確認


「かーくえんぼすーうもーおよっおいで!」

「おっ、今日はかくれんぼかぁ。これは、体の小さいべにが有利かもなぁ」

「べに、つおいよ!はーやっくしーやいーときーれちゃーよー!」

「ぼ、僕もいいですかぁ・・・?」

「うん!しょくらーいっぽーきーえた!」

「あれ、今日は鬼ごっこじゃないんですね」

「うん・・・。あっとかーやあっとかーやぜーひもーなしっ!」

「僕はかくれんぼでも負けませんよ!」

「べにも!しゅっつじーだー!」


今日も今日とて短刀たちと主は元気である。
ポカポカと暖かい陽気をのんべんだらりと身体中に浴びながら、べにの掲げた指に集まる短刀たちをぼんやりと眺める。
よくまああんなデタラメな歌を覚えて歌うようになったな、と感心しながら、教えたのは燭台切を中心とする織田組か、それとも鶴丸の独断か・・・ととめどなく思考を巡らせる。


「ま、いっか」


結局大して考えもせず、ふわぁと大きな欠伸をひとつ。
つられるように隣で大口を開けた鵺に小さく笑って、日光で熱くなりすぎた身体を日陰に押しやった。
戦場では切るか切られるかの命のやり取りをしているのに、本丸では相棒の熱中症の心配。
この本丸で起きる出来事の緊張感のなさといったら、自分が武器であるということさえも忘れてしまいそうで。


「いーち、にーい、さーん、・・・」


乱のよく通る声を子守歌のように、獅子王の意識はゆったりと夢の中へと落ちていった。






「近侍代理、ありがとう。けど、こんないい場所でお昼寝だなんて、いいご身分だねぇ、獅子王君?」


そんな声が聞こえたのは、どれくらい経った頃だろうか。
目を何度も瞬かせて焦点を合わせれば、覆いかぶさるようにして青江がこちらを覗き込んでいた。


「ん・・・あぁ・・・あおえか・・・」

「ほら、起きた起きた。いくら本丸とは言え、何もないとは言い切れないんだよ?それで、べにはどこだい?」

「え?」


さ、と眠気が一瞬で飛んで、思考が徐々にクリアになる。
太陽の位置は、大して落ちてはいない。だが、さっきまで庭で走り回っていたはずの短刀たちや、主は・・・


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・まさか」

「すっ、すぐ探してくる!さっきまで短刀たちと遊んでたはずだ!」


冷ややかな青江の視線を感じるまでもなくがばっと上体を起こして、条件反射のように鵺をつかんで立ち上がる。
だが、妙に重く感じた鵺に違和感を覚えるのと同時―――


「きゃん!」


小さな悲鳴が背後から上がって、青江と二人、思わず目を見合わせた。


「・・・・・・え、・・・べに・・・?」

「しーっ!かくえんぼ!じーしてなきゃ、め!」


口の前で人差し指を立ててみせるべに。
その頭には困ったような表情の鵺が乗っていて、できるだけべににのしかからないようにと足を突っ張っているのが視界の端にちらりと映った。
・・・つまり、かくれんぼで、鵺の毛皮の中に埋もれて隠れていた、と・・・?


「よ、よかったぁあ・・・!」

「・・・そうだね。べに、かくれんぼをしているのなら、僕のマントの中に隠れるかい?安全かどうかは、言いかねるけどね」

「べにはもうおっきいんだよ?そんなとこ、かくられません!」

「・・・かくれられません、かな?」


笑いを耐えながらも、鵺から離れる気のなさそうな様子に「あー・・・」と頭を掻く。
この後、同田貫と一緒に畑当番をやる予定なのだ。昼寝もしてしまったし、この上さらに青江に「近侍を代わってくれ」とは言いづらい。
オロオロとべにとこちらを見比べる鵺に選択を任せるのはかわいそうだし・・・
ぽり、と頬を掻いて、青江と顔を見合わせた。






「みーつけた」

「っ!?っおあー、見つかったかー」


隠れていた茂みからのそのそとはい出て、肩が跳ね上がったことを誤魔化すように笑う厚。
けどそれは薬研と目が合うことであっさりと形を崩し、すねたような表情へと変わった。


「さ、後はべにだけだねー!」


「・・・乱の「みーつけた」、なんか背筋に来るものねえ?」

「わかる」


張り切って目を光らせる乱に聞こえないように、こそこそと後ろの方で話す。
けれどたまたま近くにいた秋田に「どうしました?」と聞かれ、慌てて姿勢を正した。
何かの拍子に乱の耳まで入ってしまえば、報復が恐ろしい。


「いやっ!べにだけまだ見つかってねーんだなと思って」

「そうなんですよ。僕らも探しているんですけど、見つかりませんね・・・」

「やっぱりべにが有利だったか」


素知らぬ顔で便乗する薬研にほっと胸をなでおろして、自分もぐるりと辺りを見渡す。
あまり遠くに行かないことを条件にしているから、誰かの部屋の押し入れ、とかは考えづらいんだが。
最近ブームなのか、かくれんぼが行われることが多いけど、・・・姿が見えないと、どうにも不安が押し寄せる。
ましてやべにはかくれんぼの才能があるらしく、いつも全然見つからないから、ますます。


「ねーえ青江!べにちゃん見てないー?」

「さぁ、見かけないな」

「おっかしーなー・・・」


縁側でのんびりとこちらを眺めていた青江に声を掛けても、すげない返事が帰るだけ。
まぁ青江なら、知っててもそれがルールなんだろう?とかって言わなそうなもんだけど。
・・・?そういえばかくれんぼが始まったとき、縁側に居たのは獅子王だと思ったけど・・・?


「あれ?青江さん・・・その黒いのって・・・」

「あぁ、獅子王が天日干しにって置いていったんだよ。付き添ってくれと頼まれてね」

「ふーん・・・」

「乱、裏庭に向かう方の道は探しましたか?」

「ううん。そっちも見に行ってみようか」


後ろ髪をひかれるようにしながらも、ヒラヒラと手を振る青江に背を向けて走り出す乱。
まだ少し納得しない・・・ていうか、俺なら鵺にちょっと動いてもらうけどな、と思いながらも、鬼は乱だと割り切って皆に続く。
・・・ていうかべに気配消すの上手すぎじゃねえ!?戦場で鍛えてる俺らが見つけられねえってどういうことだよ!?






「・・・やれやれ、子どもも侮れないねぇ」


いや、子どもだからこそかな?と独り言ちて、ウトウトと瞼を重そうにする鵺の頭を撫でる。
その少し下に見える毛質の違うところを本当は撫でてやりたいけれど、一応、我慢我慢。


「おーいみんなー。おやつができたよー」

「!おやつ!」


ガバッと突然身体を起こした黒い塊が、勢いよく走り去っていく。
行き場をなくして宙に浮く右手。遠くからの悲鳴。何事かと一気に騒がしくなる本丸。
そりゃ、鵺は霊獣だ。見た目に反してとても軽いから、べにが抱えて走ることもできなくはないだろうけど。
ククク、と静かに肩が震えだす。
きっと今頃厨は大騒ぎで。同じくおやつの声に釣られた短刀たちがべにを見つけるのも時間の問題。
見つかってもきっと、べにの頭は見つかっちゃった、よりもおやつ美味しい、でいっぱいで。


「あぁ・・・本当に・・・この夢が、いつまでも続けばいいのにねぇ・・・」


そう、思う心は本物。
けれど笑いながら、頭の中は冷静で。
獅子王は大丈夫そうだ、あとは、と塗りつぶすようにリストを完成させていった。


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