近道として草むらを全速力で走っている間に、ホワイトの綺麗な柔肌に、幾筋もの血が流れていた。
しかし、それらに気を使う間もなく、ホワイトは乱暴に傾斜を駆け降りていく。
鎖が叩き切れる音がして、ホワイトは速度を上げた。
そしてデス・キャンプに着いたとき、解放されているクラシックが男の首を鷲掴みにしているのを見て、ホワイトが声を上げた。
「待って! 待って、クラシック!!」
跳ねるように飛び出したホワイトがクラシックの太い腕にしがみついた。
「本当に私達はここを出たいだけなの!
その人を殺しちゃだめ…!」
ぎゅうと腕にしがみつくホワイト。クラシックは暫く男とホワイトを交互に見たあと、男を遠くへと突き放した。咳込む男がホワイトとクラシックを見ていた。
そしてクラシックはホワイトに低く唸る。
「……うん。そうよ。私もここから出るの。
私も地球に行きたい。クラシックは船の操作、出来るよね?」
再びクラシックは唸って、ホワイトの身体を寄せるように腕を引く。
ホワイトも大人しく彼の側に寄ったあと、足元に落ちていたクラシックの仮面を静かに拾い上げた。
両手を伸ばすようにしてクラシックに仮面を付けるホワイト。
空気の零れるような音がしたあと、クラシックの肩のキャノンが起動し始め、動力が全身に行き渡ったことが伝わった。
ホワイトと男が静かに見つめる中、クラシックは左腕にあるパネルを数回操作させ、小さな衛星が1つだけ飛ぶ青い惑星を表示させた。
男の表情が僅かに輝く。ホワイトは憧れにも近い瞳をそれへと注いだ。
クラシックが再びパネルを操作した瞬間、キャンプの後ろ側にある大きな船が動く気配がした。ホワイトは不安げに呟く。
「……あとは…、ブラックが意地悪しなきゃ大丈夫なんだけど…」
ガサッと背後で音がした。バッと振り返るホワイトと男。
そこにはブラックが何か袋のようなものを引きずりながら立っていた。ホワイトの頬に冷や汗が滑り落ちる。
ブラックが先に咆哮を上げた。合わせてクラシックも雄叫びを上げる。
重なる怒声にビクッとホワイトの肩がすくんでいた。男がホワイトの手を掴んで走り出す。遠くで船が出発する寸前で待ち構えていた。
駆ける男にホワイトがついていく。
だが、ホワイトの歩みが途中で止まった。
苛々と男が振り返る。ホワイトは泣き出しそうな顔をしながら、突っ立っていた。
「おい! 行くなら早く…!!」
「……私、地球に行けない…!」
「何故?」
「ブラック…。…地球にはブラックがいないんだ…!!
貴方は行って! 早く! 船が行っちゃう!!」
ホワイトは立ち止まったまま、男に叫んだ。
数瞬止まった男が背を向けるのを見てから、ホワイトは今来た道を走って戻った。
走っている途中で、ホワイトは背中側から熱風に押されるのを感じた。
振り返ると、空高く飛び上がった船が派手に爆発をして、落ちていくところだった。
息をのむホワイト。乗っていたらあの爆発に飲まれるところだったのだ。
表情を歪めながらも、またキャンプに向かって走り出す。
と、林の中を別なものが走る気配がして、ホワイトは足を止めた。
見るとブラックがそこにいた。ブラックもホワイトの姿を見ると、走っていたその足を止めた。
気まずそうな顔をしてホワイトが謝る。
「……ご、ごめんなさい…。私…やっぱり…ここにいたくて……、わわっ」
しょぼんと肩を落としていたホワイトが、ブラックに俵を抱えるようにホワイトを持ち上げた。そのまま走り出すブラックにホワイトの悲鳴が重なる。
ブラックはデス・キャンプの入口辺りまで走ると、ホワイトの身体を乱暴に下ろした。
ホワイトの短い悲鳴と、抗議の声。
「ブラック! 乱暴!」
ぺたんと座りこんだホワイトがブラックの姿を見上げて抗議し続ける。
武器の調整をしているブラックを見上げ、ホワイトは不安げな声を投げかけた。
「これからどうするの…? ブラック…?」
右腕のリスト・ブレイドを確かめたブラックが、ふとホワイトに視線を落とす。
いつも3人で人間狩りをしていた。そのうちハンドラーとファルコナーが狩られ、残るはブラック1体。
「私を狙わないってことはまだみんな生きているんだよね…?
でも…ブラックが勝つんだよね…?」
もしかしたら、ブラックも狩られてしまうのでは。とホワイトは不安そうにブラックを見つめた。
結局、ホワイトには彼しか縋るものは無いのだ。
「なに、…するの…?」
彼が多くを語らないのはホワイトは慣れていたが、静かに佇んでホワイトを見下ろすのには慣れていなかった。
ブラックの仮面の奥が怪しく光る。ホワイトはブラックを見上げつつも、そのブレイドに視線をさ迷わせた。
ブラックがブレイドを上げ、一瞬戸惑いを見せたかと思うと、ブレイドはホワイトの両足に深々と突き刺さった。
ホワイトの絶叫。
涙を零すホワイトが、戸惑いを隠せないままブラックの腕に縋った。
「な、何で…ブラック…?」
ブレイドをゆっくりと抜いたブラックがホワイトに出来るだけ近寄るように片膝をついた。
両足の痛みに涙を流しながらも、膝をつくブラックを驚きの表情で見るホワイト。
小さく、囁くように唸ったブラックにホワイトは自嘲に近い笑みを浮かべた。
「…あとで治す…って…馬鹿…。私は、…痛いの、嫌なのに…」
痛みに薄れゆく意識の中、ブラックが離れていくのをホワイトは動けない両足を憎みながら必死に手を伸ばした。
草むらに倒れるホワイト。ブラックの背中だけがホワイトからは見えていた。
「ブラック…待ってよ…ブラック…。おいていかないで…。まってよ」
伸ばした手が虚しく枯れ葉を掴む。
いつの間にかホワイトの視界は黒で埋め尽くされていた。
†††
プレデター達の威嚇するような獣の叫び。
燃え盛る炎に囲まれながら、やがてその声が聞こえなくなった。
†††
昇ってきた朝日にホワイトの意識も浮上する。
目覚めた場所は、意識を手放したデス・キャンプに変わりは無かった。
ホワイトは皮肉にも倒れたまま、涙を流した。
ブラックはあのまま帰って来ることは無かったのだ。
握りこぶしから血が流れるほど力を込めているホワイトは、痛む両足を無理矢理押さえ付け、空を見上げた。
その空からは、来たときと同じように、沢山のパラシュートが降って来ていた。
また、狩りは最初からにリセットされたのだ。
今まで、何かとホワイトを助けてくれたブラック達はもういない。
次に降りて来る新しいプレデター達はホワイトも変わらず「人間」として狙うのだろう。
痛みを堪え、ホワイトは自身の愛用のナイフを杖変わりとしながら立ち上がった。
「………待っててね…みんな…」
ホワイトはそう静かに呟くと、落ちて来るパラシュートの1つに向かってたどたどしく歩きはじめた。
落ちて来るそのパラシュートに付いているのは、人間用ではない、大きなコンテナだと知りつつ、歩きはじめた。
私が目を覚ましたら、きっと、全てが夢で。
私がたどり着く先には、幸せが見えると、ただそれだけを信じて歩き続ける。
(happy dream)
まっててね、わたしのかぞく
すぐに、そっちにいくから