「メリークリスマス、セブルス。
 あの大きな兎のぬいぐるみ、貴方が買ってきてくれたの?」
「物凄く目立ったんだからな。大事にしろ」

入学してから暫く経ち、クリスマスになった。

外は雪景色。肌寒いスリザリンの談話室だったが、クリスマスということで寮の中にも少しの装飾がされていた。

リアは寝室から談話室に降りて、真っ先にセブルスの元へ行く。

クスクスと笑いながらリアはベッドの脇にあったぬいぐるみを思い出す。
プレゼントは、セブルスからの兎のぬいぐるみに、リーマスからのお菓子詰め合わせ。継母からの豪華な髪飾り。

そして差出人不明のネックレスだった。

そのネックレスを首から下げ、先についた黒い宝石を見つめる。
横にいたセブルスが溜め息と一緒に言葉を吐き出した。

嬉しそうなリアを見て差出人がわかった気がするのだ。

「それ、ブラックダイヤモンドだろう。
 宝石としての価値はあまり高くないと聞くが」
「…別にその方がいいわ。高価じゃないものの方が……ほら、彼、捻くれてるから」

小さく囁いてリアはネックレスを強く握りしめた。

その黒い輝きに心から安堵していた。


大広間に降りていくとクリスマスに相応しい豪華な料理が並んでいた。

その学校の様子にリアは微笑みながら、スリザリンの先輩方に丁寧に頭を下げて、椅子に座った。
先輩方の中には、ルビウス・マルフォイの姿も見えた。リアは隣のセブルスに囁く。

「マルフォイ先輩の機嫌は損なわないようにね、セブルス」
「わかっている。だが、ブラックよりも位が上なのか?」
「笑顔を向けておいて悪いことはないのよ」

1年生でありながらも既に家系的に縛られている者が多いスリザリンでは、気を張り、回りを見ながら行動することが多い。
リアは上品に見えるように食事をしながら、早く図書室にでも行きたい。とこっそり不平を零していた。

そして沢山のフクロウ達が入ってくる時間となり、リアはその賑やかさに頬を緩めた。
飛び交う数百のフクロウの姿はまだ慣れず、圧巻させられる。

「おーい、誰か『吼えメール』受け取ったぞー!」

一つ、声が上がった。

黒地に白い模様の入った大きなフクロウが、クチバシに真っ赤な封筒をくわえている。
興味なさそうにぼんやりと見上げたリアだったが、そのフクロウを見たあと、息を飲んだ。

「………あの黒フクロウ、ブラック家の」
「……」

リアの呟きにセブルスが黙り込む。

そしてその黒いフクロウは殆どの生徒の視線を浴びながら、グリフィンドール寮の前にいき、シリウスの前に手紙を落とした。
リアが寂しげに見つめる中、シリウスは不敵に笑っていた。

「とんだクリスマスプレゼントだな」

手紙が吼えた。

その数分間、リアはずっとシリウスを見つめていた。
シリウスは手紙を見つめて、その母親からの吼え声を聞いていたが、終始、無表情だった。

「――ブラック家の跡継ぎでありながらグリフィンドール寮にはいるなど――」
「――お前には愛想がついた。お前といるリアはどうするのですか――」
「――リアの評判まで下げるなどということがあれば」

「……うるせぇよ、リア、リア。
 そんなにリアが大事なら、離さなきゃいいだろうが」

全ての音が止み、赤い封筒が燃え上がったあと、シリウスが呟いた。
そしてシリウスが前を見上げ、リアと視線が交じった。

「……シリウ――」

小さく呟いたリアだったが、シリウスからの嫌悪の視線を向けられて、思わず視線をそらした。

賑やかなお喋りが大広間に戻る中、シリウスは席についたまま黙って、ジェームズにからかわれていた。
暫く苛々とした様子だったが、ジェームズの冗談か何かにぷっと笑顔を戻していた。

吹っ切れたように笑うシリウスを、対照的に無表情なリアが見つめていた。
彼女は胸元で揺れるネックレスを強く、強く握りしめ、右手を鬱血させている。

それを見たセブルスがリアの肩を軽く叩く。

「リア、戻ろう」
「………ごめんなさい。もう、少し、座ってていい?」
「あぁ、構わない」

一瞬だけ当惑した表情をしたセブルスだったが、リアの肩へと手を置き、慣れない手つきでとんとんと撫でていた。

セブルスが弱っているリアを見つめてから、グリフィンドール寮の机へと視線を上げて、シリウスを探した。

そして、シリウスと目が合うと、これ以上に無いほどの怒りをにじませていた。
シリウスもそんなセブルスに気付き、さらにはリアの肩に親しげに置かれた手を見て、同じく睨み返した。

「……ありがとう、行こうよ、セブルス」
「…あぁ」

それはリアが話し掛けるまで、短い間ではあったが続き、シリウスは舌打ちを零した。

リーマスは寂しげにその様子を見つめていた。


(the worst Christmas.(最悪のクリスマス))

慈悲など存在しない


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