雨はこれ以上酷くはならないであろうと思うくらいに降り注いでいました。毎回欠かさずに試合を見ている私達ですが、玄関を出た瞬間にちょっと諦めたくなってしまいます。
杖で生み出す傘だとすぐに飛ばされてしまいそうなので私は合羽を着込んで観客席の方へと向かいました。直接雨に打たれると流石に寒さに身体が震えます。

今日の対戦はグリフィンドール対ハッフルパフです。元々はグリフィンドール対スリザリンだったのですが、シーカーであるドラコくんが腕を怪我をしているのでスリザリンはハッフルパフと交代となった試合でした。

始まった試合はただただ時間が過ぎているようにも思えました。この豪雨の中でハリー達だけではなく、誰も彼もスニッチを見つけることが出来ないでいるのです。
応援の声ですら時折響く雷鳴にかき消されてしまいます。

「せ、選手達に雷が当たったりしませんよね…」

空に瞬きのような光が走る中、不安になった私が隣のスネイプ先生に問いかけます。選手達はびしょ濡れになりながら空を駆け回っているのですから、雷が選手向かって落ちることだって、ないとは言い切れません。

「早く試合が終わるのを願うばかりですな」

小さく唸るようにそう答えたスネイプ先生は見るからに不機嫌そうです。この大雨に彼も霹靂としているようです。

私が短く苦笑を返した瞬間、突然競技場全体に気味が悪い沈黙が降りて行きました。と、同時に背中にはしる悪寒。
周りを見渡すと、観客席にいる生徒達が寒さに自らの肩を抱き寄せている様子が伺えます。そしてバッと上空を見上げるとそこには100体以上の吸魂鬼達が集まってきていました。
グラウンドから一切の音がなくなったような気がするほど、誰もが息を潜めていました。そんな中、誰よりも早く立ち上がったのはダンブルドア校長先生でした。

校長先生は素早く杖を振るい、その杖先から守護霊を呼び出して吸魂鬼達を追い払っていきます。
その時、箒に乗っていたハリーの姿がふらりとよろめいたのが見えました。そしてそのまま箒を手放して落ちていくハリーに、私の肝が冷やされ吐き気すら覚えます。
私がハリーに向かって杖を振るうのと、ダンブルドア校長先生が地面に向かって杖を振るうのはほぼ同時でした。

地面と追突したハリーを見て、私は観客席から飛び出し、グラウンドへと向かいます。
泥々の土の中で倒れるハリーの傍に駆け寄ると、ダンブルドア校長先生が既にハリーの横で魔法で担架を生み出していました。
ハリーの身体をゆっくりと浮かび上がらせて担架に乗せ、私は医務室に向かうのを静かについていきます。
医務室に横たえられたハリーを見たマダム・ポンプリーからの悲鳴と共に治療をされていきます。土まみれになっているものの、命に別状はなさそうです。

ダンブルドア校長先生の、ここまでの怒りは初めて見るものでした。吸魂鬼達は今回のことを酷く咎められ、城内に立ち入ることを禁じられました。

そしてハリーの愛用の箒であるニンバス2000は、空から落ちた時に飛ばされて、よりにもよって城の横にある暴れ柳にぶつかってしまいました。
近づくものに対して何もかも攻撃する暴れ柳は、ぶつかってきた小さな箒を粉々に砕いてしまったのです。

季節は気が付けば、霜が降りる時期となっていました。


†††


「ホグズミードに行くが君は?」

スネイプ先生から掛けられた言葉に私はもやもやしていたその気持ちも忘れて、目をぱちぱちと何度も瞬かせてしまいました。
フェインを抱えたまま固まっている私に、スネイプ先生は怪訝そうな顔をしました。

「なんだね」
「いえ…、貴方からお出かけのお誘いしていただけるなんて、とっても珍しかったので…」

はにかみながらフェインを肩に乗せ直します。今日は生徒達もホグズミードに行ける日でもあります。普段でもお誘いは珍しいというのに、そんな生徒達もいっぱいいるであろう日にお誘いを受けるとは思ってもいなかったのです。

私の挙動にスネイプ先生は少し早口になりつつ呆れたように声をかけます。

「魔法薬の買い出しついでに見回りだ。
 行かないのかね」
「行きます! ちょっと待っててください。すぐに準備しますから!」

「フェインもここで待っててください」と肩に乗せたフェインを机に下ろして、私は足取り軽く自室に戻ります。
スネイプ先生とのお出かけは、特別何かあるというわけではありませんが、なんだかとっても楽しいのです。

コートを羽織ってちらりと鏡を見て髪の毛を手で梳いて整えて。途中で椅子に掛けたままだったマフラーを引っ掛けて、スネイプ先生が待つ地下牢教室に戻ります。

「さて、行きましょう!」

意気揚々と声をかけて、机で待っていたフェインを抱えようとすると、私の指先からフェインが逃げて行きます。
きょとんと首を傾げると、鎌首を上げて私を見上げたフェインが、ふるふると首を左右に振ります。
机の前でしゃがみこんで、私は彼と視線を合わせます。

「お留守番してます? フェイン」

問いかけると彼はこくりと頷いて、再び蜷局を巻いてお休みの体制に入ります。
にこりと微笑んで、フェインのひんやりとする身体を撫でてから立ち上がると、私達のことを見ていたスネイプ先生と目が合います。
ぱちりと瞬きを1回して曖昧に微笑むと、スネイプ先生は短く鼻を鳴らして先に地下牢教室から出て行ってしまうので、私は慌てて彼の背中を追いかけました。


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