静かに扉を開くと、既に生徒達がまだらに集まっていました。私の姿を見て何人かが挨拶してくださいます。
「こんにちは」
「こんにちは。まだ授業は始まらないのでゆっくりしていてくださいね」
声をかけてから私は後ろの席の方にある薬草棚に向かいます。
棚を開いて、私はもう1度必要な材料が足りるかどうかを確認します。記憶と照らし合わせながら数えて、杖を振ります。
折角任されているのですから、きちんと用意しないといけませんからね。
少しすると授業開始の音が遠くから聞こえて、私は薬草棚を閉じ、部屋から出てきたスネイプ先生の傍へと移動しました。
遠い昔に聞いたことがあるような説明を聞いている間、私はただ微笑みを浮かべて不安げな顔をする1年生達…もといハリー達を見ていました。
そこで突然、スネイプ先生がハリーを名指しで呼び、1年生には到底わからないような質問を3つ程投げかけました。
ハリーの父親に個人的な恨みがあるとはいっても、やはりこれは意地悪です。
減点までしたスネイプ先生の横、私は思わず苦笑を零してしまいます。
スネイプ先生の睨むような視線が私に向けられましたが、私は軽く肩をすくめるだけにしておきました。
意地悪な3つの質問の答えを生徒達に書き写させたあと、スネイプ先生はバッと黒板に杖を向けました。
1年生の最初の授業はおできを治す薬の調合です。
「――材料は薬草棚に。作り方は黒板にある」
「材料がどれかわからなかったら私を呼んでくださいね」
ハリー達に声をかけるとまた睨まれます。ですが、私はどこ吹く風。ちょっとやそっとの睨みや嫌味程度では私は動じません。
まだまだ幼い顔をしているハリーや、その他以前は同級生だった面々を見ていると懐かしさがこみ上げてきます。
そしてそれとなくロングボトムくんとフィネガンくんのテーブルの近くを巡回していました。
私の記憶が正しければ…。
やっぱりです。ちらりと2人の鍋を見ると、大鍋を火にかけたまま山嵐の針を入れようとしています。そのままでは鍋が溶けきってしまいます。
作業を進めようとするロングボトムくんを私は慌てて呼び止めました。
「ロングボトムくん、待ってください」
「先生?」
私に呼び止められたと同時に、ロングボトムくんが持っていた山嵐の針が、するりと手から滑り落ちていきました。
さぁっと血の気が引いた私は考えるよりも先にロングボトムくんの腕を引きます。
途端に教室中に充満する緑色の煙。生徒の悲鳴が上がる中、私は杖を振るって煙を換気します。
スネイプ先生が何事かと私達の傍にやってきました。彼は溶けた鍋を見て、先生がじゅうじゅうと音を立てる鍋を『消失』させます。
「馬鹿者! 大方、大鍋を火から下ろさないうちに山嵐の針を入れたんだな?」
「お怪我はありませんか?」
スネイプ先生が怒りの声を上げる横、私は腕を引っ張って原因の鍋から遠ざけたロングボトムくんを見ます。呆然と驚いているロングボトムくんは手の甲に真っ赤なおできが広がっていました。
怪我は最小限で済んだようです。が、どうにも痛々しげです。私は顔を顰めて泣き始めてしまったロングボトムくんの頭をよしよしと撫でました。
「驚いたんですね。大丈夫ですよ。医務室に行けばすぐに治りますから」
「医務室へ連れて行きなさい」
スネイプ先生が近くにいたフィネガンくんにそう告げます。ついでに隣にいたハリーとロンにも矛先を向け、グリフィンドールから1点減点をしてしまいます。意地悪です。
彼らが教室から出て行ったあと、私は苦笑を浮かべたまま軽く先生を見上げました。
「すみません。目が行き届いていなくて」
「黒板には指示通り書かれている」
「手厳しいですねぇ」
再び苦笑を繰り返し、私はちらりと周りを見て他の場所に液が飛び散っていないかを確認します。スネイプ先生は既に他の生徒の間を巡回していました。
そしてそのあとは大きな失敗もなく、無事に1年生の初魔法薬学が終了しました。
杖を振るい、洗う大鍋や試験管を集めていると、スネイプ先生がじとと私を見ていました。
視線が気になってしまって私は先生を見返して苦笑を零します。言葉を待っていると、ゆっくりと先生は話しだしました。
「生徒に甘いのでは?」
「貴方が厳しすぎるので丁度いいと思いますよ」
軽口を返すと、スネイプ先生は再び睨むように私を見ていました。
お得意の『スコージファイ(清めよ)』を唱えながら、私は言葉を続けました。
「ほら、私はどうにも厳しくするというか注意することが苦手でして。
可愛らしい年下ばかりですもの。ついつい甘やかしちゃうんです。
その点は貴方がうまく叱ってあげてください。あ、叱りすぎや意地悪は駄目ですよ?」
笑いながらそういうとスネイプ先生は見るからに不機嫌そうに生徒が提出した試験管の中身を採点していました。
スネイプ先生は採点しつつ、生徒達が作った実際には使用出来ないであろう魔法薬を大鍋に移し替え、空の試験管を積み上げていきます。私は大鍋を洗いながら声をかけました。
「そちらも洗いますよ。研究資料を添削して頂くお礼に」
数瞬止まったあとに片手で示される試験管。
私は微笑みを浮かべて『アクシオ(来い)』で試験管を呼び寄せ、慣れたように『スコージファイ(清めよ)』を唱えていきました。