「―――それでは、私はこれで」

ユースは上品に微笑み、目の前の男のエスコートをやんわり断って立ち上がった。

ここまで言葉裏に押しておけば縦社会であるここでは酷い対応にはならないだろう。
まぁ、それでも悪いようであれば、些か卑怯だが枢機卿長の名を出そう。そうしよう。

扉を開けた秘書らしき人の見送りをまたもやんわりと断り、ユースは微笑みを続けていた。

そして扉が閉められ、誰もいないことを確かめた瞬間にユースはふぅと溜め息を吐いた。

「……あっつい…。全くあの方達も面倒な事して」

溜め息をつきながら、自分の姿を改めて見る。

白く上品な服で身体を包み、大きな帽子で顔を幾分隠している。
肘までの長い手袋をつけ、手袋の上から右の薬指には赤いルビーの飾られた指輪をつけていた。

どこかの令嬢のような格好のユースだが、さっさとその暑苦しい手袋を外し、指輪もとった彼女はその威圧的にも感じられる建物から出た。

振り返ると建物には『エリダナ高等裁判所』の文字。

慣れない場所から出て、ふぅと肩の力を抜き階段を降りていくと、今ユースが出てき扉から、人影が話しながら出てきた。

「危なかったな、ガユスにギギナよ」
「イアンゴ、持つべきものは友人だな。
 おかげで咒式士いびりどもに、監獄に放り込まれずに済んだ」

振り返るとユースの予備校教師であるガユス、家具関連での交流があるギギナ、そして暗灰色の背広を着た男が並んで降りて来る所だった。

3人はまだユースには気付かずに疲れた様子でその長い階段を降りてきていた。

「2度とこんな弁護には立たない。おまえらの弁護は面倒すぎて、死にそうになる。
 ……しかし、タルフォルズが優勝するところを、おまえとベイリックに見せてやるまでは死ねないがな」
「イアンゴは意外に欲張りだな。タルフォルズが優勝するには、無限の二乗の時間が必要だ」
「素直に感謝しておけ。私はもう行くが……」

そこで黙っていたギギナがユースの存在に気付いた。

ガユスとギギナが不思議そうに見る中、同じくユースに気付いたイアンゴが目を丸くしたあと、彼女へと会釈を向けた。
ユースもあくまで上品に会釈を返す。

「証人として弁護してくれた向こうの2人と、口添えしてくださった彼女にも感謝しておくべきだろうな」
「口添え?」

疑問を浮かばせたガユス達の後ろからはまた2人の男の姿。
ラルゴンキンとヤークトーだ。

イアンゴはそのまま後始末をしに裁判所へ戻り、嫌そうな顔をしながら(主にガユスとギギナ)も4人の男は下にいるユースの方へと歩いて来る。

「感謝の言葉を言っておかない事もない」
「あいかわらずだな。別に恩に着せる気もないから安心しろ」

そう言いながら降りてきた4人に、ユースは照れたように微笑みながら大きな帽子をずらしガユスとギギナと視線を合わせた。

「まさかと思うが、ユース?」
「はい!
 先生、ギギナさん。裁判、お疲れ様でしたー」

無邪気に笑うユースはガユスのよく知る子供のユースであり、今の大人で上品な服が何処か違和感をガユスに感じさせた。

「珍しい服を着ているな。誰だか分からなかった」
「先生と会う時はいつも制服ですからねぇ」

「こちらのお嬢さんは?」と聞くラルゴンキンには「予備校の生徒だ」と当たり障りのない紹介をする。
ユースもぺこりと頭を下げてにこと微笑んだ。

そして一緒に階段を降りていく中、ユースは頬を膨らませ、咎めるようにガユスへ話す。

「それはそうと。
 七ツの国際咒式条約抵触に十三と二十三の咒式法違反に抵触。九つの魔杖剣法違反って、狙っても中々出来ませんよ?」
「ユースがどうしてそれを?」
「ふふふー イアンゴさんも『口添え』って言っていたじゃないですか。
 私、親がそれなりの所にいるので、少しだけ口出させて貰いました。
 気をつけなきゃ駄目ですよー」

ユースは幼稚園の先生のようにあくまで無邪気に笑いかける。
ラルゴンキンがユースに同意した。

「確かに今回はこれだけで済んだが、気をつけろ」

ラルゴンキンの重々しさが加わった言葉。ガユスは軽く返す。

「分かっているよ。次からはバレないようにやるよ」
「分かっていませんね。十三階梯となった貴方とギギナは、エリダナ、いやエリウス郡全体の、名前を売りたい攻性咒式士たちの標的になったのです。
 ラルゴンキンは組織が大きすぎて狙えず、緋のパンハイマに敵対する無謀な者はいません。
 そして、イムホテプにいたっては〈隠者〉の異名の通り、居場所すら掴めません。
 それこそ大物の賞金首のように出会うことがまず困難であるのです」

知覚増幅仮面<ネーメンマスケ>の下で単調な指摘が続いていた。

「これらの事実から、あなたたちを倒しやすい獲物と考える愚か者が増えるのは、当然の論理的帰結なのです」

ヤークトーの忠告に思い当たる節があったのがガユスは少し黙り込んだ。

「ガユスを責めるな」
「おまえの馬鹿の居合抜きには恐れ入るよ。『なにいっ! 馬鹿を放つ瞬間が見えないだとっ!?』と驚いていいか?」

ほんの少しだけだった。

ガユスとギギナは陰悪な視線を交わす中、ユースはあくまで楽しそうに大人達の険悪なムードを眺めていた。

「そういえば。今回の事も法院に直接、密告した人がいるみたいですよ?
 誰かまでは教えていただけませんでしたけども」

ユースの言葉にガユスの足が止まる。
合わせてラルゴンキンとヤークトーの足も止まっていた。

ユースは「言わなきゃよかったかも」といった表情を浮かべたがすぐに誤魔化すように笑った。

「……誰かに怨みを買った覚えは、と聞かれても心当たりが多いでしょう。私からはお気をつけなさいとしか言えません」
「もしかすると、その肩の傷も、攻性咒式士に狙われたのか?」

言われてユースがガユスを見上げると確かに少しだけ庇うような仕種をしていた。
ガユスは苦々しく答える。

「つい先日、超弩級の変質者に狙われた。
 これは一対一の決闘に付き合わない俺に、隣の流血嗜好病患者がやった、最悪の同士討ちだ」
「眼鏡類低能科ガユス属。糞尿を主食とし、よく死ぬ。俗に食糞族と呼称される珍獣には、剣士の誇りなど分からない」
「変態目無能科ギギナ族。鮮血を主食とし、基本的に存在が違法。そんな生物の誇りなど知るかよ」

視線すら合わせない2人の会話にユースはおもわずクスクスと笑い、ラルゴンキンは心底呆れたようにしていた。

「本当に、どうしておまえたちは組んでいるのだ?」
「仲がいいんですね」
「ユースの言葉には断固否定させていただく!」

怒鳴るガユスにユースは耐え切れず声を上げ笑った。
その中でヤークトーが無感動に続ける。

「そして、ついでにこの老人からの忠告です。
 あなたのところで預かっている少女も、早く公的機関に預けなさい。
 貴方とギギナが、面倒ごとに関わると、加速度的に事態が悪くなる確率が高いのです。
 聞いたかぎりの事例から算出した私の統計では、実に74.24%もの高確率です。私が場面を入れるならば、この数字はさらに跳ね上がるかと思いますが?」
「おまえはホートンかよ」

言い返すガユスが本人も知らぬ間に熱くなる。

「攻性咒式士や、<長命竜>に狙われていた少女が、幸運の女神だと思うほど、俺も脳天気ではない。
 だからといって、見捨てられるかっ!」

ラルゴンキン、ヤークトー、ギギナ、そしてガユスも驚いている。
ユースだけはニコリと笑ったが、恥ずかしくなったのかガユスは言い訳を始めた。

「ま、その、なんだ。身内が見つかるまでの一時預かりだ」
「善行を照れるな。おまえが真っ当な咒式士の道へと更正しているのを、私は責めない」
「だから違うって」

そして階段を降りていき、すぐに道路に面した歩道についた。

ラルゴンキン達はガユス達と違う方向へと向かう。が、途中でラルゴンキンは振り返った。

「とにかく気をつけろ。先ほどヤークトーが言ったことは、一面の真実をついている。悪いことは、最初に叩いておかないと拡大する一方だ」
「心配は迷惑だ。年寄り臭い忠告なら、厄介ごとに喜んで嵌まっていくギギナに言え。
 …いや、俺はこういう言い方しかできないんだ。本当は感謝している」

すぐに取り繕ったガユスにラルゴンキンは笑みを浮かばせた。

「初夏の借りを返しただけだ。ランドック人は義理堅いのだ」

朗らかに笑ったラルゴンキンにガユスは黙っている。
ラルゴンキンはまた、そして今度は悪戯に笑みを浮かべた。

「そうだな。感謝しているなら、ラルゴンキン事務所に入ってくれ。
 私も最近、腰痛になってきているし、新規で攻性咒式士を何人か採ったが、どうにも単純なやつが多くてな。性格の悪い使い手が欲しい」
「俺を勧誘するのか、馬鹿にしたいのか、はっきりしろよな」

ユースは先程からニコニコとガユスとラルゴンキンを見比べていた。

「では、またどこかで会おう」
「再会はどこかの戦場だ。俺はギギナではないからな、後ろから咒式攻撃してやる」
「おまえの小便咒式が私の重装甲に効くとは思えないが」
「どうかな? おまえを倒す咒式くらいは用意していると思わないか?」
「ま、楽しみにしているよ」

ラルゴンキンが背を向け、ヤークトーを連れて歩きだす。
ガユスは魔杖剣の柄に触れながら思い出したかのようにラルゴンキンを引き止めた。

「ラルッ…」
「なんだ? 決心が変わったか?」
「………ラルゴンキン、噂だと、腰痛には首吊り自殺がいいらしいぞ」

ユースにもガユスが本当はそんなことを伝えたかったのではないとわかったが、ラルゴンキンは豪快に笑うと、片手を上げて去っていった。
ギギナが鷹揚に頷いていた。が、ラルゴンキン達の姿が完全に見えなくなると、次にユースを見、視線を幾分強くさせた。

「……さて。ではユース。
 貴様は何故ここに?」
「ギギナさん、私は」
「事実を答えろ」

ギギナの鋭い視線が向けられるが、ユースはうーんと可愛らしく小首を傾げ、「先生達もこっち?」と確認を取りつつ駐車場に向かい歩きだした。

「んーと、口添えをしに来たというのは本当ですよ。
 説明するのもなんとなく面倒だから見せちゃうけど、先生達以外には内緒ですよ?」

ユースは可愛く笑うと手持ちのバックから小さなペンダントを取り出した。

それにはツェベルン龍皇国の国旗が描かれている。
よくいえばイェスパーの軍服にぶら下がっているものと同じものだった。

2人の顔に驚きが混ざる。ユースが眉をひそめながらガユスとギギナの顔を覗きこんだ。

「モルディーン・オージェス・ギュネイ枢機卿長の名前はよく知っていると思うけど…」
「まさかと思うが知り合い!?」

緊張が走る。が、ユースはその緊張を解くようにまた微笑んだ。

「んと、知り合いというか、猊下様にはとても可愛がって貰っているのです。
 立ち位置的には私は十二翼将第2翼の大賢者ヨーカーン様の娘です。血のつながりはありませんが。」
「…ッ!?」

ガユスとギギナは息をつくのすら忘れたように足を止めた。
ユースは数歩先で2人に振り返っている。

大陸第2位の大賢者ヨーカーンの娘。下手をしたらそこらの貴族よりも敬うべき存在だ。

彼女はそんなガユス達の反応を見つつ、心底楽しそうに笑顔を浮かべていたが、彼らの苦々しい顔は強まるばかりだった。

「春先の話は少し前にベルくんから聞きました。あとこの前の勇者様の話もお喋りなベルくんから。
 今回の事も大賢者様から噂で聞いて、エリダナの上の方に問い掛けてみたんです。
 問い掛けたとは言ってもあまり猊下様の名前も出せませんし、簡単な世間話で済ませましたけども…。
 ですからやっぱり今回の無罪放免はイアンゴさんの技量ですよねぇ、素敵」

そこでユースは一瞬苦そうな顔をしたが、また笑う。

「先生達と猊下様の険悪加減はわかっているつもりです。
 でも私は猊下様みたいにガユス先生とギギナさんで遊んだりはしないから安心してくださいね。
 私、どっちかっていうと大賢者様が大好きだし。大賢者様は咒式士で遊ぶ気なさそうだし。
 あ、今まで隠していてごめんなさい、先生。私も最初は知らなかったのだけど、最近教えてもらえて…」

ユースは申し訳なさそうな顔をしながらも何処か楽しそうだ。
長文を話しきったユースは反応を待つようにガユスを見上げた。

口を開くガユスをユースは見つめていた。

「……本当にあのモルディーン枢機卿長と関わりがあるのか?」
「はい。
 あ、証拠写真ありますよ! 猊下様の貴重な寝顔!」
「いらん。燃やせ」

心底嫌そうな顔をするガユスにユースはまたクスクスと笑う。
ギギナはまだ怪訝そうにユースを見ていた。

「それで、今回、私とガユスに関わった理由は?」
「理由というか……お世話になった人が裁判所に行ったら誰だって不安になりますよ?
 私なら龍皇国の紋章持ってますし。どうとでもなりますから。
 理由という理由はその程度です。今回のお話は猊下様も知らない事ですし」

ユースは先程見せたソレをまたちらりと伺わせる。
にこりと笑って、ユースは小さく舌を出した。

「でも私が口添えされたことは内緒ですよー、猊下様よりも大賢者様よりも、真っ先にイェスパーに怒られてしまう」

ほら、彼、猊下様大好きだから。とユースは笑う。
ガユスとギギナの苦い顔は取れはしなかったが、なんとなくでも理解したのだろう。

ふいにユースは駐車場を見つめる。
遠くには髪を2つに縛り上げたユースよりも幼めの少女が見えた。

少女はガユスとギギナの姿を確認すると手を大きく振りながら駆け寄ってきて、こけた。
ガユスが呆れ顔のまま少女に歩み寄る。

「アナピヤは正統派の寸劇をするなぁ。意外と古典好き?」

アナピヤと呼ばれた少女は泣き出しそうな顔を必死に堪えていた。
ガユスは苦笑を零しながらアナピヤを助け起こしていた。

「あぁ嘘だ嘘。治癒咒式がいるか?」
「だ、大丈夫くない。だけどガユスの意地悪には慣れた」

きっと睨むアナピヤを、ユースが不思議そうに見ていた。

「ガユス先生、この子は? 隠し子さん?」
「違う」
「だと思いました。
 はじめまして。私、ユース」
「あたし、アナピヤ!」

歳の近い2人がニコと笑いあう。
大人2人は子供達の会話に口を挟もうとはしなかった。面倒臭かったというのもあるのだろうが。

膝を擦りむいているアナピヤを見て、ユースがバックから絆創膏を探り当てた。

「これ、あげる。私、咒式は使えないからこんなのしかないけど…」
「本当!? わぁありがとう。ガユスより全然優しい!」

じととガユスを睨むアナピヤは相当苦労しているようだユースが楽しそうにする。

「でも本当にアナピヤちゃんはどうして先生と?」
「あたし、今、お父さんを探してて…」
「………お父様」

呟いたユースの表情が曇る。アナピヤが心配そうにユースを見た。

「ユースちゃん…?」
「あ、ごめんなさい。私もお父様の…ううん、お父様を、探していたから。
 お父様を探すためにエリダナに1人で住んでいるの。
 猊下様と大賢者様の反対を押しきってね」
「そうだったんだ…。
 あ、じゃあさ!」

そこでアナピヤが向日葵のように笑いながらユースの手を取った。

「ね! 一緒にお父さんを見つけようよ!」
「アナピヤ!?」
「アナピヤちゃん…?」

口を挟もうとはしていなかったガユスもこれには驚きの声を上げた。
それは制止の意味も混ざっていたが、アナピヤは笑顔のまま話し出す。

「あたし、全然昔の事を覚えてなくて、お父さんがどんな人だったのかも覚えていないんだ。
 だからさ、あたしのお父さんを探しつつユースちゃんのお父さんも探せたらなぁって…」
「それは、…それは楽しそうですね。
 でも」

ユースはちらりとガユスとギギナの2人を見た。不機嫌そうな大人組を申し訳なさそうに見ていた。

アナピヤがユースの手を掴んでぶんぶんと上下に振り回す。
そしてガユスとギギナを見た。

「ね、いいでしょ、ガユス? お願い!」
「駄目。そんな子供独特の視線を投げつけて来ても大人は屈しません。
 第一ユースは俺らに手伝ってもらうより、それこそイェスパー等十二翼将に手伝ってもらった方が効率がいいのでは?」

むしろ、と不思議そうな顔をしたガユスにユースはまた寂しそうな笑みを向けて、握られたアナピヤの手を強く握り返した。
頭に飾られた向日葵を揺らしながらユースは答える。

「父親の件はイェスパーにも、翼将の人たちには一切言ってないんです。
 私が一人暮らししている理由も、どうして大賢者様と一緒にいるのかも。
 心配性の人ばかりだし、迷惑ばかりも掛けていられませんから」

言ったあとにユースもお願いするように上目遣いでガユスを見た。

「先生、アナピヤちゃんメインで全然構わないんで、数日間一緒にいてもいいですか…?」

ガユスは無言。アナピヤとユースの純粋な視線にガユスはまだ無言。
と、そこでギギナが口を開いた。

「いいのではないか?」
「! ギギナさん本当?」
「ギギナ…ッ、お前はまたそうやって…!」
「あのモルディーンの翼将には十分に『借り』がある。
 いつか倒すが」

ニヤと獰猛な笑みを零すギギナに喜んでいたユースが、表情を一変させて頬を膨らませた。

「ぜっったいイェスパーの方がギギナさんよりも強いんですからね!」
「どうだか」
「次は絶対負けないもーんだ」

いーと歯を向けたユースがアナピヤに向かって満面の笑顔を向けた。

「じゃあ暫く一緒にいれるね、アナピヤちゃん!」
「うん! ギギナありがとう!」
「ガユス先生もありがとうございますっ」
「…俺、何も言ってないけどね! まぁ、やるからにはユースの父親も見つけないとな」

そういってユースの頭を撫でるガユスに、ユースの頬が緩む。

その時、ユースの携帯が鳴って、ユースは画面を見た。ユースの顔が優しく綻ぶ。

「じゃあ、先生、今日は私行きますね!
 絶対連絡下さいよー」
「わかった。わかった」

飽きれた様子のガユスと連絡先を交換する。
ユースはアナピヤの手を両手で包んだ。

「アナピヤちゃん、またね」
「うん。ユースちゃん、また」

少女達は笑いあう。にこにこと笑うユース達の周りには夏に相応しく向日葵でも舞っていそうだ。

ユースが手を離し、駐車場に背を向けた。
ガユス達に手を振った後、連絡のあった場所まで歩く。

少し歩くと、駐車場からは見つからない位置にトランクに腰掛けたベルドリトがいた。
ユースが嬉しそうにベルドリトに駆け寄る。

「ベルくん! 迎えに来てくれてありがとう♪」
「でも、ガユス達との話途切らせちゃった?」
「ううん。大丈夫。たぶん、また明日も会うだろうし」

2人話をしながら、並んで歩きはじめる。ベルドリトがトランクを引きながらユースと歩幅を合わせていた。
ユースがベルドリトの顔をのぞく。

「ねぇねぇ今日はリンツにお泊り出来るって聞いたんだけどー」
「兄貴がね、たまにはいいだろうって。
 もきゅっ兄貴の奢りね♪」
「やたっ」

リンツホテルはエリダナの中でも随一の高級ホテルだ。
いくらエリダナの中とはいえ、ユースでも1度も入ったことのない場所だった。

「でも急にどうしたの? エリダナなら私の家もあるのに…」
「いいじゃん、いいじゃん! ほら、ユースちゃん、手繋いで」

首を傾げたユースにベルドリトがあははと笑いながら手をとった。

そして極々自然にエリダナの街中にあるビルの壁を透過していった。

ユースはイェスパーに会えることを楽しみにしながらも、この複雑な恋心をどうしてしまおうか。と、自嘲すら零していた。


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