「なんてことなの!」

ハーマイオニーの叫び声が響きます。彼女はまだ知らないのです。ハーマイオニーやハリーとロンはまだシリウスのことを大いに誤解しているのです。

「先生はその人とグルなんだわ! 私、誰にも言わなかったのに!」
「待ってください」

私はハーマイオニーに声をかけます。パニックに陥っているハーマイオニーと呆然としているハリーが言葉を続けます。

「僕は先生を信じてた…。それなのに、先生はずっとブラックの友達だったんだ!」
「それは違う」

リーマスさんは静かに答えるだけでした。ずっと友達でいられなかったことを、彼はきっと後悔しているのでしょうから。
ハーマイオニーは薄く涙を浮かべながらリーマスさんや私の前に立ちはだかります。

「ハリー、騙されないで。この人達はブラックが城に入る手引きをしていたのよ。
 この人も貴方の死を願っているんだわ…。この人、狼人間なのよ!」

空間を静寂が支配しました。私は少し不安そうな表情を浮かべて、ちらりとリーマスさんを見ます。
彼は青ざめた顔色をしつつも、静かに落ち着いた声で話しだしました。

「いつもの君らしくないね、ハーマイオニー。残念ながら3問中1問しかあっていない。
 私はシリウスが城に入る手引きはしていないし、もちろんハリーの死を願ってなんかいない。
 しかし、私が狼人間であることは否定しない」

ロンが呻き声をあげて立ち上がり、リーマスさんから離れそうとします。が、足の痛みに小さく悲鳴をあげて、また座り込んでしまいます。
はっと気付いたリーマスさんが心配そうな表情を浮かべたまま、ロンに駆け寄ろうとしますが、ロンはキッとリーマスさんを睨みあげます。

「僕に近寄るな、狼男め!」
「グリフィンドール、10点減点」

私の声は自分でもわかるほどに凍えていました。ロンを真正面からじっと見つめながら、諭すように私は語りかけます。

「狼人間だからといって、侮辱が許される訳ではありません」
「減点がなんだって言うんだ!」
「ロン。リク先生のお義父さんも私と同じ狼人間なんだ。それでもそう言えるかい?」

リーマスさんは酷く優しくそう言いました。ロンはもちろん、ハリーやハーマイオニーも驚きの表情を浮かべる中、私は子供のようにむすと口を閉ざします。
狼人間であるからといって、リーマスさんが悪者というわけではないのです。隣で聞いていたシリウスが、じっと私を見たあとに、ぽすと私の頭に手を乗せました。不服げに口を尖らせていた私が、少しだけ気持ちを落ち着かせます。

リーマスさんは不貞腐れている私の様子に苦笑を浮かべて、次にハーマイオニーに問いかけます。

「……ハーマイオニー、いつごろから気づいていたんだい?」
「ずーっと前から。スネイプ先生のレポート書いた時から」

スネイプ先生が出した宿題。それには狼人間の症状についてや、月の満ち欠け図を調べてくるものがありました。
やっぱりハーマイオニーは気付いてしまっていたのです。

「スネイプ先生がお喜びだろう」
「……ごめんなさい」

私はリーマスさんへと謝罪を告げます。私がきちんとスネイプ先生を止められていれば…。ですが、リーマスさんは朗らかに微笑むだけでした。

「リク先生が謝る事ではないよ。確かにスネイプ先生は私の症状が何を意味するのか誰か気付いて欲しいと思ってあの宿題を出しただろうけれども。
 それにきっと宿題がなくとも彼女なら気付いてしまっただろうさ。
 君は私が今までに出会った君と同年齢の魔女の、誰よりも賢いね」
「違うわ。私がもう少し賢かったら、みんなに貴方のことを話していたわ」
「しかし、もう、みんな知っていることだ。少なくとも先生方は知っている」

リーマスさんは言葉を続けるだけでした。ロンは息をのみます。

「ダンブルドアは、狼人間と知っていて雇ったっていうのか?」
「ダンブルドアは私が信用できると何人かの先生を説得するのに、随分ご苦労なさった。…リク先生は私の味方をしてくれてたみたいだけどね」

私に微笑むリーマスさんに、私ははにかみを返します。リーマスさんと同じ職場につけるだけでも私は幸せだったのですから、助言しないわけは無いのです。
ハリーは自身から溢れ出す苛々を吐き出すように大声を張り上げました。

「そして、ダンブルドアは間違ってたんだ!
 先生はずっとこいつの手引きをしてたんだ!」
「私はシリウスの手引きはしていない」

リーマスさんは静かに言葉を繰り返しました。リーマスさんはシリウスと会うのも今日が十数年ぶりなのですから。

「訳を話させてくれれば説明するよ、ほら」

リーマスさんは優しげにそう声をかけて、先程奪った杖をハリーとハーマイオニーに返します。

「君達には武器がある。私達は丸腰だ。聞いてくれるかい?」

ハリー達は未だ困惑の表情を浮かべていました。リーマスさんは小さく微笑みを浮かべます。私も杖を収めながら、どさとベッドの端に座ったシリウスの隣に座ります。

立ったままのリーマスさんが静かにハリー達への説明を始めます。

ハリー達が城を抜け出さないように忍びの地図で見ていたリーマスさんは、忍びの地図にハリー達と一緒にいるピーター・ペティグリューの名前を見つけました。そして次にシリウスの名前も。
そこで全てを疑い始めたリーマスさんは、真相を自身の目で確かめるために、この叫びの屋敷まで来たのです。

リーマスさんの視線がロンが握り締めているネズミに向きます。

「ロン、ネズミを見せてくれないか?」
「なんだよ…、スキャバースになんの関係があるんだ?」
「大ありだ」

ロンは酷く躊躇いますが、キーキーと鳴いている自分のペットをゆっくりとリーマスさんに見せました。
じっとそのネズミを見つめるリーマスさんは息を殺しているようでした。

「それはネズミじゃない」

今までずっと黙っていたシリウスが突然声を出しました。肩を震わせて驚くロン達を余所に、シリウスの視線はじっと殺意すらも含んでネズミを睨んでいました。

「『動物もどき』だ。名前はピーター・ペティグリュー」


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