「お待ちしてました、マッキー!ルチアお姉様!」
マクギリスの車で我が家までやって来た二人を、飛びつかんばかりの勢いで妹が出迎える。
今回は、この前の食事会に参加できなかったアルミリアのたっての希望で、二人をボードウィン家に迎えることになった。
「さあさ、座って?私がお茶の準備をするから。お兄様は今回もいらないよね?」
前回、マクギリスが家を訪れた際、紅茶を断ったことを妹はいまだに根に持っているらしい。
ここは、折れておいた方が無難だろうか。
「いや、今回はお願いしよう。」
「ほんと?嬉しい!じゃあ3人分ね。」
嬉しそうに顔を輝かせるアルミリア。
こういう素直な所は我が妹ながら悪くはないと思う。
「手伝おうか?アルミリア。」
幼い妹が、3人分の紅茶を用意するのは大変だろうと気を使ったのだろう。
ルチアが優しくそう尋ねる。
「ありがとう、ルチアお姉様。でも、私も一人前のレディです。これくらい一人でできます!」
どう見ても兄の俺からはお子様にしか見えないのだが、一人前のレディ、それが最近の妹の口癖だった。
あらゆることに、大人であるマクギリスに追いつこうと、背伸びをすることが多くなった。
それほどまでにマクギリスのことが好きなのだろう。
兄としては正直少し複雑な心境だ。
「大丈夫かしら、アルミリア。」
「まあ侍女もついてるんだ、心配するな。」
「二人はいつまでゆっくりできるの?」
「もうすぐ束の間の休暇も終わりさ。戻ったら溜まっている仕事が山積みだ。」
「そうだな。片付けなければいけないことも多い。」
あれやこれやと三人で話し込んでいる内に、無事に準備が済んだのか、侍女を引き連れてアルミリアがもどってくる。
「お待たせ!」
4つのお揃いのティーカップには、よい香りを漂わせる紅茶がなみなみと注がれていた。
それからは、一仕事を終えたアルミリアも交えて、ささやかなお茶会となった。
*
「今日はありがとう。すごく楽しかった。」
「また来てくださいね!マッキー!ルチアお姉様!」
「送っていこう。」
「ありがとう、マクギリス。」
行きもマクギリスに送ってもらったのだが、その時にはとても言い出せなかったことを、夕食の時に飲んだお酒の力も手伝ってか、するりと私の口から抜け落ちてしまった。
「マクギリスはどうしてアルミリアと婚約したの?」
「…それは困った質問だな。」
「アルミリアのことが好きだから?」
ああ、駄目だ。恋人でも何でもないのにこんなにしつこく聞いてしまっては。
嫌がられるだけなのに、タガが外れたかのように溢れ出る言葉を止めることができない。
その質問に、マクギリスは困ったように笑っていた。
「もちろん、嫌いではないさ。」
「…家のため?」
「否定はしないな。…そういうルチアはどうなんだ?婚約の申し出なら後をたたないだろうに。」
「私はまだ、そんなつもりは…。」
「そうか。それは安心した。君が誰かのものになるのは少々心苦しい。」
「それってどういう意味?」
「それは自分で考えてみるといい。」
そう言って、マクギリスはいつものようにはぐらかす。
マクギリスの気持ちはわからないまま、もうすぐマクギリスとアルミリアの婚約パーティーの日か訪れる。
見知った二人の婚約パーティーなのだから、喜ばしいはずなのに、もやもやとした重苦しい気持ちがどうしても離れなかった。