ピーター・ペティグリューはそしてハリーの方へと向きました。
「ハリー…ハリー…、君はお父さんに生き写した…」
「ハリーに話しかけるとはどういう神経だ!?」
シリウスが大声を出しました。
「ハリーに顔向けができるか? この子の前でジェームズのことを話すなんてどの面下げて出来るんだ!?」
激昂するシリウス。それでもピーター・ペティグリューはハリーへと両手を伸ばして、ハリーの方へと少しずづ近づいていきました。
「ハリー、ジェームズなら私が殺されることを望まなかっただろう…」
変わらずハリーに語りかけるピーター・ペティグリューに、リーマスさんも痺れを切らしてシリウスと共にピーター・ペティグリューをハリーから引き離しました。
床の上に放られたピーター・ペティグリューは痙攣するようにしてわっと泣き出しました。私が抱き寄せていたハーマイオニーが恐怖に私の腕を掴むのを感じます。
大声で泣き喚いていたピーター・ペティグリューが訴えるかのような声を上げました。
「シリウス! 私が殺されかねなかったんだ!」
「それなら死ねば良かったんだ!! 友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君のためにそうしただろう!」
シリウスが吼えると、ピーター・ペティグリューの肩が震えます。リーマスさんがそんなピーター・ペティグリューを見下ろしていました。
「お前は気付くべきだったな。ヴォルデモートがお前を殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ」
私は3人の姿をじっと見つめていました。ハーマイオニーが視線を逸らして、私の身体に顔を埋めていました。
「やめて!」
ハリーが叫び声を上げました。ハリーは駆け出して、踞るピーター・ペティグリューの前に立ちふさがり、2本の杖と向き直っていました。シリウスとリーマスさんはショックを隠せない表情でハリーを見つめていました。ハリーに止められるとは思ってもいなかったのでしょう。
ハリーはちらりとピーター・ペティグリューを見下ろして、顔をしかめたあとに、静かに言葉を続けました。
「こいつを城まで連れて行こう。僕達の手で吸魂鬼に引き渡すんだ。…こいつはアズカバンに行けばいい」
「ありがとう! ありがとう、ハリー!」
「放せ。お前のために止めたんじゃない。僕の父さんは、親友が…お前みたいなもののために殺人者になるのを望まないと思っただけだ」
ハリーに近づき、ハリーの手を握るピーター・ペティグリューでしたが、ハリーは手を払い除けて、吐き捨てるように言いました。
空間が一気に静まり返りました。シリウスとリーマスさんが顔を見合わせて、そして次にハリーを見つめて、2人同時に静かに杖を下ろしました。
「………よかったです」
私はほっと息を付きます。ハリーの言うとおりリーマスさんやシリウスが人殺しになる必要なんかありません。自然と握り締めていた手を緩く解きます。
ピーター・ペティグリューを吸魂鬼に引き渡せば、シリウスの無実が証明され、彼が追われることももうなくなるのです。
リーマスさんが杖を使い、ピーター・ペティグリューを縛り上げます。その様子を見ながらシリウスは唸るような声を出します。
「………しかし、もしピーターが変身したら」
「その時は私が彼を殺します」
気付けば私はそう言っていました。恐怖ゆえの私に抱きついていたハーマイオニーはびくりと私を見上げていました。
シリウスもゆっくりと視線を私へと向けます。私は静かに言葉を続けていました。
「今まで言ってはいませんでしたが、個人的に彼が、大嫌いです。
彼らを裏切ったのも、そうですが…、何よりリリーさんを殺したことが許せません」
ひっそりと囁くように言葉を零せば、リーマスさんとシリウスの2人がちらりと不思議そうに私を見ていました。
それもその筈で、彼らからしたら、私とピーター・ペティグリューに何の接点も見いだせないでしょうし、私がリリーさんを知っているということも不自然なのですから。
私とリリーさんは会ったことはありません。前も、今も、会うことが出来る人ではありませんでした。
ですが、スネイプ先生の1番大切な人を、彼から奪ったのは、許されることではありません。私の大好きな人の、1番大切な人を。
じっと黙ったシリウスが握った私の杖を返そうと持ち手部分を差し出してくださいました。ですが私は苦笑を零して首を左右に振ります。
倒れたままのスネイプ先生の近くに寄って、彼の杖をお借りします。私が使っている杖よりも長めに出来た杖を握ります。
「少しの間、彼のをお借りします。貴方が使うよりかは少し良いでしょうから」
「そうだな…。もう少し借りるよ」
杖には相性があります。私自身もスネイプ先生は少し握りづらいとは思いますが、犬猿の仲であるシリウスよりかは少しは良いでしょう。
目を閉じているスネイプ先生を見つめている私に、ハーマイオニーがおずおずと声をかけました。
「あの…スネイプ先生はどうしますか?」
「今起こしてもまたお話を聞いてくれはしないでしょうし、もう少しこのままで」
苦笑を零して、私はスネイプ先生に『モビリコーバス(身体よ動け)』を唱えて、彼を少し浮遊させます。
ふわふわと浮かぶ彼は気絶しているだけとはいえ、本当に死んでしまっているようで、私の胸元が恐怖できゅうと締め付けられます。
確かめるように彼の手を握り、漂う彼を引っ張って歩きながら、遠慮がちな顔をしているハーマイオニーに苦笑を零します。
「彼にはあとで私からゆっくりお話します。貴方達への罰はもちろん無しですよ」
説得は難しいでしょうが、そこはなんとかしないといけません。…そして、今はそれよりも。
じっとスネイプ先生を見上げながら考え事をしていると、シリウスが爪先でピーター・ペティグリューを小突いていました。
「誰か2人、こいつと繋がっておかないと」
「私が繋がろう」
「僕も」
リーマスさんとロンが名乗り出ました。シリウスが杖を振るい重そうな鉄の手錠を空中から生み出す中、私はリーマスさんの方に顔を向けました。
「リーマスさん」
声をかけるとリーマスさんは随分と驚いた顔をして私に振り返りました。どうしてそんなにも驚いた顔をしているのか一瞬不思議に思いましたが、そう言えば『彼』と出会ってからリーマスさんのお名前を初めて呼んだ気がします。
ほぼ無意識のうちにお名前で呼ぶことを遠慮していたのです。
「私の言葉を覚えていたら、まっすぐ私に会いに来てくださいますか?」
「え?」
いつか、とか、どこで、なんて全ての言葉を抜かして、私はリーマスさんへそう言います。
見て分かるほどに混乱の表情を浮かべているリーマスさんに、私は浅く微笑みかけます。
「覚えていたらでいいんです。覚えていたら」
「どういう意味だい? リク」
リーマスさんはやっぱり私を『ちゃん付け』では呼びません。それをひとりで寂しく感じてしまいますが、少し視線を下げつつも私は笑みを浮かべたままでした。
じっとそんな私を見つめていたリーマスさんは、いつものような笑みを浮かべて私の頭に手を乗せて、優しく撫でてくださいました。
私はぱちくりと瞬きを繰り返します。そして、次には思わず頬を緩ませてしまいます。リーマスさんに頭を撫でてもらうのはなんだかとっても心地が良いのですから。
ですが、リーマスさんは次にはぱっと手を離してしまいました。
「ごめんね。なんだか、つい」
「いえ、いいんです!」
今の私はリーマスさんの娘ではないのです。謝罪をつげるリーマスさんに私は慌てて手を振ります。
リーマスさんはじっと私を見つめて、真剣な声をかけました。
「さっきの、覚えているよ。必ず」
私はふにゃりと緩んだ笑みを浮かべました。