ノーランドの背に続き、暫く歩いたあとだった。見えてきた建造物にホワイトはわぁと声を上げた。

「へぇ。こんなところあったんだ…」

小さな呟きは一員の足音に掻き消される。

ホワイトは近くにいたエドウィンの手を掴みながら、その建造物の入り口と思われる場所まで来た。
ノーランドがそのまま重い鉄の扉を開けて入っていくのに着いていく。

中に入ると、その先は特に狭く、ここからは匍匐前進で進むしかないようだ。
数瞬躊躇ったがホワイトは、一行の最後尾を着いていった。

「ここはどこ?」
「昔誰かが使っていた掘削機だ。もう動かないが電源は使える」
「屋根に電気。…それだけあれば十分」

呟くホワイトを振り返り見たニコライ。ホワイトは抗議するように頬を膨らませた。

「何、ニコライ」
「さっきまでアンタのことは化け物に守られてる子供だと思ってた」
「今は?」
「騙された気分だよ」

ニヤッと笑ったニコライに、ホワイトはますます頬を膨らませて黙り込んだ。

奥まで進むと大分開けた場所に出て、メンバーは興味深そうに回りを見渡した。

足元が見える程度の明かりが点り、ある程度の生活が出来る広さに、あちらこちらに銃が散乱しているのが見えた。中にはプレデター用の物もある。

ホワイトは手近な場所に腰を下ろし、揃えた両膝の上にナイフを置いていた。

「どうやって生き残ったの?」

立ったままのイザベルがノーランドに聞いた。

「何でもとことん利用した。どんな時でも利用出来るもの全て」

ノーランドはそう答えたあと、不気味に笑ったり、隣にいる何かと話しているようなそぶりを見せた。
スタンズが怪訝な顔を浮かべると、軽くノーランドを見たホワイトがスタンズにだけ小さく呟いた。

「この土地に数ヶ月でも生き残って戦ってた人は、みんな「ああ」なるよ。
 まともな人なんてすぐいなくなる」

ふぅんと頷いたスタンズが近くにあったプレデターの仮面らしきものを手に取った。

「おい!」

ノーランドの怒声が小さく響いた。ホワイトがびくっと肩を震わす。

「あぁ、俺が言う…。おい、そこのアンタ、それ、下に置けよ。
 ここの住民は自分の物を弄られるの嫌いなんだよ」
「…………自分の物…? それはプレデターのものよ」

静かにホワイトが呟いた。
ノーランドの視線がホワイトに移ったあと、彼はクククとまた不気味に笑った。

「思い出した。アンタ、あれだ。7か…10シーズンか前、俺が最初にここ来たときにもいた。
 ちっちゃな餓鬼だ」

ホワイトはすぐには答えない。静かに立ち上がり、スタンズが床に降ろそうとした仮面を拾い上げていた。

「私も思い出したよ、ノーランド。確かに昔、貴方に会った。
 ここ何年かでプレデターを2、3人殺してるのは貴方だったのね。
 この子も…見たことある。
 何回か私の話し相手をしてくれた…」

そう呟きながら優しく仮面を撫でるホワイト。

異貌のものだというのにも関わらず、ホワイトは寂しそうに仮面を抱きしめていた。

その姿をノーランドは皮肉に笑う。

「奴らに同情?」
「敵に同情なんかしない…。それでも…」

そのまま静かになるホワイト。困ったように仮面を手放したあと、ノーランドに向いてゆっくり答えた。

「私の家族は、彼らしかいない。
 殺されかけても、殺されても、縋るのか彼らしかいない・・・。
 矛盾しているけれど…、私には彼らしかいないのよ」

ホワイトは苦笑を零して、またナイフを膝の上に乗せた。そのナイフにこびりついた泥や血糊を指で弾いていた。

男がノーランドやホワイトを見ながら聞く。

「あいつらは何処から来る? どうやって?」
「船を持ってる」
「船だって?」

男の声にホワイトが軽く頷いた。

「みんな、パラシュートで降りてきたでしょ?
 その船から落とされてくるの」
「どうすれば殺せる? 弱点はあるはず」

弱点と言われた辺りから、ノーランドの視線がホワイトに移動した。
気付いたホワイトが頬を膨らませて、片手を軽く振った。

「私はブラック達の弱点にはならないよ。
 私がどんなにブラック達を慕っていたとしても、ブラックには関係ないもの。
 そんな人情のある奴らに見える?」

空間に短い沈黙が落ちる。ノーランドがまた話し出した。

「生き残りたいか? じゃ、隠れなきゃ。ここにいろ」
「いや。もう1つの答えを選ぶぞ。
 ……どうやって脱出するか」
「そろそろ、友達と船の話をしたくなっただろう」

スタンズの提案に続き、男がノーランドに話しかける。ノーランドはまた笑いながら、ゆっくりと答えた。

「…そうだな…。そう、核心をついたな、凄い…。
 ここに来てから1度も考えたことなかった。エイリアンの船を頂くってことをな。
 でも俺は操縦出来ないし、…出来るってさ、あんたは出来るよな?」
「…やってみるよ」

ノーランドは隣の何もない空間に話しかけた後、面白そうに笑いながら「少し寝る」とだけ答えた。
作られているスペースに横になったノーランドはホワイト達側からは見えなくなった。

男はホワイトをちらりと見る。

「…船の操縦は?」
「私には到底無理。私が船にいる間は怪我していたりして、自由に動けなかった」

ホワイトの答えに男は深く溜め息をつく。

そして各々が近場に座り込み、夜が明けるまで休憩することにした。
じっとナイフを見つめているホワイトにエドウィンが話しかける。

「君はとうするの? もし、ここを出られたら?」
「……私もノーランドと同じ。考えたことなかった。
 生まれてからずっと、この土地から出たことないから」

ゆっくりと顔を上げるホワイトが、戸惑いつつも言葉を紡いでいく。

「…ねぇ、ハンドラーに聞いたことがあるわ。地球にはもっともっと水があるんでしょ? 食べ物もいっぱいあるって聞いたわ。
 全部石と金属で出来た建物に、武器を持たない人間がいっぱいいるんだって…」
「…うん。ここよりは…いいところだよ」
「………そう…。…いいな…」

この土地から一切出たことがないホワイトには、地球がどんな場所かはわからなかった。小さく微笑んだあと、ぎゅっとナイフを握りしめた。

「私も、地球に行きたいなぁ…」
「………そうすればいい」

ニコライが呟くように答えた。その手には写真が握られていた。

エドウィンが「誰?」と聞くと、ニコライは些か嬉しそうに写真をエドウィンに渡した。ホワイトも一緒に覗き込む。

「これ、でかいのがイリヤ。で、これがサーシャ。
 …サーシャはホワイトと同じぐらいの年だ」
「……ふぅん」

ホワイトの視線は笑う子供の姿に注がれていた。可愛い服装をした女の子は戦場に出ることはなく、生きてきたのだろう。

ホワイトは握ったナイフに力を込めていた。

「いいな」

そしてもう1度呟いた。

「ホワイト」

その時、イザベルがホワイトを呼んだ。

顔を上げるホワイトがパタパタとイザベルと男の側に寄る。男は真剣な顔でホワイトに聞いた。

「キャンプに吊されていた奴がいただろう。あれはなんだ?」
「……クラシックのこと…?
 プレデターは種族での上下関係がとっても激しいの。
 ブラック達、『バーサーカー種』は支配階級で、クラシックは…その下の奴隷階級なの。
 ……クラシックは私に優しすぎるから、きっとブラックが怒ってお仕置きをしているのよ」

表情を暗くするホワイトに、男は質問を投げた。

「あいつ、自由になるためならなんだってするか?」

男の言葉にホワイトは目を丸くしたあと、深く黙り込む。そしてゆっくりと言葉を選ぶように話し出した。

「プレデターはみんな…この仮面に誇りを持っているの…。
 普段から仮面をつけていて、狩るべき敵に敬意を見せた時には自ら外す…。
 クラシックはあそこにいたとき、仮面をブラック達に取られてた。
 もう1度自分の意思で仮面を付けられるなら…、そのお礼は…うん、『なんだってする』と思う」

男が小さくニヤリと笑った。

「敵の敵は味方だ」
「あれが友達になる?」
「私の治療をしてくれるのは、いつもクラシックなの。
 クラシックはブラックより優しいよ」

微笑んだホワイトに、イザベルは苦笑を返した。


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