「嫌だぁ…もう嫌だ。全部お前らのせいだ…武装探偵社が悪いんだ。社長は何処だ…?早く社長を出せ!でないと、爆弾で皆吹き飛んじゃうよ?」
そう叫び散らす澄色髪の男。何かのスイッチらしきものを持って人質を脅している。
そして今現在、学生服を着た少女と一緒に人質になっているのが紫琴。
彼女は麻縄で縛られ布を噛ませられの誘拐、強盗、立てこもりに在り来たりの方法で拘束されている為身動きが出来ない
その様子を、植木に隠れて様子を窺っていた三人は…
「怨恨か…面倒なタイプだね」
「僕は何故此処に居るんだ?」
「犯人は余程探偵社に怒り心頭らしい」
隠れているつもりなのだろうが、隠れきっていない。特に端二人
敦は自分が役に立たないと分かっているから何度も帰っていいかと聞くが当の二人は完全無視なためもう諦めた
太宰が云うに、澄色の男が持っているスイッチは高性能爆薬という時限爆弾の釦らしい。
ふと敦は今縛られている人質の二人に目を向けた
「清水さん…とあの女の子は?」
「彼女はナオミちゃん。バイトの人員だ」
バイトだと聞いて驚く敦。当然だろう、完全にとばっちりを受けたようなものだ
「え。でも清水さんは…」
「紫琴は可愛いからねェ。通りすがったときに彼女に惚れたんだろう」
「…真顔で云ってますけど、嘘ですよね?」
嘘だ。通りすがった瞬間惚れるなどあり得ない。どこぞの少女漫画だ。
第一、毎日毎日彼女にスライムのようにベッタリのこの男が惚れさせるわけがない。
そんなことよりも、まずあの爆弾をどうするか…と敦は自分なりに考えてみる。
端の二人は考えるという様子は見られなかった
太宰はみすみす社長を差し出そうとするし、国木田は国木田で彼は社長を差し出そうものなら犯人は間違いなく殺しにかかると分かっているのか頑なに拒否をする
そして、結果論ジャンケンとなったわけだが…
ジャンケンの結果は太宰がパーで国木田がグー。太宰の勝利だった。
負けた国木田はわなわなと震えているが対する勝者の太宰は態と国木田を茶化した
込み上げる怒りを耐えて冷静に犯人と向き合う
「おい、落ち着け少年」
国木田が話しかけると男は過敏に反応しスイッチを突き出して脅す。
それを見れば、迂闊に近づけない。加えて、男は国木田が異能力者だということは把握している。それだけではない、この探偵社の人員全ての顔と名前を調べているため尚厄介だ。
それを見た太宰は本格的にやばいと察知したのかこの現状の解決策を考える。
顔が犯人に割れておらずこの現状を切り抜けられるような逸材。すると__太宰は何か善からぬ事を思いついた子供のようなわっるい笑顔を…敦に向けた
「あーつーしーくん」
「嫌ですよ…」
「まだ何も云ってないよぉー?」
「云われなくても分かりますよ…」
呆れたように呟けば先程の巫山戯た表情から真剣な表情に変わる太宰。
「聞いてくれ、敦君。今この場で犯人に面の割れていないのは君だけなんだ…君が頼りなんだ」
「むむ無理ですよそんなの!第一どうやって」
「犯人の気を逸らせてくれれば後は我々がやるよ。そうだな〜落伍者の演技でもして気を引くというのはどうだろう…はいこれ小道具」
そう云って差し出されたのは幾つかの新聞とそれを担げるようなゴムだった
「信用し給え。この程度の揉事、武装探偵社にとっては朝飯前だにゃ?敦君」
そう云われてしまえば行く他なかった…
▼そうして、数分後____
「や、ややややめなさーい!親御さんが泣いているよぉ…」
通りすがりの出来損ない新聞配達員見参。
「何だアンタっ!」
やはり、この世の中…怖いものは怖い。そう実感させられる。しかし、これはある意味課せられた任務。任務は遂行しなければならない
「アンタ、ここの社員じゃないな」
「ぼ、ぼぼ僕は、この通り通りすがりの新聞配達員ですっ」
そう云って、新聞を見せる敦。それを信じた犯人は
用件を聞けば、敦は生きていれば好いことがあると断言した。すると、細かい男。その"好いこと"が何か聞いてきたのだ
これは完全に敦の見切り発車。登場から既にピンチな状況だ
「ち、茶漬けが食える、腹一杯茶漬けが食える!」
そう勢いのままに叫べばその儘勢いに任せるだけだ
天井のある所で寝られる。寝て起きたら朝が来る
「あ、でも…爆発しちゃったら君にも僕にも朝は来ない…何故なら死んじゃうから」
「そんなことは分かっている!」
段々瞳孔が開いて見える。見切り発車というのは恐ろしいものだ。今まで強気に出ていた男も今となっては勢いに押されて困惑している
こんなダメ人間は初めてだったのだろう…
敦自身も最早設定をお構いなしに犯人に仕事を探そうとまでも言い張る挙げ句、完全に目が逝っている
そして、それを間近で云われた男は強きもあったもんじゃなく完全に怯えている
今まで隙を窺っていた太宰は今が好機とばかりに国木田に促す。すると国木田は四つん這いから片膝たちのまま【理想】と書かれた手帳に何やら書き込みこう唱えた
「異能力《独歩吟客》」
そして、メモの一枚を破って
「鉄線銃(ワイヤーガン)!」
と云えば手に持っていたメモは次第に光を灯し一丁の銃と化けた
鉄線銃(ワイヤーガン)……言葉の通り銃口から銃弾が出る代わりにワイヤーが出る。
国木田はそれを構えると男より少し上の翳しているスイッチを目掛けて引き金を引いた。
すると、銃口からワイヤーが飛び出し目当てのスイッチに絡み付けば回収された
その儘、太宰が国木田に確保を命じれば国木田は男を思いきり後ろに倒し俗に云う背負い投げだ。
「一丁あがり〜はいはい皆さんお疲れ様〜」
そう太宰が呑気に云えば敦は終わったと思い安堵した。すると、はっとしたような表情に変わり
「ひ、人質!清水さん!」
その一方で太宰と国木田がまたお決まりの茶番が繰り広げられていた。するとそれを好機だとばかりに男が国木田からスイッチを奪う
「本当異能力者ってのは何処か心が歪だ…」
男はそう呟いて迷いなくスイッチを押した。
爆弾に表示された制限時間は僅か30秒_____
「さ、30秒!?」
慌てたように叫べば国木田が此方に走ってくるが男によって阻まれた
しまった。どうする…どうする
ふと、隠れて様子を窺っていたとき太宰が云っていたことを思い出す
高性能爆薬は何か被せるものがあれば衝撃を抑えられる…
被せるもの…被せるもの
「何か無いか!」
「んっんぅ!」
「っ、清水さんっ」
敦が目線を下にすれば紫琴が口を縛られた何かを訴えている。
口元のやつを外せということだろう。
「だ、大丈夫ですか?」
「…はっ、中島君!時間!時間!」
よく見ればもう既に15秒経っていた
すると、ナオミと紫琴を力任せに押して爆弾から離した
「きゃっ!」
「紫琴!…敦君っ」
太宰は驚いた。敦は爆弾を抱え地面にひれ伏したのだから
爆破まで…あと5秒___
「あれ?僕は何を…」
「っ、中島君!」
「莫迦っ」
敦は短い人生だった…と悔やんで目を力強く瞑った
▼
「……あれ?」
「全く…莫迦だと分かっていたが、ここまでとはな」
「彼は自殺嗜癖(マニア)の素質があるね…そう思わないかい?谷崎君…」
「ごめんねェ?大丈夫だった?」
「……え?」
敦は驚愕した。目の前に立つのは国木田に太宰に…【犯人】。
どうやら嵌められたようだ。そう分かった途端、横からすごい勢いで飛んで犯人に抱きついた"人質"の【ナオミちゃん】
谷崎潤一郎__能力名《細雪》
その妹__ナオミ
【犯人】が"そう"ならば…彼女もグルだろう。
この現状に素っ頓狂な声を上げて茫然と見つめる敦に近づく紫琴。
敦の服についた汚れやら埃をパンっパンっと叩く
「っ…清水さん…」
「済みません…中島君。是様な騙し方をしてしまい。此方(わたし)は反対だったんですが…」
「小僧。恨むなら太宰を恨め、それか仕事斡旋人の選定を間違えた己を恨め」
「つまりこれは入社試験…?」
「その通りだ」
現れたのは着物を綺麗に着付けされた白髪の男
武装探偵社 社長 福沢諭吉___
能力名 《 人上人不造 》
「そこの太宰めが《 有能なる若者が居る 》と云う故、その魂の真贋試させて貰った」
「いやね、君を社員に推薦したのだけど如何せん君は区の災害指定猛獣だ。保護すべきか社内でも揉めてね…で、社長の一声でこうなった…と」
「何時の間にその様なことを…?」
太宰が福沢に相談していたことを今知った紫琴は太宰に聞くと本人は笑って逸らかすだけだった
「それで社長、どの様なご判断は」
「……太宰に一任する」
「お任せください」
「ち、ちょっと待ってください太宰さん!それじゃあ、僕に紹介する仕事って…」
何やら敦にとって善からぬ事が起こりそうな空気に慌てた様子
対して、太宰は口角を上げて
「合格だそうだよ?武装探偵社にようこそ中島敦君」
「おめでとうございます。これから宜しくお願いしますね中島君」
__こうして、太宰の脅しにも似た勧誘に中島敦は半端強引だが正式に探偵社に入社したのであった。
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