2回ノックしたあとに、さらに2回ノック。
マナーを叩き込まれたあいつが来たことを知らせる合図。
あいつが来るだなんて、珍しい。
放っていたら帰るだろうと思っていたら、あいつは部屋に入ってきた。
思わずあいつを見て、また枕に頭を落とした。溜め息が聞こえ、そっぽを向いた。
「……いるなら返事しなさいよ」
うっせー。
「…返事が無いのに、開けんな…、眠いんだよ」
「クリーチャーが夕食の準備をしたわ。私は呼びに来ただけ」
だろうと思った。
あいつは自らこの部屋に入って来たりしない。
面倒臭くて寝たふりをした。少ししたら帰るだろうから。
2回目の予想もあいつは裏切りやがった。近くまで寄る足音が聞こえる。
寝たふりをやめる訳にもいかなくなり、ただ目をつぶっていた。
肩に手が触れた。細い手が肩に触れていた。
不快感。よりも懐かしさが込み上げてきた。
そんなのきっと気のせいだろうけど。
「夕食、冷めてしまうわ。起きた方がいいと思うけど」
「………」
「ねぇ、聞いてる?」
聞いてる。聞いてるから、帰れよ。
あいつはまだ帰らないで、ベッドの端に腰をかけた。
何やってやがんだよ。こいつ。
手が肩から離れ、頬に触れ、すぐに離れた。
何、やってやがんだ。本当に。
一瞬離れた指先がやけに心地好かった。
もう1度。とぼんやりと思うのは、だんだんと、本当に眠たくなってきたからだ。きっと。
再び、今度はしっかり触れてきたその手が惜しくて、手を掴んじまった。
目も開けちまって、ぱっとあいつと目があった。
あいつが手を引こうとするが、俺は手を握ったままだった。
あいつはだんだん慌てはじめるが、視線は俺から外れていない。
ゆっくり身体を起こして、何も考えずに手を引いて、あいつの身体を抱きしめた。
抱きしめてみて、何故か違和感。
「ッなに」
「……小せぇ…」
こんなに小さかったのか?
昔はもっと体格もあんまり変わらなかったはず、だろ?
「…痩せすぎ…」
ちゃんと、食ってんのかよ。
昔から好き嫌いばっかして、少食で。
「…抱き心地がねぇ…」
小さくて細くて、力込めたら折れそうで、こんな危なっかしい身体してたか?
昔とは、変わってない気がしていたのに?
まだ、会って数年しかたってないのに、男である俺はどんどん身体がでかくなって。
女のこいつは止まってるみたいに、体格差が開いていて。
握ったら、折れそうな…、
突然、頭を叩かれた。痛え、こいつ。思い切り叩きやがった。
「ね、寝ぼけすぎよ…ッ!
わたし…、私、先に行ってるわよ!」
身体がまたベッドに押し戻される。あいつは足早に部屋を飛び出していった。
うっせ。
あいつだけは昔から変わらないと思ってたのに。
血なんてあいつには関係なくて、このブラック家で会った人物の中で1番まともな奴だと思ってたのに。
名前を呼ばなくなって、呼ばれなくなって、
恨むようになって、恨まれるようになって、
嫌いになって、嫌われて。
「…嫌いだ。あいつなんか、…リアなんか…、嫌いなんだよ、ウザいし…気持ち悪い…」
でも昔は俺が守ってやんなきゃって、思っていた。
(You don't understand me. I don't understand you either(お前は俺の事を理解していない。俺もお前を理解できない))
そして、俺も、俺自身のことがわからない。