「…みんなどうかしてる」

ロンが私やリーマスさん、そしてシリウスの顔を見て呆然と呟きます。ロンが持ったネズミは変わらずキーキーと鳴き続けていました。

「ピーター・ペティグリューは死んだんだ! こいつが12年前に殺した!」
「殺そうと思った。だが、小賢しいピーターに出し抜かれた。今度はそうさせない!!」

突然、シリウスがロンに近寄り、ネズミに向かい、手を伸ばします。ロンの折れた足に負荷がかかり、悲鳴が上がりました。

「待ってください!」
「シリウス! よせ!!」

はっとして声をかけた私に合わせてリーマスさんもシリウスを止めてくださいました。
私はシリウスの前に立って、正面から彼の肩を抑えます。真正面から見る彼の怒った顔はとても怖くて、怖気ついてしまいそうになりますが、リーマスさんも駆け寄って、シリウスの肩に触れて抑えてくださいました。

「待ってくれ! そういうやり方をしては駄目だ。みんなにわかってもらわないと、説明しないと…」
「あとで説明すればいい!」
「ロンはあいつをペットにしていたんだ! 私にもまだわかってない部分がある!
 それに、ハリーだ。君はハリーに真実を話す義務がある!」

リーマスさんが力強く声をかけます。シリウスはじっとネズミを睨んだまま、舌打ちを零しそうな勢いで見るからに苛立っていました。

「いいだろう、それなら。君がみんなになんとでも話してくれ。ただ、急げよリーマス」

シリウスはネズミから視線を外さないままに、今にも動いてしまいそうなのを留めて佇んでいました。ロンも苛々と言い返します。

「ピーターなんかじゃない! こいつはスキャバースだ!
 ペティグリューが死んだのを見届けた証人がいるんだ。通りにいた人達が大勢…」
「見てはいない。見たと思っただけだ」

シリウスがボソと言葉を紡ぎ、リーマスさんが言葉を続けました。

「シリウスがピーターを殺したと、誰もがそう思った。…私自身もそう信じていた」

人が集まる大通りで。周りに聞こえるようにシリウスへと声をかけ、ジェームズさんを殺したのはシリウスだと吹聴し、通りを破壊し、自身の指を傷付け、シリウスがやったように見せかけて。
ピーター・ぺティグリューはネズミとなって世間から逃げおおせたのです。
ジェームズさんの家の『秘密の守り人』が誰だったのかを知るシリウスを陥れてから。

その時、ギィと音がして私達がいる部屋の扉がひとりでに開きました。ハリーやロンが青ざめた表情で声を上げます。

「誰もいない…」
「ここは呪われているんだ!」
「そうではない。『叫びの屋敷』は決して呪われてはいなかった。村人がかつて聞いたという叫びや吼え声は私の出した声だ」

リーマスさんの言葉を聞いて私の表情は暗く陰ります。

リーマスさんが狼人間に噛まれたのは、リーマスさんがまだ子供の頃でした。
当時はまだ脱狼薬の開発もされてはおらず、リーマスさんは満月の夜になる度に狼人間になっていました。

凶暴さを抑えることも出来なかった当時。ホグワーツに入学するのは不可能と思われていました。ですが、そんな中、ダンブルドア校長先生だけはリーマスさんの入学を許してくださったのです。
その対策として、暴れ柳とこの屋敷が用意され、リーマスさんは1ヶ月に1度、この屋敷で過ごしていたのです。

噛むべき人間のいない狼人間は、自傷行為を始めます。リーマスさんは自分の身体を傷付け、叫び声はホグズミードまで轟いていました。

そんな中、リーマスさんの親友であるシリウス、ジェームズさん、そしてピーター・ペティグリューが、リーマスさんのために無許可の『動物もどき』になり、人間ではなく、動物としてリーマスさんと一緒に過ごしたのです。
狼人間に変身したあとも、叫びの屋敷を抜け出し、校庭や村を歩き回ったりも出来るようになったのです。それはとってもとっても危険なことではありましたが、リーマスさんの心は確かに救われていました。

ですが、リーマスさんの表情が暗くなります。

「この1年というもの、私はシリウスが『動物もどき』だとダンブルドアに告げるべきかどうか迷い、しかし、告げはしなかった」

ダンブルドア校長先生は、学生の時も、大人になったあとも、リーマスさんが狼人間であるのと知っていたとしても、彼を助けてくださっていました。
シリウスが学生時代の頃から『動物もどき』だということをダンブルドア校長先生に伝えて、校長先生に見限られてしまうことが、ダンブルドア校長先生の信頼を裏切っていたと認めることが、躊躇わしかったのです。

リーマスさんはお話をしながら自嘲に近い笑みを零していました。

「……だから、ある意味ではスネイプの言うことが正しかったわけだ」

スネイプ先生の名前を聞いて、シリウスが視線を上げます。

「スネイプ? なんの関係がある?」
「シリウス。スネイプがここにいるんだ。あいつもここで教えているんだ」

リーマスさんはシリウスにそう軽く説明します。次にリーマスさんはハリー達へと再び向きます。

「スネイプ先生は私達と同期なんだ。私がDADAの教職に就くことに、先生は強硬に反対した。
 ダンブルドアに私は信用できないと、この1年間言い続けていた。
 …スネイプなりの理由があったんだよ。シリウスが仕掛けた悪戯でスネイプが危うく死にかけたんだ。
 その悪戯には私も関わっていた」

月に一度。必ず体調を崩し、どこかへと行くリーマスさんを疑問に思った当時のスネイプ先生は、リーマスさんが『暴れ柳』の中に行くことを知ります。
そして、その『暴れ柳』への行き方をシリウスが教え、スネイプ先生は狼人間になったリーマスさんの姿をちらりと見てしまうのです。

そのままではスネイプ先生狼人間となったリーマスさんに襲われる可能性もありましたが、すんでのところでジェームズさんがそれを助け出したのだというのです。

「当然の見せしめだったよ。こそこそ嗅ぎまわって、俺達のやろうとしていることを詮索して…痛。なんだ、リク」

にぃと悪そうに笑うシリウスの腕をつんつんと強めに突いていると、シリウスが不思議そうに私の手を掴みます。ふいとそっぽを向く私に、リーマスさんは苦笑を零しながら言葉を引き取りました。

「リク先生もスネイプと同じ魔法薬学の助教授なんだよ」
「彼も大概意地悪なので、強くは言えませんが…、ちょっとやです」

ぷいと拗ねたように口を尖らせると、シリウスは一瞬だけぽかんとしたあとに、心底嫌そうな顔をしました。もう。相も変わらず仲が悪いんですから。

ハリーがお話を聞いて考え込みながらも、口を開きます。

「だからスネイプは貴方が嫌いなんだ。スネイプは貴方もその悪ふざけに関わっていたと思ったわけですね?」
「その通り」

彼の声がしました。


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