□□年○月×日

今年も暑くなってきました。
エリダナの夏は本当に暑くて困ります。
私の頭の上の向日葵も元気に日差しを受けています。

私はお泊りに行った皇都からエリダナへと帰って来ました。

皇都ではいろんな事がありました。

イェスパーやベルくん。大賢者様、猊下様。他の翼将さん達。
みんな優しくしてくれました。

淋しい事もありました。けどみんなに会えて嬉しかったので、私は大丈夫です。


さて。今日は最近、エリダナで起こっていた事について書きます。
とても大変な事件で、悲しい事件でした。

私は直接関わった訳ではありません。
でも、エリダナ市民としては関わっていました。

エリダナの事件と私の想いとは全く関係ないかも知れないけれど。

今日は手が疲れるまで書き残しておきます。


†††


「ありがとう、送ってくれて」

駅のホームにて、ユースは淋しげに微笑む。

彼女なりの笑顔なのだろうが、悲痛さがどこからか滲む。目の前にいたベルドリトの表情も歪んだ。

「ユースちゃん、にょるんとごめんね? 今回はきなきな兄貴のせいで…。
 今日も任務とかで来てないし」
「大丈夫。それがイェスパーだもん」

彼女は微笑みながら、わざわざエリダナまで汽車で送ってくれたベルドリトに礼を言う。

「遠いのにありがとう」
「ううん。ユースちゃんもまた来てね」

そう言ってベルドリトは乗ってきた汽車にまた戻る。
出発の時間になるとベルドリトの姿はゆっくり流れて行った。
ユースはベルドリトを見送ったあと、エリダナの街へと出ていく。

数日間ぶりのエリダナだったが、ユースは出てすぐ、それに目が入り怪訝そうな表情を浮かべた。

「――皇国の苦境は七都市同盟の資本家による経済侵略である!」
「七都市同盟、企業による搾取を許すな!」

駅前で演説をする男。若い人々の行進が続く。ユースと同じく怪訝そうな表情をする者もいれば、賛同するように瞳を輝かせる者もいる。

「何あれ?」

ユースは素直な感想を述べ、その人々を見た。
基本的に周りは邪魔くさそうに見るだけだが、熱心に聞く人もいないわけではない。

「……ちょっといない間に大変みたい」

ユースは呟いて家路を急ぐ。
あまり外にいないほうがいい。という彼女なりの判断だ。

行進を避けながら彼女は足早に。


†††


その予備校でユースは小さな欠伸を漏らした。

咒式の原理や、異貌のものどもの種類などを教えていく、赤毛の講師。
彼の本職は攻性咒式士だが、経済的危機からの副職だと、いつか言っていた。

本当はユースには予備校に通う理由はない。
彼女は別に高等学校等に通ってるわけではない。

そして実際の所、大学進出も、優位な就職も望んでいなかった。
働きたくない。というわけでは決してない。だが、将来はただ漠然と皇都に帰るのだろうと考えていた。

そんな彼女がここにいる理由はただ単純に「普通の学生のまね事がしたい」というだけだ。

ヨーカーンに拾われたユースには学歴をはじめ、家名すらない。
そんな彼女には学校などには通えないのだ。
今着ている制服も、どこかの学校が指定している制服ではない。自分で選んできた、ただ『制服のような』私服だ。

だが、それでも彼女は予備校に通っていた。
予備校の生徒もユースに深く追求しようとはしない。

だがらと言って友人が多い訳でもないのだけど。

ユースがもう一度欠伸を噛み殺すと同時に授業終了の鐘がなった。
騒然と騒ぎ出す生徒に紛れて、ユースも席を立つ。

廊下を出ると生徒のテュラスが先生であるガユスに絡みに行く姿が見えた。
ユースもそれを少し足を止めて見つめる。

――自身と年の離れた隻眼の彼と重ねたのかもしれない。

ユースは微かに淋しげな顔をしたあと、2人から目を逸らし、予備校から出て行った。

予備校の帰りに氷菓子でも食べようと、ふらりとお気に入りの店に立ち寄ると、氷菓子(苺)のが80イェンほど値上がりしていた。

「うぅ…イタイ」

ユースは呻きながらも氷菓子を注文。

この値上がりも不況の余波でしかない。
それでもこの余波に堪えられない人もいるのだろう。

最近、活発化している同盟への批判もその余波によるものだ。

ユースは何か不吉な悪寒をかかえながら、静かに歩いていた。


†††


数日前ウォード社が大資産家のダリオネートに買われた。
バスが横転し、死傷者多数。
大使館爆破、などのエリダナ新聞の小さな欄を見ながらユースはエリダナの街角、カナレイン通りにいた。

最近のエリダナは不況に不況が重なり、急速に悪化していた。
街中で見かける行進も数を増し、過激な暴徒も現れている。

それに合わせるかのようにエリダナでは<古き巨人>の姿も見られ、さらには現在、一般の女性が誘拐犯にさらわれているとも聞く。

エリダナは荒れ、沸騰していた。

「…もうしばらく皇都にいればよかったなぁ」

自身の異貌のものどもに追われるという謎の体質を考える。さすがに彼女でも<古き巨人>にも追われたら間違いなく死ぬ気がしていた。

「巨人は無理。でかいもん」

ユースの独り言も空しく、まだまだ昼間だというのに街行く人の表情もどこか暗い。
ユースは困り顔を見せながら、ぼんやりと歩く。

今日は気に入っている雑誌の発売日だった。
外が安全ではないことを感覚で理解しながらも、ユースは家にこもっていられない性格だった。
わくわくとしながら本屋へと向かう。その途中。

爆発音。

「ッえ?」

立て続けに爆発音と揺れ。

周りの人々が驚き、周りを見渡す。
ユースは近くの街灯を握りながら、音源を探す。

よくよく耳を澄ますと、どうやら音源は近くの駅からのようだ。
だが、あまりにも音源が近すぎる。
周りの人々はうろたえながらも足早に逃げはじめたが、ユースは迷いながらその場に留まる。
数瞬考えたあと、彼女は携帯を取り出し、アドレス帳を呼び出し、素早い手付きでその通信ボタンを押した。

そして現れた立体映像にユースは小さく笑みを向ける。が、その映像は顔を歪めた。

「こんにちは」
『………だから、俺は学生に使われる情報屋じゃないからな』

現れたのは夜会の仮面で顔を覆った情報屋、ヴィネルだった。

不服そうなヴィネルだったが、ユースは気にせず、構わず話し掛けた。

「いーの。
 ねぇ、今、この辺りで何が起こってるの?
 今、デナリス駅の近くにいるんだけど」
『攻性咒式士ばりに戦う気かい?』
「反対。逃げるの。
 でもこの状況じゃどこに逃げても危険でしょ」

ユースの言葉にヴィネルは黙る。
少し黙ったあとに呆れたようにユースに情報を与えはじめた。

『さっき、デナリス駅で攻性咒式士5人と<古き巨人>2体が戦いはじめた。
 この騒ぎは列車に乗ったまま移動し、さらに2手に分かれた。
 1つはギズィデン地区に向かい、もう1つはカナレイン通りで戦闘中だ』
「それ! カナレイン通りのほう! ここからすぐ近く。それ詳しくお願い」
『こっちは攻性咒式士2人と<古き巨人>1体がいる』
「攻性咒式士2人? ガユス先生とギギナさん?」

ユースはふと思いついたこの街で有名な攻性咒式士の名前を出す。が、ヴィネルは否定した。

『いや。この風貌はエリダナの咒式士じゃないな。
 1人は幼い風の男にもう1人は右目に眼帯をした……ちょっと最後まで聞いてよ!』

ヴィネルが最後まで言い切る前にユースは走り出していた。

逃げるのではなく、音源へと。


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