報告


「え、嘘」


思わず口をついた。
燭台切が無意味な嘘をつくはずがないってわかってるのに、そう思いたかった。


「一応、そう言われたのは本当だよ。それで、ここからは僕の勝手な想像なんだけど・・・」

「あ、待って。なんて答えたの?」

「え?」

「気持ち、多分同じだから」


心臓がヤバいくらいにドクドク言ってて、目の前がクラクラしはじめる。
言ってる自分に「はぁ?」って言いたくなる自分がいるのに、頭はそれを許してくれない。


「三日月はああいう人だから悟られずに躱すの難しいでしょ。上手く流せた?」

「んー・・・僕的には、そう思ってなくても答えは同じだったかな。すごくドキッとはしたけど。“今度一緒に加州に聞きに行こうか”って言っておいたよ」

「えー・・・いや、それがいいんだけどさぁ・・・」


結局俺任せじゃん、と不満が口をついたけど、実際端末を使える面子は把握しておかないといけないんだし、でも燭台切が面倒ごとを解決してくれたら楽だったのになぁ、なんて。


「・・・ぶっちゃけ、燭台切はどう思う?」

「気持ち、同じなんじゃなかったの?」

「だからこそ、気持ちの整理に付き合って欲しいんだよ」


困ったような笑みに肩を竦ませ、執務机に頬杖をつく。
じっと目を見て無言で訴えれば、ふぅ、と様になるため息をついて顔を寄せてきた。


「・・・考えたくはないけど、何かあってからじゃあ遅い、って感じかな」

「・・・明確な理由があるわけじゃないんだよね」

「・・・うん・・・三日月さんは良い人だし、気にするような“何か”があるとは思いにくいし・・・。歴史改変、とか・・・あの人、そんなことする必要あるかな?」

「そこなんだよねー・・・!」


べにのことを愛しまくっている彼が、べにがいる“今”を壊すような行動に出るとは考えづらい。いや、考えられない。
だったら何故、自分たちはこうも彼の行動に神経をとがらせているのか。
自分の感覚が信じられなくて、でも歴戦で培ってきたそれを頭から否定することもできなくて。


「あー・・・!なんでこんな気持ちになってんのさー・・・!」


べにに癒されたい。あの滑らかな髪に指を絡ませてサラサラしたい。大福のような頬に指をつんつんしたい。一緒に庭を走り回ってキャッキャウフフしたい。


「・・・正直、認めたくないんだけどね、」

「・・・?」


机に突っ伏して現実逃避を企てる様子を黙って見ていたかと思えば、低く、苦々しく燭台切の口が開かれる。
今度は何、と暗鬱な気持ちで目線だけ送れば、声のままひどく嫌そうな顔をした燭台切が、吐き捨てるようにつぶやいた。


「・・・“騒動の中心には三日月が居た”・・・って、どうしても、引っかかってて・・・」


『お前んとこのは、いつ“そう”なるかねぇ?』


「・・・っ!」


その瞬間、耳に蘇るあの忌々しい声。
なんで忘れていた。いや、記憶から消したかったのか。


「そうか・・・アイツのせいか・・・変な刷り込みしやがって・・・」

「加州。加州。しまって。殺気しまって。皆が飛んできちゃうよ」

「うぐぅ・・・!」

「それに、まぁ多少はそれが理由とは言え、端末の使い方を聞いて回るのって、やっぱりちょっと気になるよ」

「・・・・・・・・・そうね・・・」


ふぅ、と一旦気を落ち着かせて、改めて三日月の行動に思考を巡らせる。
気持ちを一旦横によければ、三日月が端末の使い方を聞いてきたことを、言葉の通り善意ととらえられなくはない。
だとしてもあの録画もできない機械音痴に端末を与える気はないけど。
でも、そのあと燭台切のところに行くのが早すぎる。
三日月は行動しようとしている。しかも、様子を見ながらとかじゃなくて、早急に。
どうしてそうなってしまったのかは考えようもないけれど、早々に対策を講じなければならないのは確かだ。


「直接行ってものらりくらり交されそうだね」

「でも時間はない、と」

「紺野に相談してみる?権限者しか端末にアクセスできないように」

「アリかもね。来るのを待つより、連絡入れたいんだけど・・・とりあえずメッセージ送ってみようか」


端末を開いて、普段べにに関する消耗品やらなんやらを請求しているメッセージboxを開く。


「・・・アイツのことまで書く必要はないよね。話がややこしくなるし」

「一先ずは権限者を制限したいってことだけ伝えればいいんじゃない?」

「そだね」


ぽん、と画面をタップしてメッセージを送れば、すぐに記入中のアイコンが出てくる。
珍しい、ちょうど操作してたのかな?と反応を待てば、ぽん、とメッセージが浮かんできた。


「『何故だ?』だってさ」

「うーん・・・まぁ正直に言っていいんじゃないかな。紺野さんなら信頼できるし、事情を知ってる人がいることは心強いからね」

「そうねー」


返事をしながらぽちぽちと簡単に事情を打ち込み、三日月が端末を操作したがっていること、行動が少し怪しいことを伝える。
ぽん、とそのメッセージを送ったところで、何か、どきりと鼓動が胸を打った。


「・・・『怪しいなら刀解!』なんてならないよね?」

「まさか!紺野さんはそんな人じゃないよ」

「うん・・・」


メッセージは既に既読になっているし、書き込みのアイコンも出てきている。
不安に感じるのが遅かったけど、不安を感じる必要はない、はず。
ぽん、と上がったメッセージに、緊張しながら目をやった。


「『近々対応する』って・・・こっちに来て設定してくれるのかな?」

「うーん・・・そういうことかな?」


相変わらずわかりにくい書きぶりになんだかちょっとほっとして、まぁじゃあそれまでは二人が端末をしっかり管理するようにしようか、なんて話して。
どこか手の届かない痒さを覚えながら、メッセージboxを閉じた。



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