一個前の続きのようなもの
ぱちりと目を開けば見知った天井。あれ、と一瞬状況が飲み込めず、それでもすぐに先程までの記憶は全て夢だったことに気付いた。
なんとも不愉快な夢だった。思い出したくない、忘れてしまいたい、けれど決して失ってはいけない罪の記憶の断片。ただし、今日に限ってはルシャナだけでなく婚姻相手として宛てがわれた娘の存在も登場していたが。
ぼんやりと天井を眺めながら思い出す。父も兄も失い突然王城に召し上げられたときのこと。なにも分からぬ自身を助ける存在として紹介された、王妃候補である娘のこと。それから、塔で出会った女神のこと、命を落とすこととなるあの大罪のこと。
折角目覚めたことだ。水でも飲もうと身体を起こすと同時に控えめなノック音が響く。返事をしてやればするりと華奢な影が入り込んで来た。
「王様、お水をお持ちしましたわ」
「……メイド長か」
他人の機微に聡いのか、勘が鋭いのか、はたまた先見の能力でも得ているのか。都度恐ろしく良いタイミングで現れる彼女は半人半烏の姿をした異形だ。
自分より後に生まれ堕ちたという彼女もまた、他の異形たちと同じようにいつの間にかやってきて勝手に城に棲みついている一人である。宰相の指示を受けて様々な仕事をこなす彼女は、その黒いロングドレス姿も相まっていつからかメイド長と呼ばれている。
ありがとうと礼を言い受け取った水を煽れば、程よく冷えた潤いがしみるのを感じた。
「王様のお役に立てて何よりです」
「……僕は君達の王ではないよ」
「あら、それなら私だってメイドではありませんわ」
そもそもメイドなんてしたことないんですけどねえ、纏め役は他にいらっしゃいましたし。と本人は笑う。それでも何故かメイド長という呼び名を受け入れ、他の異形以上に自分の世話を甲斐甲斐しく焼く姿からは不思議と不快さを感じていないのも事実だ。
それはそう、使用人というよりも寧ろ身内のような——
読まなくて大丈夫な設定あれこれ
メイド長=ナマエ 甲斐甲斐しかったのは夫婦になる予定だったから。ただし寄せ集めの城において彼女も正当な姫ではなかったし、お互いに恋愛感情を持っていなかったこともしっかり認識している。どちらかといえば姉と弟の関係。黒いドレスは喪服でもあり彼女の血で染まったためでもある。
ルキウス亡き後、国の建て直しのために利用されまくった結果、心も身体も立場も、全てを踏み躙られ命を落としたことにより異形となった。絶望はすれども恨みは持っておらず、人間に対しては無関心寄り。