日向君とお勉強
平日は19時まで練習。
毎週末のように行なわれる練習試合。
それぞれ終わったら月島たちと地獄の勉強タイム。
そこに谷地さんが加わるようになって、だんだんと部室での一年生勉強スペースが広がってきたのを感じた。
部室が広いのが救いだけど、大野とかすっげえ肩身狭そうにしてる。
部活前後の勉強タイムだから、部室が一番早いしなー。
部活のなくなる期間になったら誰かの家に集まったほうがいいのかもしんねえけど、俺の家遠いしなー・・・
「日向、君やる気ないの?手、止まってるんだけど」
「ぅほぅ!?」
「僕もう帰っていいかな」
「うわあああ!?ごめん!真面目にやります!」
勉強する場所を考えていたら、いつの間にか手が止まっていたみたいだった。
それに気付いた月島がまた青筋を立てるのを見て、慌ててノートにかじり付く。
現代文と古典教えてくれるの月島だけだし、ここで機嫌を損ねて見放されたら・・・!
特に最近「何でできないの!?」が口癖になってきてるし、あれ、結構秒読みな気が・・・!?
「さすがにテスト期間入ったら自分で頑張りなよね」
「エッ!?」
「何でそんなに驚かれなきゃならないの?」
暗記系は一人でもできるデショ、と教科書に目を落とす月島は当然のように言うから、多分これ以上頼んでも鬱陶しがられるだけだ。
た、確かに月島だって自分の勉強あるよな・・・と考えると、そもそも頼むこともできないし。
でも、今週末から練習なくなるし・・・!そう考えると、月島に教えてもらえるのはあと数回だけ・・・!?
どうしよう、大野や山口、谷地さんは月島の教え方上手いっていうけど、おれ全然わかんねえし・・・!
「今週末はもう、部活なくなるもんね・・・」
本格的なテスト期間だ、と呟く大野に、救いを求めるように顔を上げる。
何の気なしに呟いただけだったみたいで、大野はおれと目が合うと「えっ?」と驚いて身体を跳ねさせた。
「大野・・・!土日!勉強!」
「あ、あぁ・・・えっと、・・・日曜日は用事、あるから・・・土曜日だけ、なら」
「えっ何かあんの?」
テスト前に遊び歩くようなやつではないから、きっと何か大事な用事なんだろうけど。
あの大野が頼みをきっぱりと断るような用事って、何だろ?
好奇心に駆られて身を乗り出したところで、月島から「他所事してる暇あるの?」とかって嫌味が飛んでくるに違いない状況に(やべっ)と慌てて浮きかけていた腰を落とす。
けど、ため息の一つも聞こえてこない様子に首を傾げて月島を見れば、その視線は大野を見ていて。
月島だって興味あることには食いつくんじゃん!という不満は、大野の答えを聞いた瞬間吹き飛んだ。
「ぅ・・・し、試合・・・」
「試合!?」
どこで!?おれ聞いてない!
まさか、赤点候補は試合のこと、知らされてないとか・・・!?
思わぬ情報に「見捨てられた!?」と泣きそうになりながら主将を見れば、二年生の先輩たちに勉強を教えていた主将も目を丸くしてこっちを見ていて。
ていうか、それどころか部室にいるみんなの目が全部こっちに集中してる!?
「・・・そういえば、成年の試合があるって聞いたな。・・・見に行くのか?」
全員の視線が集まっていることにオロオロしていると、ずっとガリガリ漢字の勉強してた影山が顔を上げて大野に聞いているのが聞こえた。
成年の試合?大学生とか、社会人とかがやるバレーの試合ってことか?
影山に聞かれた大野は、少し視線を彷徨わせた後、弱りきった顔を伏せて。
ぼそぼそと、とんでもないことを言った。
「・・・さ・・・参加、してくる・・・」
「「何ィっ!!?」」
「ひっ・・・!ご、ごめん・・・!た、頼むって、言われちゃって・・・!」
何か今、声出したのおれたちだけじゃなかった気もするけど!
そんなことより!!
「どこで!?見に行く!!!」
「え、えぇえ・・・!?」
「こら、お前達は勉強があるだろ」
「しゅ、主将・・・!でも・・・!」
向こうからやってきて注意する主将に、なんとか許してもらおうと食い下がる。
けど、ニッコリとイイ顔で微笑んで見せた主将に、それ以上何かを言うことはできなかった。
「大野の試合は、俺達が見に行ってやるから」
「え・・・えええ・・・!?」
「ビデオ、宜しくお願いします」
当然のように頭を下げて頼んでいる影山に、倣って「お願いしアース!」と頭を下げた。
その週の土曜日。
結局集まりやすいからという理由で、谷地さんの家で勉強することになった。
各々が手土産にお菓子を持って行って、半分お菓子パーティみたいになりながらも黙々と勉強して、わからないところは教えてもらって。
谷地さんが「一息入れようか、」と癒しの一言をくれた瞬間、机にぐだぁと突っ伏した。
「ぐはー・・・!疲れたー!!」
「お疲れ様、」
「大野余裕だな!」
「そ、そんなことないよ・・・!?僕も、肩凝っちゃって・・・」
「あーバレーしてえ!」
「そのために勉強してんだろ」
「そうだけどよー」
うずうずと走り回りたくなる身体をバタンと後ろに倒して、天井を見上げる。
・・・頭ん中まだ記号が回ってら。
ここ数週間で随分スムーズに書けるようになった{}の括弧とか、×の意味の・とか。
そういうのがぐるぐる回ってそのうち丸になって、それがバレーボールに見えてきて。
「・・・あーバレーしてえ!!」
「ウルセェ!俺だってやりてえよ!!」
「ま、まぁまぁ・・・終わらせたら少し、対人するとかどうかな・・・?」
「・・・終わったら学校な」
「鍵開いてねえだろ。俺の家にボールあるから、そっちだボゲ」
相変わらず一言多い影山と折り合いをつけて、お茶を取りにいってた谷地さんが帰ってきたところでガバリと腹筋を使って起き上がる。
お礼を言って冷たい麦茶を喉に流し込んでスッキリしたところで、ポッキーをつまんでいる大野に口を尖らせた。
「大野はいいよなー。明日試合できるんだろ?」
「えっあっうっ」
「中学まで入ってたっていうチームか?・・・あの人も出るのか」
「あ、あの人・・・?」
首をかしげた大野を、影山が仏頂面で睨む。
蛇に睨まれた蛙(覚えたぞ!)みたいに動けなくなった大野を今触ったらきっと、猫みたいに跳ねるんだろうなぁ。
でもおれも影山の言う“あの人”がわかんなくて、ポテチをつまみながら大野と同じ方向に首をかしげた。
「・・・お前の師匠の、・・・及」
「し、師匠・・・!?えっあっ、あ、ご、ごめん・・・っ!おいちゃんのこと、だよね。うん、来てくれって頼んできたの、おいちゃんだし・・・ご・・・ごめん・・・」
「・・・・・・」
何かカンに触ったのか、ムッスーと眉間に皺寄せて黙り込む影山に、焦った大野が腕を変な感じに動かす。
ちょいちょい零れる単語を拾えば、大野は影山が怒ってるのは言葉を遮ったからだと思ってるみたいだ。
確かに影山は怒りっぽいし、いつも不機嫌だし、よく怒鳴ってるけど。
そんなことぐらいじゃ怒るわけ、ないよなぁ。
二人の様子を見ながら谷地さんが注いでくれたおかわりの麦茶をグビリと飲んで、またお菓子に手を伸ばす。
涙目の大野と仏頂面の影山は何か冷戦?(世界史で聞いた気がする)みたいになってて。
「おい早く勉強終わらせてバレーすんだから、ちゃんと休むんだぞ!」
主将みたいでかっけえこと言ったら、影山にアイアンクローをかまされた。
あれ?でもだとしたら何で、影山は不機嫌になったんだろ?
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