『氷結02』 

退屈な議題、退屈な奴ら、退屈な会議。

わざわざ嫌がるアスヒを連れてきたというのに、ここまで退屈するとは思わなかった。

「話を聞いているのか!? クロコダイル!」

センゴクの怒鳴り声も遠く聞こえる気がする。
会議中、珍しく怯えるアスヒの姿を見て楽しんでいようと思っていたのに。

「おい、クロコダイル!」
「うるせぇな。聞いてる」

呆れた視線とともにセンゴクに目をくれれば、彼の額に青筋が走る。あんなに毎回怒っていて疲れやしないのだろうか。

クロコダイルの隣ではバーソロミュー・クマが聖書を開いていたし、残りの七武海はいつものように連絡すらせずに不在。
ガープは笑いながら煎餅を食べているし、つるは溜息をつきつつもう何も言わない。

そんないつも通りに進まない会議に、センゴクだけが苛々と頭を悩ませていた。

その時、会議室の扉が開かれた。ひょいと姿を見せたクザンに、センゴクの叱責がまた飛んだ。

「クザン! お前は今までどこにいたんだ!」
「すまんね。大層綺麗な人を見かけて案内してきたのよ」

再び響いた怒声にも、この場にいる人間は慣れているのか誰も気に止めていない。
口では謝りつつも反省している様子が全く見えないクザンも、いつものように静かに席について、次にクロコダイルに視線を向けた。

「クロコダイル。お前の所のメイドちゃんって、もしかして方向音痴?」
「………アスヒに会ったのか」

突然出された話にクロコダイルはクザンを睨みつける。睨まれてもなお、クザンは涼しい顔で肩をすくめていた。

「駄目じゃないの。こんなむさ苦しいトコ女の子1人で歩かせちゃ」
「餓鬼じゃねぇんだ。…放っておけ」

アスヒには海軍大将はいないと言った手前、アスヒとクザンが出会ったのは都合が悪い。
また必要以上に怯えていたら面倒だと思って、顔をしかめていると、無駄口を叩くなと再三センゴクの怒声が響き渡った。


†††


会議が終わり、クロコダイルはさっさと会議室を出る。退屈な会議は嫌いだったし、自分でもよくここまで我慢して会議を聞いていたものだと思う。
そして後ろから追いかけてきたクザンを怪訝に思いつつも、無視してアスヒを迎えに行こうとする。
1人で残したアスヒが拗ねていたらまたご機嫌取りをしなくてはいけないのだろうから。

「なぁ、クロコダイル。ミズミズの実の在り処知らない?」

急に話しかけられた話題に、クロコダイルは振り返って自身を追いかけてきていたクザンを見た。
クロコダイルは、クザンとアスヒの間に何かがあったことを確信しながら、懸念を隠して彼を鼻で笑った。

「知らねぇな」
「…質問の仕方を変えるかな。
 誰がミズミズの実を食べたか、知ってるだろ」

言葉が疑問形ではなく、確信に変わった。それでもクロコダイルは無表情のまま言葉を続けていた。

「知らねぇなぁ」

クロコダイルの繰り返される言葉にクザンの視線が鋭くなった。

「……あっそ」

クザンは自分は興味ないという顔をし続けているクロコダイルを睨みつけていた。

「サカズキは前回の保有者は死んだとしか言わなかったけど。本当は『死んだ』んじゃなくて『自殺』してんだよ」
「……」
「噂しか聞いたことねぇけれど、中将クラスの屈強な海軍だったらしいぜ。合意の上で実を食って、監禁されてた。
 それが自殺してんだ。そんなところに『女』なんか放り込んだら、」
「女?」

興味なさそうに話を聞いていたクロコダイルはある一言に疑問も持ち、鋭く問いを返す。クザンは深く黙り込んだ。

「……。そうか。お前は『知らねぇ』んだっけ?」
「あぁ。知らねぇなぁ。
 しつけぇぞ、クザン」

クロコダイルは途端に苛々とした声を返して、どろどろとした殺気を溢れ出す。

アスヒのことだ。例えクザンが怪しんでいたとしても、確信に迫るような失態は起こしていないはずだ。
怪しまれてはいる。が、このまま隠し通せばアスヒが実の保有者であるということは確信には繋がらないだろう。

このまま、今まで以上に気をつけていれば。

「やぁ」

長身のクザンがクロコダイルの後ろを覗き込んだ。クロコダイルはクザンが声をかけた方へと視線を向ける。

「……アスヒ」

2人の男の会話の先。こちらを伺うようにして見つめていたアスヒに、クロコダイルが怪訝そうな表情を浮かべる。
彼女には連絡などしていない。まだ会議が終わったことを知らないはずだ。なのに、何故。

「なんでいる?」
「青雉様から会議が終わったとの連絡を受けまして」

困惑の表情を見せるアスヒ。彼女はクロコダイルの少し後ろに近寄って、飄々としているクザンを見つめていた。

「連絡するって約束したからねぇ」
「……ありがとうございました」

礼を言ったアスヒの声が若干硬い。

いつもだったらどんな時でも八方美人を演じてみせるアスヒにしては、それは随分と下手な演技だった。
そのことに気が付いてしまって、クロコダイルも更に不快感を募らせる。

「行くぞ」

クロコダイルはアスヒの腕を些か乱暴に掴み、廊下を歩き出す。クロコダイルの力に少しよろけたアスヒだったが、すぐに体制を立て直してクロコダイルの隣に並んだ。
クザンも未だ何か言いたげにはしていたが、何も声を掛けることはなく、黙って2人を見送った。

歩いている中、掴んだ腕が赤くなっていることに気が付いたクロコダイルが、じとりとその赤い部分を見つめる。
だんだんと怒りが増してくるのを感じて、掴んでいる腕に力が篭る。
痛みすら感じるアスヒだったが、クロコダイルから溢れる殺気に何も言えなくなってしまう。

アスヒとの歩幅を考えずに足早に歩いていくクロコダイル。彼は苛々とアスヒに言葉を零した。

「てめぇは2度とここに連れて来ねぇ」
「……それは喜ばしい限りですわ。クロコダイル様」

弱々しく呟くアスヒ。あまり嬉しそうに聞こえないのは、アスヒ自身が起こした失態が原因だからだろうか。

それに気が付いたクロコダイルは不服そうな顔をしながらアスヒを見下ろす。

はっきりと舌打ちを零しながらも、表に出て迎えの海軍が並んでいるのが見えたところで、クロコダイルはアスヒへと腕を伸ばし、彼女の腰元を抱き寄せた。
海軍に見せつけるようにアスヒを抱き寄せるクロコダイル。アスヒもいつも以上に大人しく腕に収まり、彼に寄り添っていた。

(……疲れた)

主であるクロコダイルには決してそんなことは言わないが、恐怖故の疲労が溜まっているアスヒは、もう少しこうやってクロコダイルに寄り添ったままでいることにした。


(氷結)

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