今まで誰も居ないと思っていた空間から、スネイプ先生が突如現れたのです。ハーマイオニーの悲鳴が上がり、シリウスはさっと立ち上がります。私も急なことにやはり驚いてしまいます。
スネイプ先生の手にはハリーの持っていた透明マントが握られていました。それを使って隠れていたのです。

「暴れ柳の根元でこれを見つけましてね。ポッター、なかなか役に立った」

スネイプ先生の手には杖が握られており、杖先はぴたりとリーマスさんに向けられていました。

「君の部屋に行ったよ、ルーピン。いつまで経っても帰ってこない助手がいたのでね、不本意ながらに。だが、それはまことに幸運だった」

ぴりぴりとした殺気を漂わせるシリウスやスネイプ先生。私はスネイプ先生とリーマスさんの間、先生が向ける杖先の前に立ってスネイプ先生を見上げました。

「少し待ってください」
「いいや。待ちはしない。
 …だが、何故、君もここにいる?」

怒っている彼の顔は何よりも怖くて思わず一瞬だけ怯んでしまいますが、私はそれでも凛と向き直って口を開きます。

「今年中ずっと彼のお手伝いをしていましたから」
「出鱈目を言うな!」
「私は貴方に嘘は言いませんよ」

私は寂しく微笑みます。スネイプ先生を真正面から見つめて、私はただ微笑みを浮かべます。

「聞きたくはないでしょうが、聞いてください。貴方はまだ全てを聞いてはいないのですから」
「話ならここから出てからでも構わないだろう。何、柳の木を出てすぐに吸魂鬼を呼べばそれで済む」

彼が掲げようとする杖先を遮るように私は立ちます。スネイプ先生は間違いなく舌打ちをしました。

「どけ」
「お断りします。貴方は彼のことになると少し熱くなりすぎです」
「何を知ったふうに」

何年も連れ添ったと思ってしまう、出会ってからたった3年程しか経っていないスネイプ先生がそう吐き捨てました。
再び口を開こうとする私を、遮るように、言葉を続けました。

「来い。全員だ。我輩が人狼を引きずっていこう。吸魂鬼がこいつにもキスしてくれるかもしれん」

スネイプ先生は目の前に立った私を押しのけて、リーマスさんへ再び杖先を向けました。遮るように腕を伸ばす私。その瞬間。

「『エクスぺリアームス(武器よ去れ)』!!」

声が重なりました。ハリーと、そして偶然合わさったロンとハーマイオニーの呪文が、スネイプ先生に直撃し、彼は足元から吹っ飛んで壁に激突しまいました。

「…スネイ…ッ」

呼びそうになった名前が途中でつまり、気付けば私はスネイプ先生の元へ駆け寄っていました。

「『エピスキー(癒えよ)』!」

何よりも早く治療の呪文を唱えて、私はスネイプ先生の状態を確認します。青白い頬に手を伸ばして軽く触れさせます。
気絶してしまったようですが、命に別状はないようでした。安否を確認してようやく安堵の息を吐きだします。

意地悪な彼が悪いとは言え、これはやりすぎです。小さく溜息をついて、私はハリー達に向きました。ハリーとロンは今までにないほどの困惑の表情を浮かべていますし、ハーマイオニーに至っては泣き出しそうな顔をしています。

「少しやりすぎですよ」

強く怒ることもできない私はそう彼らに告げて、気絶したままのスネイプ先生を魔法でベッドにもたれかかるようにして楽にさせます。
すぐに起こしてしまっても、また押し問答が始まってしまうだけです。少しの間、このまま眠っていて貰った方がいいでしょう。私は言葉を続けます。

「ですが、お話の続きは出来そうです」
「リク先生も、2人の話を信じているんですか?」

ハリーが私を見てそう言います。私は困惑の色を見せるハリーを見て、そして、ちらりとシリウスやリーマスさんを見て、微笑みを零しました。

「信じます。私は信じて、今年中ずっと彼を助けていたのですから」
「……証拠を見せよう」

そしてシリウスがすっと私の隣に並びました。私も1度だけ逡巡しますが、彼に私の杖を貸しました。リーマスさんも、いつもは見た事ないような苛立ちを浮かべて、杖先をネズミへと向けていました。

「無理にでも正体を現させる。もし本当のネズミだったらこれで傷つくことはない」

リーマスさんも真っ直ぐにロンを見つめて手を伸ばします。ロンも躊躇っているようでしたが、やがて観念するようにゆっくりとネズミを差し出しました。

リーマスさんとシリウスの2人が声を揃えて、ネズミへと呪文を唱えました。
杖先から青白い光が放たれました。光の当たったネズミは一瞬だけ宙に浮き、そしてネズミがめきめきと大きくなり、頭が出来て、手足が生えて、次の瞬間には、ピーター・ペティグリューが姿を現していました。

クルックシャンクスがベッドの上で背中の毛を逆立てて、激しく唸っています。リーマスさんが努めて朗らかな声で声をかけました。

「やぁ、ピーター。しばらくだったね」
「リーマス…、シ、シリウス」

ピーター・ペティグリューがシリウスの名前を呼んだ時、シリウスの杖腕が上がりましたが、私はその腕に触れて首を左右に振ります。
リーマスさんがシリウスの代わりに声をかけます。

「ジェームズとリリーが死んだ夜。何が起こったのか、いまお喋りしていたんだかね」
「リ、リーマス、君がブラックの言うことを信じたりしないだろうね…、あいつは私を殺そうとしたしたんだ」
「そう聞いていた」
「こいつはまた私を殺しにやってきた!」

ピーター・ペティグリューが突然大声を出して、シリウスを指さします。

ピーター・ペティグリューの瞳はひとつしかない扉を見て、しっかりと板張りがされた窓を見ていました。
ですが、ここには逃げ出させる場所などシリウスが立ちはだかる扉しかないのです。ここはリーマスさんが簡単に抜け出してしまわぬように建てられたものなのですから。

「よくもそんなことを!」

犬歯を剥き出しにして怒りの声を上げるシリウスを抑えて、私もピーター・ペティグリューを睨みます。
ピーター・ペティグリューはきょろきょろとしながらも次にリーマスさんに顔を向けました。

「リーマス! 君は信じないだろう…? 計画を変更したなら、シリウスは君に話しただろう?」

リーマスさんは先程まで死んでいたと思っていた友人を見下ろして、静かに言葉を紡いでいました。

「私がスパイだと思っていたら話さなかっただろうな。
 シリウス、多分それで私に話してくれなかったのだろう?」
「…すまない、リーマス」

狼人間は、大きな括りだけを見られ、闇の陣営の仲間だとされていたこともありました。
スパイとして1番疑わしかったのでしょう。リーマスさんは特別気にしている風もなく、ピーター・ペティグリューから視線を逸らさないままに、シリウスへと問いかけ返していました。

「気にするな、我が友パッドフット。その代わり、私が君をスパイだと思い違いしたことを許してくれるか?」
「もちろんだとも」

シリウスがここに来て初めて安堵したような微かな笑みを浮かべていました。そして、袖を捲くり、杖を上げます。

「一緒にこいつを殺すか?」
「あぁ、そうしよう」

リーマスさんも厳粛にそう答えます。私はちらりとシリウスを見上げて、少しだけ留めるように彼の服の裾を掴みますが、シリウスは杖を握っていない反対の手で、私の手に触れただけでした。

「やめてくれ、やめて…」

ピーター・ペティグリューが小さく喘ぎます。そして這うようにしてロンの傍へと向かいました。

「ロン、私はいい友達…、いいペットだたろう? 私を殺させないでくれ…」

ロンは表情を思い切り歪めて、あまりのショックに後退りをしていました。ロンはなんだかんだ言いながらもスキャバーズを大切にしていましたから。

「自分のベッドにお前を寝かせてたなんて!」
「殺させないでくれ…。私は君のネズミだった…」
「人間の時よりもネズミの方が様になるなんていうのは、ピーター、あまり自信にならない」

シリウスが吐き捨てるようにそう言うと、ピーター・ペティグリューはわっと鳴き声を上げて、前のめりになりながらハーマイオニーのローブの裾を掴んでいました。

「優しいお嬢さん…賢いお嬢さん…、貴女ならそんなことはさせないでしょう…? 助けて……」

真っ青に青ざめて怯えた表情をするハーマイオニーに、私は思わず駆け寄って、守るように彼女の身体を抱き寄せます。
掴まれたローブを引っ張って、ピーター・ペティグリューからハーマイオニーを引き離します。


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