02

「私、カルタ姉様の跡を継ぐわ、マクギリス。」

大事な話がある、とルチアに告げられた時から少し嫌な予感はしていたが、思いもよらない彼女の言葉に驚く。

「つまり、イシュー家の当主になると?病床の身とはいえ、現当主がいる今、君がそんなことをする必要は…。」

「叔父様とは話をつけてきました。カルタ姉様亡き今、直系ではないとはいえ、空席になるよりはと考えられたようです。これからは、私がカルタ姉様の代わりに叔父様の名代を努めます。」

凛とそう語るルチアは、今までの彼女とは見違えてみえた。
ガエリオとカルタが亡くなってから、落ち込み、引きこもりがちだったルチアは、ある日を境に変わっていった。
最近の彼女の変化には眼を見張るものがある。…最も、私にとっては望まぬ変化なのだが。

「君も知っているだろう?今のセブンスターズ…ギャラルホルンには何かと揉め事が多い。君をそんな場所には出したくはない。」

「…確かに、今まで何も知らなかった私がいきなりそんな大役を務めるのは不安がないといったら嘘になるの。私はカルタ姉様やあなたのように実戦に出た経験もないから…。」

ぎゅっと自分の腕で体を包むルチアの体は少し震えていた。
無理もない、今まで温室育ちのお嬢様だった彼女が、初めて争いの場に出るというのだ。

「…無理はしない方がいい。君が心配だ、ルチア。」

そう言って、そっと震えるルチアの肩に手を触れると、彼女はじっと私の眼を見つめてきた。
ルチアが心配だというのは私の本心であって嘘ではない。
もちろん、自分の思惑も少なかれ関係はしてくるのだが、その気持ちに嘘偽りはなかった。

「ありがとう、マクギリス。でも、私、変わらないと。カルタ姉様とガエリオがいなくなって、私、わかったの。今までどれだけ大事にされてきたのか、守られてきたのかって。…だから、今回はやらせてほしいの。」

まっすぐとこちらを見据えるルチアの瞳は、不安に揺らいでいたが、迷いはない。
これを心変わりさせるのは骨が折れそうだ。
無論、手を尽くせば、成しえないことではないのかもしれない。
ただ、まだファリド家の一当主にすぎない私が、イシューの問題に手を出すのは出過ぎた行いだろう。
誰に何を邪推されるかもしれない。
…ひとまず、ここは手を引こう。
私が手を出さずとも、欲深い者達の多いセブンスターズでの内情にルチアが根を上げるかもしれないのだから。

…そうやって、正当な事柄を並べて、ただ、彼女の敵になりたくない、自分の気持ちを誤魔化しているだけかもしれないと、ふと思った。