ヨコハマ ギャングスタアパラダヰス

武装探偵社員__谷崎潤一郎の謝罪。

「す・す…すンませんでした!試験のためとは云え…随分失礼なことを…。」

テーブル席のソファに座ったままそう云って机にひれ伏す谷崎に敦は気にするなと声を掛けたらずるずると起き上がったが完全に猫背だ
敦にとって先日のこともあり、谷崎は怖い人に部類されていたがこの謝罪からして見て、意外といい人だと思った。

「僕の名前は谷崎潤一郎。助手のような仕事をしています…」
助手と云えど彼も列記とした異能力者だ。
しかし、その能力は未知数だ

否、問題はそこではない。
問題は______

「そしてこちらが…」
「妹のナオミですわー!」

そう云って、形振り構わず抱きついたナオミ
そこで、敦は思う___この二人は本当に兄妹なのか?と…
若干、犯罪臭のする兄妹に関してあまり深く追求するなと国木田からアドバイスにも似た注意を受けると敦はこの場の空気を読んだ。

「兎も角だ小僧。貴様も今日から武装探偵社が一隅、上に周りに迷惑を振り撒き!!社の看板を汚す真似はするな。俺も他の皆もその事だけは徹底している…なあ太宰」

同意を求めようと後ろを振り向くがカウンター席に座っている当の太宰は…

「か弱く華奢なその指で私の頸を絞めてく」
と云いかけたがその後は国木田のチョップによって打ち切られた。

「云っている側から社の看板を汚すな!!」
「女性のお手を煩わす必要はありません。国木田さん、代わりにそのお手でその莫迦の頸を絞めて差上げてください」

敦の隣に座り優雅にお茶を飲んで、殺戮を命じる紫琴。
国木田はそれを実行して太宰の頸を絞める
早速、社の看板を汚す先輩探偵社員の二人。
その光景に、苦笑いして見届けるしかなかった敦だったが、ふと気になった。

「そう云えば…お二人は探偵社に入る前は何をしてたんですか?」
「あぁ?」

只純粋に気になったことを聞いただけなのにこうガン飛ばされては敦も戸惑うしかない。
隣で紫琴は____探偵より軍警の方が似合うと云っていたが…本当にその通りだ
すると、太宰が国木田に解放されて敦に云った

「中ててご覧?何ね、定番の遊戯(ゲーム)なのだよ。新人は先輩の前の職業を中てるのさ。まあ、探偵の修行の一環だけどね」

修行の一環とあらばやらざる得ない、と敦は当ててみようと試みた
最初は前に座っている兄妹二人…だが、ナオミは学生服を着ているし、バイトだと云っていた。
それに加え谷崎は見た目からして敦と同年代ぽいということで、結果論、【学生さん】と答えた

「正直で宜しい。じゃあ、国木田君は?」
と聞いたら、それに反応したのは敦ではなく本人の国木田。彼は自分の前職などと云って貶すが、敦自身、気にもなる

「公務員…お役所勤めとか?」
「惜しい…彼は教師だよ。数学の先生だ」

そう云われるとああと納得できる気がした。
敦のビジョンには生徒に向かって黒板を叩いて怒鳴ったりして皆からは【鬼の国木田】とご丁寧に不評のネーミングまで付けられそうだ

しかし、納得している敦とは別に当の国木田はあまり前職に好い思い出がないのか。少し不機嫌だ

「じゃあ私はぁ?」
「太宰さんは…」
これはこの遊戯(ゲーム)史上最も難関な所だ。某ブラザースゲームならば、マグマの中で巨大化したしたラスボスと闘うレベルの難関だ。
実際、敦は全く思い当たらず顔に困惑の色を示していた
すると、

「無駄だ小僧。武装探偵社の七不思議の一つだ、こいつの前職は誰にも分からん」
「武装探偵社に"七不思議"という名自体不釣り合いですよね。只でさえ"幽霊"と云った類いの非科学的なモノでさえ懲らしめそうな方々の集まりですのに…」
「(どうしよう…頷きたい。この的を得ている発言に頷きたい!)」

優雅にお茶を飲みながら呑気に云っているが、実際のところ物凄く物騒なことを云っている清水紫琴だが、敦はその意見に強く同意していた。
だが、
「確か…最初に中てた人に賞金が出るンですよね?」
その谷崎の一言によって敦の頭の中は一気に賞金になった

「(しょっ、賞金!!?)」
「そうなんだよ、最近はその賞金が膨れ上がっている」
「(膨れ上がった…賞金!!)ち、因みにその賞金は如何ほどですか?」
冷静を保ちつつもその賞金に目が眩んで最早目がマネーになっている。

「総額70万」
その莫大な金額に雷が落ちたように衝撃を喰らった敦。
中てれば本当に賞金が貰えるのかと太宰に幾度も問い詰める
すると、太宰は親指と人指し指を顎に充てて
「自殺主義者に二言はないよ?」
と自慢げに云った
その発言に、何処からか「自殺主義者に二言ってどうなんですか」と聞こえたが聞こえなかった不離をしよう
現在、無一文の男____中島敦。賞金獲得に燃える。
その後ろ姿を見た兄妹は敦の目の色の変わりように驚いていた。何せ、爆弾魔の件での初対面だった敦はそれはそれは称賛に値する程の【駄目人間】だったのだから__
しかし、今彼にはそのような面影は存在しない。目の前にある賞金を奪うため…
伊座、尋常に_______


「勤め人(サラリーマン)」
「違う」
「研究職」
「はずれ」
「工場労働者」
「はずれ」
「弁護士」
「NO!」
「大工さんだっ」
「ちがいまぁす」

その必死さな故に最早探偵や推理などあったもんじゃない。只懸けられた賞金を奪う__それだけだ

「滅茶苦茶だ…」
「ですわね…」
「…金めに目がないとは…この事ですね」

そんな彼の様子を遠目で見ている兄妹と紫琴
恐ろしいものを見た…その表現が相応しい表情をしている
そんな中太宰は敦の破茶目茶推理の一部の【役者】という単語(ワード)に照れていた。

「どうせ何もせずにフラフラしていただけなのだろう」
「違うよ。この件で私は嘘など吐かない」
急に冷静さを取り戻した太宰に一瞬目を見開いたが、その言葉の真意は分からなかった。
太宰は未だ中てられぬ敦に請求した

「そう云えば…清水さんの前職って…」
敦がふと思ったことを口にすると一斉に周りが凍りついた
紫琴は口元に持っていった紅茶器(ティーカップ)を付けたまま動きが固まった
その様子を見た敦は聞いちゃいけなかったかと心配になって執拗に聞いてきた

「確か、清水さんの前職も七不思議の一つ…でしたっけ?」
「此方に聞かないで下さい」
少し、言葉に刺がある云い方だ。国木田と同様、余り好い思い出が無いのだろうか…
もしくは、彼女と最初に遭った時に自分が殺すと脅した瞬間人が変わったような豹変ぶりと何か関係があるのだろうか…
ここは矢張り本人に聞いた方が確実だろう

「あの」

その時、まるで彼女に質問をするのを妨害するかのようなけたたましい無機質な音がこの空気を崩壊した。着信音だ。その音は谷崎の携帯から鳴り響いた

「中島君、何か云いましたか?」
「えっ、い、いえ!何でもありません」
敦の慌てぶりに首を傾げるもそうですか。と相槌をうちこの話題は終わった

どうやら、谷崎の方は通話が終ったようで、依頼が来たようだ。そして、依頼主の方は既に探偵社の方に通されているらしい
これを期に太宰はプライベートから仕事人に切り替えた

「さ、仕事の時間だ。私と紫琴の過去の職業中て遊戯は__また次の機会に」


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