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その日ローは七武海の召集を受け、海軍本部に足を運んでいた。心底めんどくさいと思いつつもこればかりは安易に拒否することはできない。七武海という立場はローの緻密な計画においても、この先の航海でも決して欠かせないものなのである。

七武海の招集となれば「あの男」とも必然的に顔を合わせることになるだろう。再会を望んでいないローはますます気持ちが削がれてくるとばかりに小さく溜息を吐いた。

「トラファルガー・ローだね。早くお入り」

「…大参謀か」

「ドフラミンゴならまだだよ。まったくあの男はいつもいつも時間を守りやしない」

重厚な扉の前で出会わせたのは「海軍本部中将“大参謀”つる」であった。つるは「あの男」とローが懸念している男の存在がまだないことを告げると中に入るよう促した。
自分とドフラミンゴの関係を知る者は海軍には存在しない。しかしつるはその洞察力でローとドフラミンゴとの間にはなにかが存在し、また、ローがドフラミンゴを懸念していることに気付いているようである。まったく恐ろしいものだとローは促されるままにその部屋に入った。

そこにはすでにジュラキュール・ミホーク、バーソロミュー・くま、バギーといった面々の姿があった。ボア・ハンコックは今回の招集にも従わなかったらしく、姿はみえない。ローはつるの言葉通り、ドフラミンゴの姿がないことを確認するとミホークの隣へと腰を下ろした。

つるはこれ以上のメンバーは揃わないと踏んだのか、海軍総帥であるサカズキに会議を始めるよう視線をやった。

「女帝とドフラミンゴは欠席か。あの2人にはそろそろ処分を与えるべきかの」

サカズキがそう低い声で呟く。しかしそれ以上とやかく言うことなく、会議を開始した。

ローは配布される資料に目を通していたが、ふと船においてきたなまえのことを思い出した。おだやかな微笑みを浮かべた彼女に見送られ、ローは船をでてきた。今日はどのような花を手土産にするか、そのようなことを考えながら、新世界の情勢を話すサカズキの話を聞き流していた。

その時だった。派手な音をたてて重厚な扉が開かれた。驚いてそちらを見やす面々とは違い、ローは眉根を深くよせた。

「ドフラミンゴ!お前は扉も静かに開けられないのかい!」

「フッフッフッ。せっかくこの俺が来たんだ。まあそう怒らないでくれよ、おつるさん」

「まったく…。早くお座り」

ド派手なピンクの羽織りをまとった七武海の1人であるドンキホーテ・ドフラミンゴ。その男が纏う独特の覇気にその部屋の警備にあたっていた海兵達は息をのんだ。殺意にも似た刺すようなそれ。ドフラミンゴはその覇気を抑える様子もなく、乱暴に空いていた席に腰を下ろした。

「フッフッ。俺は忙しいんだ。こんなしょうもない会議さっさと終わらせてくれよ」

そう告げるドフラミンゴだが、その視線はローに向けられていた。ローはドフラミンゴの視線に気付きながらも決してそちらに目をやることはせず、手にしていた資料を睨みつけた。




「女を買ったらしいじゃねぇか」

会議が終わると早々とローは部屋を出た。しかしドフラミンゴがそう易々とローを逃がすはずもなかった。飄々とローの後ろをついて歩き、人の気配が完全にないことを確認すると無遠慮にそう告げた。

「珍しいじゃねぇか。お前がなんの役にもたたない女に大金を積むなんざ」

「ただの気まぐれだ」

「フッフッフッ。気まぐれねぇ」

「なにが言いたい」

ドフラミンゴはヒューマンオークションの裏の支配人だ。大方、ローが人間の女を競り落としたという報告を店の者から受けたのだろう。
一番知られたくなかった人物にこうも早く情報が回ってしまうとは。ローはドフラミンゴの性格を知ってるが故になまえの存在を隠していたかった。

「今度会わせてくれよ。お前の大事な嬢ちゃんによ」

「断る。ドレスローザ―になんざ連れて行くわけないだろ」

「そうケチケチするなよ。減るもんでもねぇ」

ドフラミンゴの瞳がサングラスの奥で不気味に揺れる。まるで獲物に狙いを定める肉食獣のようなその視線にローは一層表情を険しくした。この男のことだ。なまえを目の前にしてなにもしないわけがない。そのことをローは十分に理解していた。

依然としてドフラミンゴがローを解放する様子はない。しかしこれ以上この場所に留まるつもりのないローはドフラミンゴに背を向けた。

「可愛い可愛い俺の部下に1つだけ忠告しておいてやる」

ローは振り返らない。しかしドフラミンゴはそれを気にすることなく続けた。

「それほど大事なら精々目を離さねぇことだ。お前は海賊。その女が弱点にもなるってことは忘るなよ」

「…手離すつもりはない」

「フッフッフッ。それは結構なことだ」

ドフラミンゴはそう言うとひらりと身を翻して去って行った。

ローはドフラミンゴが消えて行った廊下の先を見つめていたが、やがて自分も帰路につくため踵を返した。

――ちらりと見やった空は先ほどとは打って変わり、暗雲が広がっていた。

title カカリア様