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某日、世羅は社長室に呼ばれた。
室内にはこの部屋主であるシャイニーしか居らず少々居た堪れない気持ちに思わず顔を顰める。義理の父親とはいえこの男は何処か掴めない所がある為一人だと困る。
しかし、そんな彼女の気持ちを知らないシャイニーは構わず彼の事務用のデスクに資料を置いた。
世羅はその資料を自分の視界に入れこう言った。

「うた☆プリアワード」
「イェース!!うた☆プリブランニューアワード!すなわち新人のアイドルの誰もが目指す孤高のタイトール!」

まるでバレエの演技ように高笑いをしながらクルクル舞うシャイニー。
そこを気にしてはならないと平然を装い頷く世羅

「そうか、もうそんな時期か。で、それをST☆RISHが?」
「Ms.世羅!youは相変わらず鋭いですねーん!ビンビンなの〜…で、そこでyouにお願いPlease!」

「面倒事は御免だ」
「youの仕事はズッバァリ!ST☆RISHとMs.七海のサッポォト!!」
「…聞いているのか」

世羅が言っている通り彼は全く他者の意見を聞き入れようとしないのだ。
何故なら、自分が全ての物事の中心なのだ。
自分が命を言い渡せばスタッフは勿論、所属しているアイドル並びに彼が経営している関連事業に所属している者…早乙女学園も例外なく動く。謂わば原動力だ。

「そうと決まれば善は急げぇ。早速メンバーの部屋へ向かい挨拶してくるのでぇぇす!!」

そう言ったのが最後世羅はシャイニーに俵の如く扱いを受け早々に社長室をつまみ出された。

世羅は文字通りつまみ出されて渋々挨拶しに男子寮を訪れ廊下を歩いていた頃ふと嶺二の部屋から聞こえた声につい耳を傾ける。

「ええーッ!?うた☆プリアワードってCDたくさん売れればいいんじゃないの!?」
「それで賞を獲れれば苦労しないよん」

嶺二はちっちっと人差し指を左右に揺らして笑っている。

「いいかい。【うた☆プリアワード】を受賞する為には輝いた活躍をしてうた☆プリ委員会の目に留まらないと」
「嶺二の割にはよく分かっているんじゃないか」

嶺二の道理にかなった説明に思わず共感してノックもなしに会話に割って入ってしまった
当然、突然現れた世羅に驚く面々。

「せーちゃん、聞いてたの?ていうか何で男子寮にいるの!?」
「嶺二煩い」

一人騒ぎ立てる嶺二には目もくれずST☆RISHの二人をじっと見据えた。
世羅の目に映るのは眩しいほどの赤と清らかな紫。

「デビューライブが終わってマスターコースに入って間もないというのに…今度はうた☆プリアワードとは、随分期待されているな」

「なっ、…はい。このうた☆プリアワードを獲得するために社長から早乙女さんが我々をサポートして下さるとお聞きしました」
「…」

「せーちゃん、シャイニーさんにそんなこと言われたの!?僕ちんたちのサポートもしてくれたことないのに!」
「した覚えもないが、する必要もないだろう」

酷いっと言って縋るように再び騒ぎ立てる嶺二を軽く受け流しこう言った。

「社長から聞いているのなら早い。これから君達個人の活動が極度に増えるだろう。その一人一人の行動や経験、実績を見るために僕が同伴することとなった。甘えは許さない。だが、プレッシャーをかける訳ではないが君達一人一人の実績がうた☆プリアワードの頂点を掴む」


「お前がST☆RISHの現場に同伴するだぁ?」

用件を伝えに同グループの黒崎蘭丸の部屋を訪れた世羅に第一声となって帰ってきた言葉は根っから反対と思わせる口ぶりだ。
普通なら怯えて今この場から逃げようとする者が殆どだろうが、世羅は動揺すらせず寧ろ既に諦めたような口ぶりで返答した。

「仕方がない。社長の命令だ、逆らう訳にもいかないだろう」
「ふぅん、世羅さんは苦労しているんだね」
「神宮寺、先輩に何をしている」
「お堅いね聖川。スキンシップだよ、ねえ?世羅さん」

今の現状、それは世羅が座っている椅子の肘の部分に腰掛けている橙髪の随分色気を帯びた青年によって髪を指に絡ませたりして弄られていた。
それを見た青髪の青年は彼の行動を咎めるも当人は御構い無しにその謂わば遊びを続行する。
世羅は別に彼の行動を咎める訳でもなく只、凝然と橙髪の彼を見つめるとその彼が気付き俗に言う甘い笑みで応えた。

「何だい世羅さん」
「君が神宮寺…レンくん?」

疑問形で名前を呼ぶのも妙だが実際橙髪の彼と青髪の彼の名前は今一理解できていない。
しかし、橙髪の彼の方は世羅が名前を言った直後まるで褒められた子供のように笑みを見せた。

「嬉しいね、オレのこと知っててくれたのかい?」
「いや、見せてもらった資料を覚えただけだ…で、君が聖川真斗君」
「はい」

成る程。
レンとは異なる性質を持っているようだ。
芯のある声質に相手の目を真っ直ぐに見るように根も真っ直ぐなようだ。

「おい」
「…何」

後輩二人の会話を花を咲かせていた為か放置されていた蘭丸が遂に口に開いた。
その不機嫌さからするにこの状況が気に食わないのかもしくは呆れたか。

「用が済んだならとっとと帰れ。他人が長居されんのは嫌なんだよ」
「ちょっと、ランちゃん世羅さんは別に」
「…ああ、そうだな要件は終わったから失礼するよ」
「先輩、送ります」

真斗の厚意を丁重に断り、次は何処行くかと脳内で考えているとレンが呼び止める。

「何だ?神宮寺君」
「ふっ、嫌だな。オレのことはレンって気軽に呼んで欲しいな。また遊びに来てよ」
「おい、レン。てめぇ何勝手に」
「ほら、ランちゃんもいつでもおいでって」

レンの言っていることは理解できたが、蘭丸の言葉を遮り捏造した言葉を伝えられても喜んでいいのか微妙だ。

「ああ、分かった」


「これは一体…」
「見た通りだよ。ボクが決めた」
「だろうな」

目の前に広がる特大の模造紙。
そこに敷き詰められた無数の字。
それは定時刻とその事項を示した世間一般で言う予定表であった。

「聞いたよ。セラ、ST☆RISHの同伴者になったんだって?」
「ああ、今それを伝えに来た。知っているんならもういいな。じゃあ僕は」
「せーーーちゃんせんぱーい!」

聞き慣れぬ声と呼び名に一瞬どこの誰が誰を呼んだのか一瞬パニックになったが、突如訪れた自身に掛けられた重みと温かみを感じ気づけば誰かの腕の中に収まっていた。

「?ん、何」
「ナツキ、セラを離しなよ。驚いているよ」

ナツキという言葉に少々言葉が引っ掛かったが直ぐにその引っかかりは拭えた。

「ST☆RISHの四ノ宮…那月君か」
「わあ!僕のこと知っているんですかー?」

そういう歓喜の言葉と共に解放された。
後ろを振り向けば目の前に立つは長身の黄色。
「君達のことは大体資料で見た。…来栖君は」
「ショウなら台本読んでるよ。今度のドラマの撮影の」

ドラマの台本、つまり新人ユニットで既にドラマというメディアで活躍する場を獲得しているということだ。

「成る程、行動は早い方か」


シャイニーから課せられた任務は今目の前に立ちはだかる一室で終わる。

「よりによって最後が…ここ」

しかし、命を遂行せねば自室に帰らせないという条件付きである為やむを得ない。

決心がついたのか扉のドアノブを掴もうとした時、それと同時に内側からドアが引かれた。
そこから出て来たのは、ある日の褐色の青年であった。

「にゃああー、退いてください!」
「っ、君は」

確かカミュが彼の事を大声で叫んでいた名を思い出した。

「あ。…愛島君」
「?どうしてワタシの名を?」
「何をしている愛島」

穏やかそうな声質の彼とは真逆の冷たい地を這いずるような低音に愛島と呼ばれた青年は怯えたような面持ちで世羅を己の前に立たせ完全に盾扱いだ。

「愛島、いつ迄」
「……」

出て来たのは予想通り先日自分が連れてきた伯爵だった。

「何をしている貴様」
「いや…いきなり前に立たされて、彼は」

すっかり竦んで世羅の後ろに縮こんでしまっていた。
それを横目で見た世羅は思わず肩を竦める。

「…伯爵殿は迷い猫も飼い始めたのか」
「煩い、何用だ」
「ST☆RISHの同伴者を担うことになった事を報告しに来た」
内容を振られたので簡潔に内容を述べた世羅。
しかし、その内容に眉を潜めるカミュ。

「何故ST☆RISHなんだ」
「僕にもよく分からない。社長の一存だから」

事実、社長が何を考えているかなんて誰一人分からない。
何時も唐突に思い付き提案するが大抵それは周りの人間によって咎められるも最終的には良い結果を招くものだから不思議でならない。
その話の内容を聞いていたセシルは世羅の肩側から顔を出し問いかけた。

「アナタがST☆RISHの?」
「ん、ああ。そうだ、だから君も」

「愛島はST☆RISHとは違い全くのど新人だ。これからは俺が教育係としてコイツを見る」

世羅の言葉を遮り、淡々と述べるカミュ。
「そうなのか?じゃあ」
「イヤです!ワタシはカミュよりアナタの方が良いです!」

何故だろう。
先程彼の事を迷い猫などと言ってしまったが彼の耳に今猫耳が見える。
だが、可哀想に。
地雷を踏んだ。

「愛島ァァ!何処まで俺を怒らせば気が済む!」
「にゃああ!カミュ痛いです!アナタ、見てないで助けっハルカーー!!」

カミュに半端無理矢理部屋に連れ込まれたセシルの嘆き声と悲鳴は扉の向こうへと虚しく消え去った。
それを一人取り残された世羅は呆然とそこで立ち尽くすが

「任務完了」

まるで何も見てないかの様に踵を返し自室へと戻って行った。
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