むず痒い。そう思った。
「ありがとう 大好き!」
ユースは今日も元気だ。
菓子を与えたモルディーン猊下に抱き着きながら好意をぶつけている。
それを見ている俺は、かなり批難がましく見ているのだろう。
先日。ユースを好ましいと感じた。
今までの兄妹愛に似たものではなく、だが未だにぼんやりとした愛情。
ユースを側に置きたい。
離れて欲しくはない。
それはきっと独占欲。
まだユースに伝えてはいないけれど。
「あーあ、ユースちゃん取られちゃうよー?」
咒式で壁から生えてきた弟が俺の肩に頭を置く。
余計な事を言い出す前にその頭を軽く叩き、笑うユースを見ていた。
ベルドリトがまた笑う。
「告っちゃえば? 兄貴。
というかまだ告白してないとかーもぅっ」
「……ベルドリト」
「怒んないでよー。
きゃぴきゃぴ、りょーおもい何だからいいじゃん!」
ユースの想い人は俺だ。わかってる。
逃げていたのは俺だけれども。
対して俺の気持ちをわかっている人は、どれくらいいるだろうか。
横で笑うベルドリト。…には直接言った。
ユースと話している猊下。…ベルドリトが言ったそうだ。(勿論後からげんこつ)
この場にはいないヨーカーン殿。…ユースの誕生日の翌日、脅された。
そのくらいか。
当のユースには気付かれてさえいない。
言ってしまえばいい。それは酷く感じることだが、俺の中の何かが邪魔する。
ユースには俺よりいい男がいる。
そんな漠然とした想いが俺を邪魔する。無邪気に笑うユースを見ると特に。
「イェスパぁー」
ユースが俺を呼んだ。
可愛らしく笑うユースに不覚にも心拍が上がった。ベルドリトがちらりと俺を見て笑いながら離れていった。
「イェスパーは向日葵の花言葉知ってる?」
「花言葉?」
ユースは頭に揺れる向日葵の花を見ながら首を傾げていた。
俺が贈った髪飾り。跳ね回るユースを見失わないように、すぐに発見出来るように贈った大きな向日葵。彼女によく似合うと思ったのだ。
ユースを見ながら小さく笑う。
「ユースは知っているのか?」
「うん。今、猊下様に教えて貰ったの」
教えてほしーい?と言いながらユースは俺の腕を掴んでしゃがめと催促。
大人しくしゃがむとユースが俺の耳に口を寄せた。
必然と顔が近付く。
俺の無くした右目が心地好く疼いた。
「あのね……」
囁くユースがくすぐったい。待っているとユースは俺の耳に息を吹き掛けてきた。
ぞわぞわと走る何とも言えぬ感覚にユースから離れ、耳を抑えているとユースはケタケタと笑っていた。
「ッ……ユース!」
「あはははっ、イェスパー、耳よわーい」
逃げるユースを捕まえようと手を伸ばす。彼女は手をすり抜けて行くのだが。
ユースは微かに恥ずかしそうに笑っていた。嬉しそうに笑うユースに俺は呆れつつも微笑んでいた。
「イェスパーがこのお花の花言葉を知って私にくれたなら、ねぇ…?」
意地悪く笑うユースに軽い反抗心。
絶対調べてやると誓いながら、また猊下と遊ぶユースを見る。
見ているだけでもいい。そして楽しい。
微かに笑いながらユースを見守っていた。
†††
「向日葵の花言葉は『私の目は貴方だけを見つめる』
イェスパーがそこまでロマンチックな訳がなかったです」
私はしょんぼりと猊下様のお膝に寄り掛かる。
猊下様はくすくす笑っていたけど、そんな笑える訳無いよー…
「大丈夫。イェスパー君はユースちゃんが思っている以上にユースちゃんが大好きなんだから」
「むー。でも複雑だったり…?」
嬉しいけれどイェスパーは私の事妹だと思っているだろうし。
猊下様がずっと笑っている。私はむうーと猊下様に顔を埋めた。
頭を撫でてくれる猊下様に甘えながら、イェスパーがくれた向日葵のお花をぎゅうと抱きしめていた。
2人の「スキ」はすれ違いつつも、ぴったりと合わさっていた。
(向日葵の花言葉)