クリスマス休暇はあっという間に終わり、授業が通常通り始まりました。

スネイプ先生は普段通りの様子だったので、そこだけはほっと肩をなでおろします。
罪悪感だけが私を包んでいて、でも再び掘り返すのも怖くて、私は自己満足も含めていつもよりも少し高級な紅茶を彼の紅茶ストックのところに増やしておくだけにとどめていました。

そして今日も朝早くに起きだした私は大きめの鞄に食べ物と、そして日刊預言者新聞を入れてこっそりと禁じられた森に向かいます。
いつものように洞窟に向かって、顔をのぞかせると、黒い犬が起き出してきて。いつものように私の肩に乗ったフェインと一緒に挨拶をして。
そうしてから、私が食べ物を広げている間、いつもとは少し違って黒い犬は私の鞄からはみ出している日刊預言者新聞を注視していました。

新聞には無言で怒鳴り散らしている怖いシリウスの顔写真が動いています。
魔法省が中々見つけられないシリウスに対して、『吸魂鬼の接吻』を執行することを許可したのです。新聞にはそれを大々的に報じていました。

私は静かに黒い犬から視線を外します。サンドイッチを取り出して振り返ると、そこに黒い犬の姿はなく、全く同じ位置に裸足の男の人がいました。
男の人は怒りの顔は浮かべていないものの、日刊預言者新聞の1面に写る顔と同一人物でした。

威嚇しているのかしていないのか、フェインが彼を見上げて、短くおざなりに鳴きました。

私はじっと彼を見つめてから、静かに微笑みを浮かべます。

「貴方は…、シリウス・ブラックですね。
 アニメーガスだったのですか」

私の微笑みは変わりません。私の前に現れたシリウスの姿に喜びすら感じていました。

人の姿をしている彼をぎゅうと抱きしめたい衝動を抑えて、私は取り出したサンドイッチをそのまま彼に差し出します。
シリウスは私の姿をじぃと見ながら、私の前に立ち尽くしていました。

「驚かないのか」
「驚きましたよ。とっても」

今現在、魔法省がどう動いているか知って欲しくて新聞を持ってきたわけですが、まさか人の姿を現してくれるとは思いませんでした。
私の肩から滑り落ちてきたフェインを撫でながら、私はシリウスを見上げます。

「そして今はどうしようか迷っているところです。
 でも、とりあえずご飯を食べながら考えます? その様子ですと貴方もお腹減ってるでしょうし」
「………」

深く黙り込んだシリウスが、じっと私を見下ろしたあと、黒い犬の時と同じように近くまで来て座り込みました。
私が差し出しているサンドイッチを受け取って、口に運んでいきます。今日は私もここで朝食をとってしまおうと、私もサンドイッチを口にしました。
2人で食事をしながら、淡々と会話がされていきます。

「俺が怖くないのか?」
「噂通りの悪い人だとは思っていませんから」
「どうして」
「だってとっても可愛らしい犬でしたもの」

ふふと思い出すように笑うと、シリウスは目に見えて納得はしていないと言わんばかりの表情をしていました。私の微笑みが苦笑に変わります。

「それにフェインは悪い人には懐きませんから」

付け足すようにそう言って、私はフェインの身体を撫でます。ちろちろと舌を出すフェインが返事をするかのようにまたひとつ鳴きました。
じっとフェインも見つめたシリウスが、フェインに手を伸ばして身体を撫でます。フェインは特別威嚇などすることもなく、するすると大人しく蜷局を巻いていました。

ひとつサンドイッチを食べきったシリウスに、もうひとつ差し出します。彼はまたそれを受け取って口に運んでいきます。

「当事者からお話を聞くのもいいかと思いまして。
 何故、脱獄してここまで来たのか、お話していただけます?」

問いかけると、シリウスは深く深く黙り込みます。それでも少ししてゆっくりと話してくださいました。

そして彼は語ります。

まず、最初に彼は人殺しなどしていない、無罪であるということ。

昔『友達』のために違法にアニメーガスになったということ。
そのおかげでアズカバンでも正気を保っていられたということ。

そして、彼を裏切り、人を殺し、アニメーガスの能力でネズミとして生きているピーター・ペディグリューがまだこのホグワーツにいるということを。

話終えたあと、シリウスはどこか不安げに私を見ていました。

「……信じるか? 俺を」
「信じましょう」

話を聞いて私は即答していました。シリウスの言葉が真実だと『知って』いますし、それに、貴方は昔、私のとんでもないお話を信じてくれたのですから。最初から疑う理由なんてないのです。

「お前、ここの教師だろう? いいのか。脱獄者を匿っていても」
「今は…、そうすることしか私には思いつかないんです。
 貴方の話を私は信じます。ですが、世間は簡単に信じてくれるかどうか…」

魔法省は『吸魂鬼の接吻』まで許してしまいました。シリウスが無罪を訴えたとしても聞く耳を持たない可能性の方が高いのです。
目の前のシリウスも苦々しい顔をしていました。彼自身もわかってはいるのでしょう。だからこそ、脱獄をして、誰にも打ち明けずにここまで来たのでしょうから。

「貴方はピーター・ペディグリューを殺すのですか?」

問いかけると、シリウスは少し止まって、重々しく頷きました。『昔』はシリウスは子供の私を気遣って、捕まえたいとしか言いませんでした。

「あいつは、俺も、リーマスも、…ジェームズも裏切ったんだ。殺してやる」

ですが、今はもうシリウスは真っ直ぐに私を見て、復讐に目を輝かせていました。

無罪の彼を、本当に有罪にしてしまうわけにはいきません。
でも、だからって、リーマスさんまでも裏切ったピーター・ペディグリューを許すわけにはいきません。

私は怒りの表情を浮かべているシリウスの手を取ります。びっくりして肩を震わせたシリウスに私は微笑みかけます。

「殺人のお手伝いはしません。貴方を本当の犯罪者にしてしまうわけにはいかないのですから。
 ですが、貴方の無罪を必ず証明させます」

シリウスの手をぎゅうと握って、私も静かに淡々と声を出します。私の表情を見てシリウスもにやりと笑います。

「まずはピーター・ペディグリューを捕まえないといけませんね」


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