「まだかなぁ?」

真っ白のスカート。優しげな色合いをした向日葵の髪飾り。
そしてユースの手首には真っ赤なリボンを巻き付いていた。

ユースは優しく微笑んでいる。楽しげなユースはパンハイマを待っていた。

「女の子と遊びに行くなんて久しぶり。
 予備校の子とはたまに行くけどみんな忙しいんだもの」

ユースの独り言も快調だ。

そしてユースはいきなりただ走りはじめた。

轟音。

「は? 何で気付けたというのですか?」

砂塵と共にかけられたのは高音の女の声。

現れたのは真緑の姿。その瞳だけがただ白かった。彼女の右手は腐敗に覆われ、右足は酸に焼かれている。
悍ましい姿にもユースは興味なさそうに女を見た。

「だぁれ?
 私は遊びに来たのに」
「ワタクシ――ナカナハ様がいっぱい遊んであげますわよ?」
「では初めましてナカナハ。でもまた今度ねナカナハ。
 私、今日は約束があるの」

そして2人の女が追い、逃げる。


†††


「ほらほら子猫さん? 逃げていてはワタクシを倒せなくてよ?」
「倒す気はないの。ごめんなさい。逃げさせてー」

ナカナハが咒式を発動。

ユースの周りに砂が巻き上がり、ユースを包み込もうとする。

砂は大地に当たると緑色の草を咲かせ、草を増殖させた。草は巨大化し、やがて大地を完全に枯らした。

「………危ないなぁ…」

ユースは呟き、目の前の女を見つめた。ナカナハは両手を広げ、ユースを襲う。
ユースは面倒臭さに普段しない舌打ちをした。小さな音がなる。

携帯で助けを求める余裕はない。ユースが出来るのは逃げる事だけだった。

「ワタクシからいつまでも逃げられると思っているのですか?
 そろそろ遊びも終わりにしましょうか?」
「しつこいよ、ナカナハ。
 大陸第2位を巻く私の足の素早さ見せてあげるんだから」

呟いた後、ナカナハが周りの工場全体に砂を広げた。逃げ場が全くない。

絶対なる攻撃だった。

「うわごめんなさいこれは逃げられないです調子乗っちゃったー」

棒読みで言い切ったユースはやっとそこで動きを止める。その動きは諦めたようでもあった。

「喰らいなさい!」

ナカナハが一気に死の砂をユースに襲わせる。

「……大賢者様に怒られてしまうわ」

ユースは慌てることなく、周りに誰もいない事を確認し、

そしてユースは『目を開いた』


†††


「何、で、すか…? アナタはっ?
 ワタクシは、どう、なって?」
「……………ごめんね」

ユースの目の前には散り散りに『裂けた』ナカナハの姿があった。少女は黙ってナカナハを見下ろしていた。

ユースの身体は無傷。ナカナハの傍らに膝をつき、自身の身体が赤く染まるのも気にせずに、ナカナハを抱き起こした。

「……そう、か、アナタは、り」
「ソレ以上は言わないで」

呟き、静かにナカナハを見つめると、腕の中でナカナハが絶命。最期の息すら無くなった。

「………ごめんね」

ユースはナカナハの身体に優しく地面に降ろすと、温かな体温もすぐに消えていった。彼女の頬に伝ったのは涙。

「…ごめんね、ごめんね…ごめんなさい。
 怖かったよね、痛かったよね…ごめんなさい」

泣き声は嗚咽に変わり、ユースはナカナハの手だけはずっと握りつづけていた。

「ユース。遅れたな」
「…パンハイ…マっ」

毒の滴るような笑みを浮かべていたパンハイマが現れる。
ユースは困ったようにパンハイマを見つめて、次にパンハイマへ抱き着いた。

「っユース。我から離れろ」
「や、だっ…怖かった…っ」
「怖かった? あんな数瞬でパンハイマ事務所のナカナハを倒しておいて?」
「パンハイマ…の…?」

ユースがやっと事実を理解したようにパンハイマを見上げる。

パンハイマに指定された場所でパンハイマ事務所の攻性咒式士に襲われる。
簡単すぎる方程式。

ユースはそれでもパンハイマから離れなかった。

「じゃあ見、てた…?」
「全部を。じゃよ。
 面白かったぞえ? 普段は可愛らしく周りに愛想を撒き、本質は異貌のものどもも恐れるような」
「ヤメテ」

ユースは真っ直ぐにパンハイマを見つめようとして、また涙目になって俯いた。

「ごめんなさい」

謝ったユースにパンハイマが毒の言葉を囁く。

だが、ユースは絶対にパンハイマから離れようとしなかった。パンハイマの眉間に皺がよる。

「離れろと聞こえなかったか」
「離れたくないの。怖いの…自分が嫌なの…」

ユースは泣きじゃくりながらパンハイマを抱きしめていた。
嫌悪感を滲ませていたパンハイマだが、ユースの様子を見ていたら、悪戯心が沸いた。

最初はユースを遊びで壊そうと思っていたが、まだ、後の楽しみとしてとっておこうと思ったのだ。

「ユース、怪我はないな?」
「…うん。大丈夫」
「だが服が汚れたのぅ…。我の服を貸してやる。パンハイマ事務所に来い。我の娘のものが」

「魔女が。ユースから離れろ」

その時、頭上から声が聞こえた。

ユースが見上げると十二翼将第2翼、大賢者ヨーカーンの姿がそこにあった。
パンハイマは傘の隙間からちらと見て、またユースへと微笑みを向けていた。

「…十二翼将か」
「うん。私の大賢者様です」

ユースは涙を拭い、ヨーカーンへと駆け寄った。ヨーカーンはパンハイマから隠すように自身の着物の裾で抱きしめる。

「ユース、怪我はないか」
「ないよ、大賢者様」
「友人は選べ。我のようにな」
「……そこ笑うとこ?」

首を傾げるユースの頭を向け、ヨーカーンはパンハイマを睨んだ。

「あまり我の娘にちょっかいを出さないで貰えるか」
「ユースは我の友人じゃよ」
「今日は我が引き取る。帰るぞ、ユース」
「……はーい」

ぷくと頬を膨らませる少女が大賢者に手を引かれていく。
黙ったままのパンハイマはずっとユースの背を見ていた。

ユースは何度かパンハイマへと振り返る。小さな口を開けて、ユースは声を出した。

「ね! パンハイマ!
 ……また遊んでね。事務所に誘って」
「飽きないのぅユース。
 じゃが、エリダナに住んでいるのじゃろう? また会おうぞ」

ぐいと手を引いたヨーカーンが些か不満そうにユースを見た。

「……危険な事には巻き込まれないようにな」
「危険じゃないよ。私、好きだもん。パンハイマのこと」
「全く。…不安だ」

ヨーカーンはぎゅうとユースを抱きしめて、家路へと急いだ。


†††


「パンハイマ様、あの子はどうしますか?」

マラキヤがパンハイマの足元にいながらそう聞いた。
事務所の者に襲わせるのか、はたまたパンハイマ自身が手にかけるのか。

パンハイマはまたニヤリと妖艶な笑みを浮かべていた。

「事務所に伝えろ」
「はい、わかりました」
「何があろうと彼女には手を出すな、と」
「はい、わかり……え?」

聞き返したマラキヤの顔面に減り込む下駄。ぐしゃりとマラキヤの顔が潰れた。

「1度で聞き取れ。
 ユースは我の『友達』ぢゃ。手をかける事は何者も許さぬ」

ふふと笑いながらパンハイマは踵を返す。

開かれた番傘をさしながら、パンハイマはまた笑う。

「ユースを傷付ける者はこの可愛く優しいパンハイマ様が相手ぢゃ」


それは魔女に気に入られた瞬間。


(魔女とは友になれますか)


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