ヨコハマ ギャングスタアパラダヰス

探偵社の相談室には依頼主の女性がちょこんと座っており対して相談役側はずらっと後ろに控えていた

依頼主の女性は樋口と云うらしい。
金髪の肩ぐらいの髪にスーツ。成人した女性の割りにしては少々地味だが正装していることには換わりはない
礼儀正しい…誰もがそう思っただろう

重い沈黙の中、谷崎は依頼主の樋口に向かって用件を聞き出そうとした…そう、聞き【出そう】したのだ。
彼女は、樋口は正装が故に少々地味に見えがちだが顔立ちはあまり普通とは云い難いほど整っている…所謂美人だ。
そんな女性を__あの男が放っておく筈がないのだ

「美しい…睡蓮の花のごとき果敢なくそして可憐なお嬢さんだ…どうか私と心中していただけないだろ」
「国木田さん、確保」

その言葉と同時に国木田の拳を作った鉄拳は迷いなく降される。
その反動で太宰は転がり奥の扉まで転がっていった
唖然と眺める一同の中国木田は冷静の中に怒りを押し止めながらもゆっくりとした足取りで床に転がっている太宰に近づく

「お騒がせしました。お気に為さらず…今のは忘れて続けてください」

そう云いながら太宰の頸根っこを掴みその部屋に引き摺り込み扉の中へと消えた
室内には見えずとも国木田が太宰に手を挙げている平手打ちの音、そして太宰の悲痛な声だ。
否、彼にとっては悲痛な声と名付けた"喜び"だろうが。

敦等が茫然とその扉の中を見透かすような視線で見ている一方で、何時の間にやらソファの肘掛けに座っていた紫琴が樋口と云う女に「続けてください」と促した

「嗚呼、はい。それで依頼のお話なのですが…」
「谷崎君、依頼はこの女性です。あの様な莫迦国木田さんにお任せいたしましょう」

「(凄い…この状態で普通に続けた)」
そんなクールビューティーな二人に感心の意を示した敦であった…

「我が社のビルヂングの裏手に最近善からぬ輩が屯している様なんです」
「…善からぬ輩ッていうと?」
「分かりません。ですが、襤褸を纏った連中で中には聞き慣れない異国の言葉を話す者もいるとか…」

「そいつは、密輸業者だろう」
と云って会話に混ざってきたのは先程太宰に天誅を下していた国木田であった
そう云えば、先程から平手打ちの痛々しい音は止んだような気もしなくもない

「軍警がいくら取り締まっても船蟲のように湧いてくる…港湾都市の宿業だな」
「ええ、無法の輩だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます。ですから…」
「現場を張って証拠を掴めか…」

そう云って呟いたとき、国木田はこの仕事を敦に一任するように決めた。
当の敦は急なことで驚いているが、只見張るだけだと云って有無を云わさずに貫く国木田に紫琴は溜め息を吐くばかりだ。

▼初仕事に緊張する新人探偵者__中島敦。

「おい小僧。不運かつ不幸なお前の短い人生に些か同情があるわけではない…故にこの街で生き残るコツを一つだけ教えてやる」

そう云って【理想】の手帳から一枚の写真を取りだし敦に差し出した
そこに写るは黒い外套を纏った一人の青年。その表情からして冷酷かつ残忍だと見受けられる

「こいつには遭うな、遭ったら逃げろ」

国木田がそう忠告する。否、これは警告の方が正しいだろう

「この人は?」
「マフィアだよ」

そう云って今まで自分のオフィスにうつ伏せた状態で音楽を聴いていた太宰が顔を上げた
気付けば、その後ろには紫琴が控えていた

「尤も、他に呼びようががないからそう呼んでいるだけだけどね」
「…その名の通り、物騒な連中が其こそ船蟲のようにうじゃうじゃ居ます…が一つ違う点は密輸業者より遥かに危険、ということです」
「この街の黒社会で尤も危険な連中だ。中でもこの男は探偵社の組員(メンバー)でも手に負えない危険な奴だ」

そんな危険人物が此処(ヨコハマ)に居ると思うと思わず背筋が凍ってしまう。
それよりもこの男が異能力者であることと、その能力が頗る殺戮に特化したと聞く。
【ポートマフィア】【異能力者】【殺戮に特化した】それだけでこの男が至極残忍であることは明白だ

敦は思わず唾を飲み込み、国木田にこう問う

「この男の名は…?」
「___芥川だ」


__所変わりとある交番。
そこでは遺失物と見せかけた【時限爆弾】によって交番の軍警二人、地理案内一人の尊い命が失われた。

その近くでは、多くの野次が拝見する中一人の黒い外套を纏った男が佇んでいた

芥川龍之介___能力名《羅生門》

男は無表情に携帯を耳に付け相手にこう話した

「__終わった、次は?」


▼武装探偵社

「Wow.イエ〜イ。心中は〜一人では〜できな〜い」
と、太宰はソファにうつ伏せで横になりながらヘッドホンを付け意味不明な歌詞を口にしている
それを嫌でも聞いた紫琴は心底嫌そうに

「選曲のセンス無さすぎですね」

そうと呟いているとも知らずに太宰は呑気に熱唱するものだから痺れを切らした国木田が太宰のヘッドホンを取り上げた

「おい太宰。仕事は如何した!」
「天の啓示待ち」

などとニッコリと微笑みながら何やら意味深なことを云うものだから国木田は紫琴を見たが彼女も意味が分からなかったようで肩を竦めるだけだった。
もう一度太宰を見れば何時の間にやら奪ったのか国木田の手にあった筈のヘッドホンは再び太宰の頭へ。そしてまた陰気臭い熱唱が始まったのであった。


_____そして、また所変わり敦一向に悲劇が起こったのはそれから十数分後のことだった


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