Murder on D Street

______黒蜥蜴。

先刻まで武装探偵社はポートマフィアの武闘派【黒蜥蜴】の襲撃を受けた。
しかし、十数人の一団に対して武装探偵社はそれを諸共せずあっという間に撃退してしまった。
そして今現在、その処理をしていた。
機関銃の乱射によって散らばったガラスの破片。
そして撃退の際に床に落ちた数多の資料。

敦は国木田の指示の下資料の整頓整理をしていたのだ

すると__、

「国木田くーん、僕そろそろ【名探偵】の仕事に行かないと」

黙々と作業をしていた中で口を開いたのは乱歩だ。
【名探偵】という言葉にふと気になった敦だったが、国木田はその言葉に何の疑問も持たずに返答した

「嗚呼、殺人事件の応援ですね」
「全く…この街の警察は僕なしじゃ犯人一人捕えられやしないんだからなー…でもまあ、僕の【超推理】探偵社、否この国の中でも最高の異能力だ!みんなが頼っちゃうのも仕方ないよねー」

そう云ってその自信でしかない発言に敦は口が開いてしまっていて、紫琴は溜息を吐いている。
まるで、乱歩を除く全ての社員が【無能】だと云うばかりに…

いつもの国木田ならそこでガンを飛ばすなり胸ぐらを掴むなりして隠す気のない怒りをぶつけているが、今日の…否、乱歩の時の国木田は少し様子が変だった。

「頼りにしています、乱歩さん」
「分かれば宜しい」
と云ってビシッと指を差す乱歩。そして背中を向けたかと思うと、また己が宿す【異能力】と自分が如何に有能かを分からせる為に口を開く。

「きみらは探偵社を名乗っておいてその実、【猿】ほどの推理力ありゃしない。この探偵社探偵社であるのは皆、僕の異能力【超推理】のお蔭だね」

どうやら乱歩の不満は探偵社員の無能さにあるのではなく猿ほどの推理力を持っていないことにあるらしい。

「まあ確かに…武装"探偵社"ではありますが、それはあくまで【表向き】ではの話でしょう?【裏】はそうにはいきませんよ?先刻だって皆さんマフィア撃退していましたからね…最早対マフィア専門探偵社ですよ。"探偵社"の部分が若干薄れている感じがお似合いですよ、この会社。」
「分かってないなー清水。その【裏】はきみらの仕事だろう?僕はほら、探偵だから」

では何故此処に居る…。何ていう質問はするだけ無駄だ、この人は…と本日二度目の溜息を漏らす紫琴であった。
すると、国木田が敦に乱歩のお供をしろと命じた。敦はそのことに少し勘違いをしていたようだが、乱歩の一言であっという間に硬直したのだ。

「ほら僕、電車の乗り方判んないから」

このとき初めて、乱歩の年齢を聞きだしたくなった紫琴と敦だった

「おい清水、太宰は如何した」
「さあ?其処等辺に歩いている女性を手当たり次第に口説いているんじゃないでしょうか?【心中ナンパ】」
「あの、清水さん【心中ナンパ】って」
「文字通り、ナンパですよ。普通のナンパとは少し違うところは行先は何処かの喫茶店とかではなくお天道様に導かれるところですかね?」

___「(偶に清水さんの口からとんでもないことが告げられる…この人の云っている事って真面目なのか不真面目なのか時々判らなくなるな)」


▼車内

「…で、何で清水も付いて来てんの」
「国木田さんからの御使命です。中島君は先刻のこともあるので何かあったら助けてあげようと思って」
「はあ?…それ、【余計なお世話】って云うんだよ?知らないの?…21なのに?」
「…26の貴方の奔放な振る舞いから中島君を守るためです。勘違いしないで頂きたい」

そっぽを向きながら吐き捨てる紫琴だったが、対する乱歩はその返答に然程興味を示さなかったのかあ、そう。と云って再び車内に沈黙が流れる。

紫琴の隣に座っていた敦はこの見えない重苦しい空気に縮こまっていたが乱歩を見てしまうとどうしても呆れて溜息を吐いてしまう。
それは、電車乗車前の十数分前。
乱歩は宣言通り、電車乗り方について無知であったのだ。
切符の買い方、改札の通り方、ホームの場所…全てにおいて知らなかったのだ。

「(…そう云えば、清水さんも乱歩さんほどではなかったけど切符の買い方とか知らなかったな。ホームの場所も…電車乗ったことないのかな?…否、そんな事ないよね。21年も生きてたら一度は乗るよね…多分)」

敦はその予想が中っているということは全く気付かないだろう。
彼女が、十数年マフィアに捕えられていたことなど…


「遅いぞ、探偵社」

訪れたのはとある河川敷。乱歩が先頭に歩いているし、彼しか事件現場を知っているのだから敦と紫琴はその小さな背中に付いて行くしかなかった。
そして、事件現場に着いたかと思うといち早く駆けつけた警察の第一声が【これ】だ
かの有名な【名探偵】だと自ら豪語する乱歩に向けられたのは【歓迎】でも駆けつけてくれたことへの【感謝】でもなく【説教】だった

敦は目の前に立つ威厳のある男に少し怯えた様子で乱歩の後ろに隠れている。
しかし、乱歩はその威圧的で攻撃的な雰囲気を諸共せずにお前は誰だと尋ねる。
どうやらいつも乱歩に助けを求める刑事ではなかったようだ

「俺は箕浦、安井の後任だ。本件はうちの課が仕切る、よって貴様等探偵社は不要だ」

名前は分かった。しかし、最後の一言は余計ではないだろうか
まるで、探偵社が役立たずのような口ぶりだ。否、本当にそうなのだろうが…

「莫迦だなあ、この世の難事件は須く名探偵の仕切りに決まっているだろう」
「…決まっているんですか?」
「さあ?この人は自分の云ったことだけを信じて今までの26年を生きていますからね…」

敦に質問されて即答で返す紫琴。そんなこと知ったこっちゃない。知りたくもない
しかし、その乱歩の当然とばかりの発言は無視した。どうやら探偵そのものが信用ならないらしい。
そして、何より___

「殺されたのが、俺の部下だからだ」

そう云えば、箕浦の後ろに控えていた警官が遺体に近づき被せていたシートをそっと外す。そこには右腕を腹部にあてた状態で倒れている女性が外傷を残し生を終えていた。
女性は白衣を羽織っていたことから何かを研究していた女史だと推測できる

「ご婦人か…」
「女性に殺傷など…野蛮ですね」

「今朝、川に流されている所を発見されたようです」

巡査__杉本が殺害現場の経緯を説明するが、見た目だけで分かっているのは胸部に三発撃たれている事だけだ。他は特に外傷がなかった。
亡くなられた彼女自身にも特定の交際相手や恨みを買うような人物は居なかったようだ
それを聞いた乱歩は明らかに小馬鹿にしたような口調で云った

「それってさ、【何も判ってない】って云わない?」
「…確かに、判るのはご遺体の損傷だけ…。他に心当たりは無いのでしょうか?」

紫琴はそう云おうとした。
それを遮るかのように遠くの方で警官が叫んでいる

「おい、何か網に掛かったぞ!!」
「…?何です、あれ?」
「証拠が流されていないか川に網を張っていたんですが…」

すると、

「人だ…人が引っ掛かってる!!」

と、辺りの警官が騒ぎだしたところに敦たちの耳にも入ったようで第二の被害者では?と急ぎ足にクレーンへ向かう。そして…引き上げられたのは

「やあ、敦君奇遇だね」

___暇さえあれば川に居る(溺れる)変人自殺愛好家、太宰治であった
それを見た敦は心底厭そうにそして、困った表情をしてまた入水かと問うと…

「否、一人で自殺なんてもう古いよ敦君。矢張り死ぬには美人との心中に限る!嗚呼…心中!この甘美な響き、それに比べ…一人この世を去る寂しさは何と虚しい事だろう…と云う事で一緒に心中してくれる美女を募集中」

自殺と云う孤独な人生の終わり方よりも目に入れても痛くない華麗なる美女と共にこの世を去る方が善いと熱く語りの独り芝居が終わり呑気に人差し指を立てながら云う太宰。
頭に血が昇ると云っても寧ろそのまま天に召される事を望むような男に入って間もない後輩の敦は既にこの同仕様もない先輩に手を焼いている。

すると、

「あの引き上げたところ済みません。この網【コレ】と一緒にまた川に戻して頂けることは可能でしょ」
「清水さん!!?」

___どうやら、此処にも居たようだ。物腰柔らかく殺人を命じる一番物騒な人物が…

「おや?紫琴じゃないかい。店から居なくなったと思ったら私に内緒で敦君と浮気かーい?」
「…済みません。矢張り此方が殺ります。そうもしなければ誰かに当たってしまいそうで…」


「乱歩さん…」
「この二人に関しては例え【超推理】でも無理そうだね…。だって面倒くさそうだもん」


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