もう少しでアーク号は出発出来るだろう。大体の準備が揃い、宇宙船が起動し始めていた。

スピカはそのすぐ側で宇宙船を見上げていた。小さな彼女からでは、巨大な宇宙船の上までを見ることは叶わなかった。

「オプティマス、ジャズ、ラチェット、バンブルビー、アイアンハイド。
 乗るのは貴方達だけ?」
「ああ」

短く答えたのは静かに佇むオプティマスだ。

スピカは振り返り、両手を彼へと伸ばした。彼女は昔から抱き上げてほしい時のサインとして、彼らに両手を伸ばしていた。
それに慣れているオプティマスは何を言わずともスピカを抱き上げ、肩へと乗せる。

表情を凍らせたスピカは頭をコツンとオプティマスに傾け、寄り掛かった。

「サイドスワイプやディーノ、ツインズは置いていくの?」
「彼らにはこの星の出来うる限りの再建を頼んでいる。
 スピカも、残るならば彼らを見ていてはくれないか?」
「それは、無理かも」

笑うスピカをオプティマスが覗き込むと、彼女は満面の笑みを返した。

「私も、乗るわ。
 これからも私を守ってくれるのでしょう?
 オプティマス」

小さな掌がオプティマスの頬に触れた。オプティマスは笑顔を浮かべて、「もちろん」と頷いた。


†††


「アークの中って凄く広いんだね。設計はレッカーズ?」
「なぁ、それより本当に行くのか?
 …その、サイバトロン星から出たときにスピカの体がどうなるか私にはわからないのだが…」
「大丈夫だよ、ラチェット。
 それに何かあっても貴方の技術があれば、平気」

スピカはアーク内を探索しながら、隣を歩くラチェットを見上げていた。
軍医である彼の不安を余所に、スピカはいつもの笑顔だ。

ふふ。と笑ったあと、ラチェットの金属ボディに手を添えた。

「もうラチェットの心配性。
 『ヒト』である私がこの宇宙に出ていること自体ありえない事だし…、きっとサイバトロン星から出ても大丈夫」
「ありえないからこそ、不測の事態が起こる。かもだろう?」
「あくまで「かもしれない」だよ?
 まぁ私も「きっと」大丈夫としか言えないけど」

笑うスピカにラチェットは溜め息をついた。こうなれば少女は言うことを聞かないだろう。

不意に、スピカは手を止めて、寂しげに呟いた。

「…私を置いていったりしないで。
 司令官であるオプティマスには言えなかったけど、まだまだ私を嫌っているオートボットもいるのよ。
 貴方達がいなきゃ、…怖いよ」

トランスフォーマーではない彼女の小さな声。
掌に力を込めれば一瞬でなくなる、はかない命。

ラチェットはキュルキュルと機械音を出したあと、膝をつき、彼女の身体を掌に乗せた。

有機生命体は不安げにその無機生命体を見つめていた。

「ねぇ一緒に行ってもいい?」

甘えた仕種にラチェットは溜め息をついた。

確かに答えは最初から決まっていたのだけど。


(fear. ふあん)


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