02

「お待ちしてました、マッキー!ルチアお姉様!」

マクギリスの車で我が家までやって来た二人を、飛びつかんばかりの勢いで妹が出迎える。
今回は、この前の食事会に参加できなかったアルミリアのたっての希望で、二人をボードウィン家に迎えることになった。

「さあさ、座って?私がお茶の準備をするから。お兄様は今回もいらないよね?」

前回、マクギリスが家を訪れた際、紅茶を断ったことを妹はいまだに根に持っているらしい。
ここは、折れておいた方が無難だろうか。

「いや、今回はお願いしよう。」

「ほんと?嬉しい!じゃあ3人分ね。」

嬉しそうに顔を輝かせるアルミリア。
こういう素直な所は我が妹ながら悪くはないと思う。

「手伝おうか?アルミリア。」

幼い妹が、3人分の紅茶を用意するのは大変だろうと気を使ったのだろう。
ルチアが優しくそう尋ねる。

「ありがとう、ルチアお姉様。でも、私も一人前のレディです。これくらい一人でできます!」

どう見ても兄の俺からはお子様にしか見えないのだが、一人前のレディ、それが最近の妹の口癖だった。
あらゆることに、大人であるマクギリスに追いつこうと、背伸びをすることが多くなった。
それほどまでにマクギリスのことが好きなのだろう。
兄としては正直少し複雑な心境だ。

「大丈夫かしら、アルミリア。」

「まあ侍女もついてるんだ、心配するな。」

「二人はいつまでゆっくりできるの?」

「もうすぐ束の間の休暇も終わりさ。戻ったら溜まっている仕事が山積みだ。」

「そうだな。片付けなければいけないことも多い。」

あれやこれやと三人で話し込んでいる内に、無事に準備が済んだのか、侍女を引き連れてアルミリアがもどってくる。

「お待たせ!」

4つのお揃いのティーカップには、よい香りを漂わせる紅茶がなみなみと注がれていた。
それからは、一仕事を終えたアルミリアも交えて、ささやかなお茶会となった。


*

「今日はありがとう。すごく楽しかった。」

「また来てくださいね!マッキー!ルチアお姉様!」

「送っていこう。」

「ありがとう、マクギリス。」


行きもマクギリスに送ってもらったのだが、その時にはとても言い出せなかったことを、夕食の時に飲んだお酒の力も手伝ってか、するりと私の口から抜け落ちてしまった。

「マクギリスはどうしてアルミリアと婚約したの?」

「…それは困った質問だな。」

「アルミリアのことが好きだから?」

ああ、駄目だ。恋人でも何でもないのにこんなにしつこく聞いてしまっては。
嫌がられるだけなのに、タガが外れたかのように溢れ出る言葉を止めることができない。
その質問に、マクギリスは困ったように笑っていた。

「もちろん、嫌いではないさ。」

「…家のため?」

「否定はしないな。…そういうルチアはどうなんだ?婚約の申し出なら後をたたないだろうに。」

「私はまだ、そんなつもりは…。」

「そうか。それは安心した。君が誰かのものになるのは少々心苦しい。」

「それってどういう意味?」

「それは自分で考えてみるといい。」

そう言って、マクギリスはいつものようにはぐらかす。
マクギリスの気持ちはわからないまま、もうすぐマクギリスとアルミリアの婚約パーティーの日か訪れる。
見知った二人の婚約パーティーなのだから、喜ばしいはずなのに、もやもやとした重苦しい気持ちがどうしても離れなかった。