「スピカ、本当にいいのか? 私は勧めないと――」
「お願い、ラチェット。私なら大丈夫だから」
いつもラチェットが使う実験台の上。
トランスフォーマーの誰もが嫌がるその上に、上がっているのは、実質この国の姫となったスピカの姿だった。
表情を困惑に変えるラチェットを他所に、スピカは実験台にうつ伏せに寝転んでいた。
少女は微笑みながら、再び軍医にお願いをする。
「刺青の原理は説明した通り。
私の肩にオートボットのマークをいれて欲しいの。
貴方達と同じように」
今日、スピカがラチェットの部屋に入ったのはこれが理由だった。
先日オートボットの味方だと公言したスピカは、その証を身体に刻みたかったのだ。
だが、ラチェットはスピカにとってのいい返事を返すことができない。
刺青の原理は確かに聞いた。失敗する気などない。
それでも悩む理由は。
「……痛むぞ。スピカ」
「わかっているわ。
傷口に色を塗るのだから」
痛みになどなれていない少女。
トランスフォーマー達のように痛覚回路を切れとも言えない。
そしてここには人間用の麻酔など、あるはずもなかった。
だからこそ、ラチェットは未だメスに手を伸ばそうとはしていなかった。
「そんなことをしなくても、私達はスピカを認めているし、信用している。
わざわざ痛みを生むことなど、」
「ラチェット。私がしたいの。
じゃないと…、弱い私は負けてしまうから。
これぐらいの痛み、平気」
じっとラチェットを見つめるスピカ。
ラチェットも負けじとスピカを見つめ返していたが、先に折れたのはラチェットだった。
「…………わかった…。
だが、スピカのいう首筋には入れない。肩にさせて貰う」
「肩だと服で隠れちゃうじゃない!」
「これは譲らないからな。
次はアイアンハイドを呼ぶ」
アイアンハイドの名を出すと、スピカはムッとラチェットを見上げた。
あの武器担当の彼だったら、問答無用で彼女をここから連れ出すことだろう。
スピカは渋々と頷く。
うつ伏せの彼女の肩に触れるラチェット。その顔はしかめられたままだった。
(首筋より、肩の方が痛みは少ない筈だ)
愛用のメスに手を伸ばす。スピカは目を閉じていた。
守るべき少女を痛めるだなんて、医者が傷を付けるだなんて。
「ごめんね、ラチェット」
小さく謝ったスピカの、その白い肩にラチェットはメスを入れはじめた。
(promise. 約束)