03

結局、嬉しいような、辛いような、複雑な心境のまま、とうとうこの日を迎えてしまった。
今日は、アルミリアとマクギリスの婚約パーティー。
私だけではなく、様々な有力貴族達が招かれている。
それもそうだ、ボードウィンとファリドというセブンスターズの2大勢力が、婚姻を結ぶというのだから。
口にこそ出さないが、皆、この2家の動向が気になって仕方ないようだった。
先ほどから、マクギリスは忙しく招待客達の間を飛び回っていた。

そんな彼とは対照的に、特に何もすることのない私は、アルコールの入ったグラスを片手に、外を眺めている。
すると、背後から見知った声に呼び止められた。

「踊らないのか?ルチア。」

「ごめんなさい。今日はあまりそんな気分ではなくて…。」

「いや、かまわないさ。」

「それよりいいの?こんなとこにいて。」

「まあ、俺が結婚するわけではないからな。」

そうは言っても、ボードウィン家の次期当主でもあり、アルミリアの兄でもあるガエリオだって、忙しいだろうに。
暇そうにしている私を気にかけてくれたのだろうか。

「今回のことは、本当におめでとう。マクギリスとアルミリアは?」

「さっきまでは一緒にいたんだが、今は見当たらないな。」

ガエリオと同じように会場を見渡してみても、主役2人の姿は見つけることができなかった。


しばらくそうして2人で話していると、何かあったのか、ボードウィン家の従者がガエリオの姿を見つけ、彼にそっと耳打ちをする。

「ああ。悪い、ルチア。すぐ戻る。」

「うん、行ってらっしゃい。」

バツの悪そうな顔をしたガエリオを見送った後、先ほどのガエリオの話が気になって、主賓2人の姿を探してあちこちを歩きまわってみる。
しばらくそうしていると、喧騒から離れたバルコニーで楽しそうに踊る2人の姿を見つけた。
アルミリアは、小さくても立派なレディーで、マクギリスはそれを優しくエスコートする。

似合わないだの、何だの、何も知らない招待客は口々に好き勝手言っていたけれど、私には今この瞬間の2人がとてもお似合いに見えた。

*
用事を済ませて、元いた場所に戻ると、先ほどまでそこにいたはずのルチアがいない。
会場の中をくまなく探しても、その姿は見当たらず、人気の少ない廊下にまで足を伸ばす。
すると、奥の方から小さく女の泣き声が聞こえてきた。
ああ、なんだかとても嫌な予感がする。
先ほどまでのルチアの様子は明らかにいつもと違っていた。
本人はそれらしく振舞っていたが、側からみると傷ついているのはバレバレだった。
もう、何年の付き合いだと思っている。

足早に歩をすすめると、暗がりでしゃがみこんで泣くルチアの姿があった。

「ルチア…?」

「ガエ…リオ…。」

顔を上げたルチアの瞳は涙で濡れていて、思わず見惚れるほど、とても綺麗だと思った。
何故、泣いているのか理由ははっきりとしていたが、一度声に出して問いかけてみる。

「マクギリスとアルミリアのことか?」

ルチアは答えこそしなかったが、その反応から彼女の涙の理由は明らかだった。
これ以上、妹と親友のことで悲しむ彼女を見たくなくて、俺は今まで密かに忍ばせ続けた気持ちを彼女に告げる決心をする。

「ルチア、こんな時に言うのはなんだが、聞いてほしいことがある。大事な話だ。」

「大事な、話?」

「ルチア、俺は昔からお前が好きだ。俺と、結婚してほしい。」

「え…。」

ルチアの涙で濡れた瞳は、驚きで大きく見開かれる。
いきなりこんな話をされたんだ。無理もないだろう。

「あー…こんなことを言っておいてなんだが、返事は今でなくてもいい。大事なことだ、ゆっくり考えてくれ。」

こくりと静かに頷くルチア。

「こんなところにいては風邪をひく。落ち着いたら、戻ろう。」

そっと自分の上着を彼女のドレスの上に被せると、俺は静かに彼女の手を握った。