日向君がまぶしすぎて辛い


「明後日の壮行式だが!俺たち1、2年で大地さんの挨拶を盛り上げようと思ってる!」


始まりは、3年生に内緒で坂ノ下商店に集められた部員に向けられた、田中先輩のそんな言葉だった。
壮行式・・・!うおおお・・・!!
なんか、こう、みんなに応援されて、試合に向けて士気を高める!的なやつか・・・!!
盛り上げるためにおれたち1年には裏方として探してもらいたいものがあるという田中先輩に、ワクワクする気持ちを感じながら「探し物?」と聞く。
田中先輩はポケットからメモを取り出すと、「そうだな・・・」と言いながらメンバーを見渡した。


「日向と影山、大野はCDラジカセとポンポン。月島と山口はメガホンとスポットライトだ」


影山と大野と一緒に、CDラジカセとポンポンを学校内のどっかから借りてくる。
それがおれたちに与えられた指令で、しかも壮行式に間に合わせるということは・・・


「リミットは明日の夜までだ。遊んでる時間はないぞ!」

「えええっ!?」


田中先輩の真剣な声に、おれたちは驚くのと同時にその緊急性を感じてピリリと緊張を走らせたのだった。










次の日、昼休みが始まってすぐ。
昼ごはんを食べ終わったら廊下で落ち合おう、と昨日帰り道で約束したのに、慌てて教室に飛び込んできた大野に、おれは目を丸くした。


「ひ、日向君、・・・!!ご、ごめんなさい!!!」

「えっ!?な、なんだよ!?どうしたんだ?」


口に運びかけていた焼きそばパンを一旦机に置いて、腰からビシッと頭を下げる大野に手をうろうろさせる。
「頭上げろって!」と言っても聞かない大野に、他のクラスの生徒だってことも相俟ってか教室の視線が集まっていて、じわじわと顔が赤くなってきてるのがわかった。
大野、これ気付いたら絶対ぐわぁーってなるだろ!
どうしよう、とわたわたしてると、頭は下げたままで大野がぽそりと話し始める。


「さっき、担任に呼ばれて・・・昼休み、一緒に探せない・・・と、思う・・・」


「ほんと、ごめん・・・」とすげえ申し訳なさそうに言う大野。
何があったんだ!?と半ばパニックになりかけてたおれは、そんな内容にほっと息をついて肩の力を抜いた。


「なんだ、そんなことか!いいって、おれと影山でびゅびゅんっと集めてくるから!」

「う、ご、ごめん・・・ちゃんと、帰りに日向の好きなもの奢るから・・・」

「え!?まじで!?」


思わぬ言葉にちらりと肉まんがちらついて、思わずよだれを出しながら確認すると、大野は「う、うん・・・」と眉をはの字にしながらへらりと笑った。


「さ、さっき影山君が・・・“それでチャラにしてやる”って・・・」

「影山のやつ・・・がめついな〜」


そういえば大野の教室からだと、影山のクラスの方が近いのか。
影山にだけ言っておけば、おれは昼に会ったときに聞くだけで十分なのにな〜と大野の几帳面さに感心してうんうん頷いてれば、ちらりと時計を見上げた大野が小さく「ぁ、」と声を上げて一歩後ろに下がる。


「あと、先生の用事が終わったらすぐ、行く、から」

「おー!待ってるな!」


「ほんとごめんね、」と何度も頭を下げながら教室に戻っていく後姿を目で追う。
その背中が廊下に消えたところで「日向、さっきの誰?」と聞いてくるクラスメイトに、「部活の仲間!」と答えてから今度こそ焼きそばパンを口に突っ込んだ。










あちこち探し回ってようやく手に入れたラジカセは、本当にカセットしか再生できない旧式に、ポータブルCDプレーヤーが繋げられたものだった。


「この線抜いたら、おれ、もうわかんないからな。絶対いじんなよ」

「誰がいじるか、ボゲ」


物々しく二人の手元を繋ぐコードは何本も絡まりあって、一生懸命聞いていた説明もちんぷんかんぷんでは覚えられない。
もし外れたら、また戻って繋げなおしてもらわなくちゃならないだろう。
もうあと10分くらいしか残っていない大事な昼休みをこれ以上消費するわけにいかないし、と慎重に影山と歩調を合わせて歩いていると、向こうから誰かが走ってくるのが分かった。
ぶつかられたらたまらない、と前を向く余裕もなく少し横にずれれば、影山もコードについてくるように同じ方向に避けて。


「っは・・・っは・・・っあ・・・!ひ、日向く、か、げやま、く・・・ん!」

「あ!大野!!」


声を掛けられて、ようやく顔を上げたおれたちは、走ってきていたのが大野だったことにようやく気付けた。


「先生の話終わったのか?」

「う、うん・・・遅くなって、ごめ・・・」

「・・・なんでそんなに汗だくなんだ?」

「う・・・あ、そ、そっか・・・二人共手、ふさがってたんだ・・・」

「「?」」


膝に手をついて肩で息をする大野が息を整えて、気まずそうに視線を泳がせる。
その目ががおれたちの手元で止まって、ほっとしたように呟いた。
半分も聞こえなくて影山と二人で首を傾げれば、慌てたように両手と首を横に振る。


「あっ、や、慌てて、来たから・・・!と、ところで・・・それが、ラジカセ?」

「おう!演劇部から借りてきたんだ!」

「コードに気をつけろよ。抜けたら直せねぇからな」

「た、確かに、複雑だね・・・あ、じゃあ、ちょっと待って」


繋いである部分を覗き見た大野が、何か思いついたのか何故か手に握り締めていたスマホを起動させる。
何事か操作する大野をじっと見守っていると。

カシャ、カシャ、カシャ

おれの手元と影山の手元、それからラジカセ全体が入るように写真を取った大野が、画面を確認して「うん、」と頷いた。


「色がはっきり分かれてるから、これで万が一はずれちゃっても大丈夫、かな」


そう言いながら画面を見せてくれる大野の手元をさっきとは逆に影山と二人で覗き込めば、そこに映し出されたコードの接続部分。
赤と黄色のジャックがラジカセに繋がっているのが一発でわかった。


「・・・すげええええ!!」

「ひっ!?」

「大野すげえな!超頭いいじゃん!!」


確かにこの写真があれば、もし抜けても直せると思う。
一生懸命説明聞いてるときはまるで思いつかなかった方法に、それをあっさりやった大野が純粋にすごいと思った。
「や、あ、い、いや・・・そ、そんなこと・・・」といつもよりどもりながら否定する姿に、「そんなことねえって!」と畳み掛ける。


「おれ、こんなんぜってー覚えらんねえって思ったのに!」

「ぼ、僕も覚えられない、よ・・・」

「・・・大野って実は頭よかったのか」

「そっ!?そそそそなことないよっ!?」


影山のちょっと感心したような声に今度こそ全力で否定する大野に、そういえば来るのが遅れたのも先生に呼ばれたからだってことを思い出した。
なんか、そう考えると先生に呼ばれた理由もなんかかっこいいやつなんじゃねえ!?
あ、そういえば大野って確か、クラス5組だし!


「そういえば進学クラスだったな!すげー!!」

「っ・・・!っ・・・!」


ぶんぶんと首を振る大野は、普段だったらそんだけ否定するときは真っ青だろうに、今は真っ赤になってる。
なんだ、照れてんのか!
ちょっと楽しくなって、「あとはーポンポンだな!」と意気揚々と部室棟のほうに足を向ける。
コードについて影山も歩き始めたのに、大野だけが「それが、その・・・」とその場に留まった。
動き出さない大野にこっちも足を止めれば、申し訳なさそうに眉をはの字にして。


「今チア部の子に聞いてきたんだけど、チアも、壮行式で使うって・・・」

「えっチアに聞いてきてくれたのか!?」

「ふ、二人を探して・・・チア部に先、行ってみてたから・・・」


だから走ってきたのかーと納得して、でもポンポンないならどうするかなーと考えて。
手元にあるごちゃごちゃと繋がれたコードに、「よし!」と一人で頷いた。


「作るか!」

「作り方分かるのか?」

「何とかなるだろ!」


女子とか、作り方知ってそうだし!と不機嫌そうな顔を見せる影山に投げかければ、「なら、」という反応はちょっと意外なところから返ってきた。
声に二人して振り向けば、口元に手を当てて何かを思い出すように右上を見る大野。


「体育準備室か、美術準備室か、職員室・・・タフロープならきっと備品でたくさんあるから、上手くすれば好きな色が選べるね」


すらすらと出てくる提案に、普段の部活中と全然違う様子に、かなりびっくりして目を見開く。


「!!大野作ったことあんの!?てかタフロープってなに?」

「えっ・・・えっと、小学校のときに、応援団で・・・タフロープは・・・えっと、スズランテープ?」

「ひらぺったい半透明の紐のことか?」

「そ、そう!・・・多分」

「へーっ、タフロープって言うのか!大野物知りだなぁ!」

「う・・・うぅ・・・あ、ありがと・・・」


すっげー照れて礼を言う大野が珍しかったけど、不意に昼休みの終わりを告げる予鈴が響いて、慌てて役割を分けて走り始めた。
おれと影山はラジカセを部室の簡単には見つからない場所に。
大野はそのタフロープってのを先生たちにもらいに。
本令と同時に教室に駆け込んで、まだ先生が来てないことにほっと息をついて自分の席に腰を下ろすと、携帯のランプがちかちか光っていることに気づいた。
なんだろ?と思って確認すると、大野からの着信があって。


「あ・・・」

「?どうした、日向?」

「!ううん、何でもない!」


慌ててそれをポケットに押し込んで、授業の教科書を机の中から引っ張りだす。
着信の時間は、おれたちが大野と合流するより前の時間だった。
汗だくだった大野を思い出して、おれたちを探してあちこち走り回ったんだとようやく気付いた。
ちょっと申し訳なくなって、おんなじぐらい寂しくなる。
文句とか、言ってくれればいいのにな。
会ったときスマホを握り締めていた大野を思い出してぎゅっと教科書を握り締めると、「おー席つけー」と先生が教室に入ってきて、慌ててそれを机に置いた。


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ショーセツバン!!ネタです!
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