影山君はプライドが高い


試合は結果、日向・影山チームの勝利という結果に落ち着いた。
途中で日向の能力の使い方がわかって、それを活用するためのトスの上げ方に集中して。
その消耗の激しさは試合が終わると同時に座り込んでしまうほどだったけど。


「・・・ッシ・・・!」


厳しかったからこそ、勝ち得た勝利の味に酔いしれた。
大野のサーブで一気に4点持っていかれたあとも日向のアタックが月島に防がれて1対9まで点差がつけられたりしたけど、次の一本でまたキャプテンのレシーブが真上に来て今度は点を取り返すことができた。
何本もミスはあった。けど、大野以外の二人のサーブはちゃんと拾えるレベルだったからチャンスも多い。
キャプテンは、レシーブが下手だとかそんなこと、全然なかった・・・んだけど。
ちら、と横目で大野を盗み見る。
俺たちよりはましだけど、ぐったりしている月島と山口におろおろと近づいたり離れたりしている。
けど、その疲労感は月島たちよりも少ない。
そりゃサーブだけなら大した体力も使わないだろうよ、とケッと悪態をついた。
大野は、サーブさえなんとかすれば他は素人に毛が生えた程度のものだった。
レシーブも、アタックも、弱小校ならレギュラー取れる程度のそれ。
すぐセッターポジションに追いやられてからはまぁそれなりの動きをみせていたけど、それだってそれなり。
本当に、サーブだけは化け物級。
長くコートにいることはそうなかったんだろうな、と、なんとなく、思った。





日向に言われて対戦相手だった三人とぎゃあぎゃあいいながら握手を交わし、キャプテンに入部届けを渡そうと日向とその場を離れる。


「・・・大野、ちょっといいか」

「っ!?は・・・はい・・・」


戻ってきたときに聞こえたその声色に、空気も読まず大声で話しかけようとする日向の口を思い切り塞いだ。


「(ってぇ〜・・・何すんだ!)」

「(明らかにヤバイ雰囲気だろ!察しとけ!)」

「・・・どうして、五本目は手を抜いたんだ」


小声でぎゃいぎゃいと騒いでいた空間が、ぴたりと凍りついた。
大野の、かすれた「・・・ぇ・・・」という音が奇妙に体育館に響くくらい、しんと静まり返る。
続いて響いたのは、やっぱり怒気をはらんだように聞こえる声。


「妙に取りやすかった。前の四本は、触れるのも精一杯、って感じだったのに、毎度五本目でブレイクだ」


偶然とは思えないんだけど、と続けたキャプテンの正面にいるから、大野の顔は見えない。
けど、一切の挙動が止まっていることからして、絶対顔色は真っ青なんだろう。
大野はしばらく、あ、とかう、とか言葉にならない声を出していたけど、じっと視線をそらさず待つキャプテンに観念したようだった。
ぎゅ、とジャージのすそを手が白くなるくらい握り締めて、か細い息を吐く。
心臓の音が聞こえてきそうなくらい緊張しているのがわかった。けど、


「・・・か、勝たせないと、と・・・」


その言葉が聞こえた瞬間。意味を、理解した瞬間。
ぐあっと、頭に血が、上った。


「・・・なんだよ、それ」

「っ!?」


びくっと震えた肩にさえ、イラつく。
後ろからズカズカと近づいていって、猫みたいに飛び上がる大野の肩を遠慮なく引いた。


「俺達はお前のお情けで勝ったってことかよ」

「影山」


キャプテンの制止の声が聞こえるけど、頭に入ってこない。


「ご、ごめんなさい・・・」

「謝って済ませるのか?お陰で不快な思いで一杯だよこのやろう」

「ごめんなさい・・・!」

「腹立つ!」


顔を見るのも嫌になって、背中を向けてその場を離れる。
後ろから鼻声で「ごめ、ん゛なざい・・・っ」とか聞こえてくるけど、無視してボールを拾った。
同じように思ったのかは知らないが日向も追いかけてきて、その身体の調子を見る意味でオープントスを上げてやる。
犬みたいにボールに飛びついた日向に単純で良いよな、と内心悪態をついて、さっさと次のボールを拾った。


「もっかいクイックの練習すんぞ!感覚残ってるうちに!!」

「!オオッ!」


イライラするときは、ボールに触るのが一番だ。
それに集中さえしてしまえば、嫌なことなんてなんとなく忘れられてる。
だから、自分でどうにもならなかった過去の試合なんて、さっさと忘れちまえ。





その後、マネージャーの清水先輩がバレー部のジャージを持ってきてくれて。
キャプテンから「これから、烏野バレー部として、よろしく!」という入部を認める言葉ももらったけど。
ジャージを受け取ったものの頑として袖を通すことを拒む大野が視界に入るたびに、テンションは下がっていった。


=〇=〇=〇=〇=〇=
prev/back/next