ヨコハマ ギャングスタアパラダヰス

____「私の目的は、貴方がたです」
そう彼女、【依頼人の樋口さん】はそう云った。
完全に嵌められた。これでは袋小路だ
そして彼女が報告している相手の名前__【芥川先輩】つまり、国木田が警告した【芥川龍之介】だ。
そして、【樋口】は敦たちに向かって二丁のライフルの引き金を引き火を噴かせた。


我が主の為に死ねと云ったが、巫山戯るなと叫びたい。お前たちの自己中心的な都合で殺されるわけにはいかない
そう思っても、嫌に響く銃声。しかし、肝心な銃弾が自分の肉に貫通していない。
この袋小路の現状だ。相手の思う儘に蜂の巣に出来ただろう。

__何故と思い顔を上げればそこに広がるのは血の海。しかし、その純血は己から噴き出したものではなく…とある【少女】から流れる血であった

彼女は殺意の篭った銃弾の雨から兄を守るために立ちはだかりその障害を防いだのだ
敦としては自身に障害なく助かったことに安堵することだろう。しかし、兄である谷崎は妹に助けられたことよりも【自身のせいで】ナオミが射たれてしまったと思うだろう。
実際のところ、戸惑って敦に止血帯はあるか、治癒能力の与謝野先生に見せるとあたふたしている


「貴方が社の戦闘員でないことは調査済みです。大人しく哀れな妹君の後を追って頂きましょう」
「……あ?チンピラ如きが…よくもナオミを傷つけたね!」

谷崎は妹を傷つけた樋口に向かって怒鳴りこう唱えた

「異能力《細雪》」

すると、ここ一体に雪が降った
樋口は構わず、ライフルを谷崎に向けて火を噴かせた
しかし、その銃弾は貫通せずにまるでスクリーンのように緑色の光を帯びて消えていった
どうやら谷崎の能力は【虚像】を作るらしい

「姿は見えずとも弾は中る!」

そう云ってライフルを乱射するが一向に中らない。
すると谷崎は何時の間にやら樋口の背後に回り彼女の頸を絞める
明らかに殺意の篭った眼で力任せに絞める谷崎と一方で苦しみながらも必死に足掻く樋口。

そのとき、___何処からか咳き込む声が聞こえた



「中島君、今頃頑張っているでしょうか?」

その様なことがあるとも知らず、紫琴はとある街中歩いていた。今日の仕事も終わり気分転換としてだ。太宰は気づいたら居なくなっていたので
すると、歩いている内に前に行き着くにつれ何かの【廃墟】に【人だかり】が出来ていた。
何故廃墟に?___と思ったがふと一部の部分を見て納得した
そこには、【警察の紋章】の一部が欠けていた

「如何したんです?」
「嗚呼…実は【爆破事件】があったらしいんだ。酷いねえ…軍警の二人が殺されてたらしいんだ。それに地理案内の人も偶然爆破に巻き込まれたらしいんだ」

「…それはそれは、随分酷なお話で…」
伏し目がちに同情の意を示したら、声を掛けた野次馬もそうね〜と他人事の様に頷く。
まあ、本当に他人事なのだが…
紫琴は野次馬に挨拶して、現場をよく見るべく色々な角度に廻るが血痕や遺失物と見せかけた爆弾が入っていた黒い鞄も爆弾によって消し去られていた

暫く現場検証をしていたときだった、廃墟と化した【交番】の中から鑑識によって遺体が運ばれて来た。遺体は目の当てられない状態で野次馬の殆どが酷い…など気の毒に…などと口々に云っている
実際のところ、紫琴は目も当てられず顔を両手で覆っていた
警察とは異なるが探偵が遺体を見て悶えるのは如何なものだろうか

すると、野次馬の一部からとある情報を耳にした

「そう云えばさ…爆発する前…交番前に【変な人】が居たらしいよ…」
「変な人ッて…?」
「黒い外套纏った全身真っ黒の男…偶然友達がすれ違ったらしくて、ずっと咳をしていたって。あの子あと一歩遅かったら爆発に巻き込まれてたって…巻き込まれなくて本当善かった」

確かな情報だ。黒い外套にずっと咳をしている…きっとそれが実行犯即ち、犯人。
風の噂として耳に入れておくがどうにも最後の言葉だけ本能的に拒否する。
【巻き込まれなくて本当に善かった】だ?そんなの誰もが思っていることだ。被害者の軍警も、また地理案内の女性も真逆、己の人生がこんな不謹慎に終わりを告げるなど思っていなかっただろうに…
誰もが、助かって善かったと、自分が巻き込まれなくて善かった…とそう云う気持ちが漏れるのを必死に押し留めていたというのに…

「本当に異能力者でなくても人の心は歪ですね…胸糞悪い」
吐き出すように云えば、その言葉を丁度聞いた周囲の人間の何人かが紫琴を見た

「しかし、黒い外套の男__。中島君…大丈夫でしょうか?」



一方で、犯行現場で噂になっていた【黒い外套を纏った咳を頻繁にする男】は一匹の【白虎】と対峙していた

【白虎】は倉庫の時太宰たちの前に現れた虎と一緒だ。
虎は紫琴を追いかけたときと同じ様に只獲物を狙う獣、即ち【芥川】を獲物と捕らえている
しかし、対する芥川も負けじと対抗する。
彼の異能力__【羅生門】は悪食。たとえ凶暴な虎でさえ食い破る。
芥川は【羅生門】を展開し虎に襲い掛かるも寧ろ虎はその【羅生門】を利用して芥川に迫った。
芥川は瞬時に防御するが間に合わず後方へ吹き飛んだ
その様子を見ていた【後輩】の樋口は当然怒り、ライフルを虎に向け乱射するもその銃弾は通らない

虎は獲物を【芥川】から【樋口】に変えて再び襲い掛かる
一瞬で縮まった距離に樋口は瞬時にこう思った

__殺される。

そう思ったとき、

「【羅生門・咢】」

そう唱えた瞬間、虎が樋口に襲い掛かる一歩手前で虎の周囲に格子状に変換された黒獣が虎を引き裂いた

芥川は人虎を【生け捕り】ではなく【殺してしまった】ことに悔やむが、そんな気持ちは一気に失せた
その虎は【虚像】であったからだ

「今裂いた虎は虚像か!では…」

そう云いかけたとき、芥川の背後から【本物】の虎が現れ襲い掛かった
それを芥川は瞬時に【羅生門】を展開した

「《羅生門・叢》」
すると、黒獣は伸縮自在の【手】に変わり虎を虐殺しようとした
この攻撃を諸に受けたら片方が死ぬか或いは相撃ちだと誰もが思った___が
それは一つの呑気で気長な声と【能力】によって阻まれた


「はぁーい、そこまでー」
【異能力・人間失格】

相手の異能力を無効化する__
その能力によって芥川の黒獣は消え失せ、敦は段々人の姿に戻りその儘地面に落ちた

「貴方は探偵社の!何故此処に」
「美人さん行動が気になっちゃう質でね」

そう云って掲げたのはとある【盗聴器】。どうやら初めて遭い口説いたときに密かに樋口のポケットに忍び込ませていたようだ

「ほらほら起きなさいよ敦君。三人を負ぶって帰るの厭だよ私」
倒れている敦の頬を叩き起こそうと声を掛けるも案の定反応なし
そしてその発言に樋口の癇に障ったのか太宰に銃口を向ける


すると___。

「おや?谷崎君から頂いた地図によればこの辺りの筈…」

まるで挟み撃ちするかのように太宰の反対側…即ち大広間の方から現れた女。

「おやあ?紫琴じゃないかあ!奇遇だねェ」
「太宰君急に居なくなったらと思ったらこちらでしたか」

呑気に手を振ってくる太宰に対して返しもせずに一歩ずつ近づいていく

「貴女はっ…」
「あら?貴女は依頼主の…嗚呼、そう云うことですか。太宰君が云っていた【天の啓示待ち】とやらの意味が漸く分かりました。それにしても、中島君可哀想に…。初仕事がこの様な結末を迎えるなんて」

肩を竦めて困ったように笑うが、目元が完全に笑っていない。寧ろその瞳には殺意が籠っている
彼女を見た芥川は一瞬驚いた表情になるが直ぐに冷え切った瞳を宿し彼女に話しかけた

「なるほど…牢獄から【脱走】して何処の隠れ家に潜んでいるのかと思ったら、【探偵社】に潜んでいたという訳か…【虐殺者】めが」
「…交番を爆破して何人もの尊い命を葬った【虐殺者】が云いますか?__それとも…貴方も葬って差し上げましょうか?」

そう云うと手からどす黒い光を発した。

「貴女も異能力者っ」

そう分かって樋口は銃口は太宰から紫琴に変える
彼女の【変わらぬ態度】に思わず不気味な笑い声が零れる

「くくくっ、止めろ樋口。お前では勝てぬ」

そう云って、樋口を牽制する。
しかし、納得いかないとばかりに反抗する樋口。

「太宰さん今回は引きましょう。しかし人虎の首は必ず僕らポートマフィアが頂く」
「何で?」
「簡単な事。その人虎には闇市で七十億の懸賞金が懸っている」

その莫大な金額を聞いて驚くというよりも冷静に反応する太宰。

「探偵社には孰れ伺います。その時素直に七十億を渡すのなら善し、渡さぬなら…」
「では、武装探偵社と【戦争】かい?__やってみ給えよ…やれるものなら」
「…正気ですか」

そう紫琴が小さく呟く。確かに、武装探偵社は軍警が手に負えない仕事を熟すのが主だ。しかし、【ポートマフィア】のような特に危険視されている集団と戦争することとは訳が違う。
実際、ポートマフィアは傘下の企業を数十を持っている。たかが十数人で成り立つ探偵社などミジンコ同然だ


「知っているよ。そのくらい」
「然り、外の誰よりも貴方はそれを承知している___元ポートマフィアの太宰さん」

そこに居る太宰は芥川に向かって意味深な笑みを浮かべた
そうして芥川は太宰から目線を紫琴に移し淡々と告げた

「貴様も、覚悟しておくが好い。貴様の【脱獄】は既に【首領】の耳に入っている。探偵社に居ると分かれば即刻貴様をまた【投獄】できる、故に貴様の逃亡劇も…時間の問題だ」
「でもそれは、此方(わたし)が【異能力】を使えない時です。此方の【誰が罪】は触れただけでありとあらゆる物を【殺す】例えそれが人間でも…」
「紫琴に【誰が罪】は使わせない。それは私と約束したんだ。これ以上、彼女の手は汚させない」

そう断言した太宰。その目からは必死さが滲み出ている
今日は比較的暖かいと聞いたが何故か、此処だけ冷気が漂っていた。


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