お話して、戻っていったリーマスさんを見送って、振り返ると不服げだったスネイプ先生がより一層機嫌が悪くなっていることに気が付きました。
そんなにもリーマスさんの代わりをするのが嫌なのでしょうか。私は彼に近づいておずおずと問いかけます。
「…どうしました?」
「どうした、とは?」
「なんだか、不機嫌そうに見えたので」
素直にそう答えるとスネイプ先生はじっと私を睨むように見つめたあと、すぐに作業へと戻ってしまいました。
「余計な詮索をする暇があるのならば、調合でもしていたまえ」
「?」
こてりと小首を傾げて、私はふいと背を向けたスネイプ先生にはてなを飛ばしていました。