日向君は成長に敏感


一週間、ママさんたちとみっちりアタックの練習をした。
影山とケンカした日よりも、ちょびっとだけだけど空中でボールが見えるようになってきているのがわかる。
・・・これが影山とのコンビネーションでどれくらい使えるかはわからないけど、絶対鼻はあかしてやるからな!


「挨拶!」

「「お願いしあース!!」」


見知らぬ体育館に、鼻息荒く足を踏み入れる。
今回の東京合宿は一週間。いろんな強豪の選手の、いろんな強さを間近で見れる最高のチャンスだ。
絶対に、絶対に!強くなって、“小さな巨人”と同じ舞台に立ってやるからな!


「じゃあ日向試しに入ってみろ」

「!オス!!」


コーチからの指名を受けて、逸る気持ちに肩を上げながら返事をする。
まずは大エースのいる、梟谷との対戦だ!


「今回はガンガンメンバー変えていくからそのつもりでな。特に大野、お前もピンチサーバーだけじゃなく、入れっぱなしになることもあるだろうから気合いれろよ」

「はっ、はぃ・・・っ」


コクコクと小さく頷く大野にコーチが言って、今回のスターティングオーダーが発表される。
まずはセッターに、影山。
ウィングスパイカーは旭さんと田中先輩と主将で、リベロに西谷先輩。
そんで、ミドルブロッカーは、おれと、大野。
スタートのローテーションもそれに合わせて普段と少しずれた感じで始まって、ポジションにつくとコートの中で一番遠くに見える13番の背中をチラっと見た。

サーブが早く回ってくるように、大野の最初の位置は前衛のライト。
大野が前衛にいるところをほとんど見たことがなかったから、なんかそこに居るのが新鮮に感じた。
ぴょんぴょんと跳ねて足の感じを確かめながら、他のメンバーもぐるりと見渡す。
おれが烏養元監督のところで練習してる間も、他の皆もそれぞれ自主練してたって聞いた。
どんなことしてたかは知らねえけど、おれも負けてないんだからな!

ホイッスルと共に、試合が始まる。
まずは向こうのサーブで、俺は早速西谷先輩とチェンジしてたけど、こっちのレシーブから。
主将がさすがの安定レシーブで影山にボールを繋いで、いきなり旭先輩のバックアタックが炸裂して景気よく一点目をもぎ取った。


「っしゃあ!」

「ナイスキー、旭!」

「オオッ!」


一気にテンションの上がるコート内に西谷先輩と入れ替わりで足を踏み入れると、梟谷のコートからボールが転がってくる。
それを拾い上げた田中先輩が、「大野!」と声をかけながらボールをバウンドさせた。


「続けていったれ!」

「は、はい・・・!」


危なげなくボールを受け取った大野が、エンドラインまで走る。
それから振り返ってこっちを見た姿を見て、あぁやっぱり大野はこの位置だな、とちょっと安心して「ナイッサー!」と声を張り上げた。
ピーッとホイッスルが鳴って少し間を空けて、「いきます、」と大野の声が響く。
安定したインパクトの音と共におれの頭上を越えて行ったボールは、あわよくばそのままコートに、と思ったんだけど。


「前みてぇにはさせねぇよ!」


やっぱりそこは強豪校ってやつで、大野のサーブはもとから警戒されてたみたいだった。
フローターサーブは不安定だけどちゃんと上に上げられて、カバーに入ったセッターが「お願いします」と冷静にいいながら安定したトスを上げる。
レフトに上がったそれについてブロックに飛んだけど、相手は強豪校のエースだ。
ぐあっと一気に目の前に上がってきた身体は、すんげえ大きく見えた。


「穴はお前だろぉ!」


そう叫んでエースが打ったボールは、田中先輩の後ろでブロックフォローに構えていた大野に勢いよく向かう。
田中先輩の腕に当たってたけど、ほとんど勢いの落ちていないそれ。
やられた、って。一瞬、思ったのに。


「おぉ!?」


エースが驚いた顔をして、後ろでキュキュ!ってシューズがすごい音を立てて。
はっと振り返るとそこには大野がいて、しっかりレシーブの構えをしてた。
一瞬だったけど、ボールの正面に入り込んでるのが、分かった。
・・・ん、だけど。


「ん゛ぐっ!」

「!!おれもそれやった!」


大野がレシーブしたボールは角度が悪かったのか、そのまま大野の顎に直撃してベンチの方へ弧を描いて飛んでいった。
覚えのある光景に思わず指差して叫んじゃったんだけど、でも!
大野が強打のアタック、カットしようとしてた・・・!
「大野すげえ!」と興奮しながら涙目でボールを拾いにいく大野を目で追って、やっぱりおれも負けてらんねえ!と闘志を燃やす。
次はおれだ!影山、見てろよ!!
おれだって、自分の武器を磨いてきたんだからな!!










25-12。
記念すべき、夏合宿一試合目の結果だ。
梟谷には結局ボロ負けしたけど、皆がどんなこと練習してきたのかはちょっとわかった。
完成してる武器はほとんどなくて、それがこの点数に表れてるんだろうけど。


でも、これからだ・・・!これから、強くなってやるからな!

「ご、ごめんなさぃ・・・!ほんと、レシーブヘタクソで・・・!お、教えてもらったのに・・・!」

「だーからー!サッと行ってスッとやってポン!だよ」

「ご、ごめんなさいいぃ・・・!ぼ、僕の、頭が悪いから・・・!全然、理解できなくて・・・ぇ!」

「いや、それ多分西谷も悪いから」


ペナルティを終わらせて勢いよくスポドリを飲んでいると、後ろから聞こえてくる会話。
?と思って振り向けば、大野が涙目で西谷先輩に頭を下げてて、スガ先輩が苦笑してた。
レシーブかぁ、と試合中の大野のレシーブを思い返せば、確かにミスは多くて。
けど、逃げずにレシーブしようとしてる感じ?っつーのかな。自分から正面に入ろうとしてるように見えたから、すげーと思ったんだけど。
どんな練習したんだろ。強打のアタック受けまくったとか??
頭を捻ってると、大野たちのやり取りが聞こえたのか、おれの後ろからコーチが声をかけてきた。


「ちなみに、大野が最初にやったみたいなレシーブだとまだボールは生きてるからな」

「え!?どういうことですか!?」


「ちゃんと追えよ」というコーチに、ボールが生きていたということが気になって思わず食いつく。
だっておれ、てっきりもう駄目だったと思って突込みとかいれちゃって!ボール追っかけてなくて!!
おれの勢いにちょっと驚いたコーチは、けどすぐ体勢を立て直すとピ、と大野の顎の辺りを指指した。


「バレーボールの公式ルールでは、ああいう事故みてえなツータッチはドリブルに数えられないんだよ」


ただし相手からのボールに触るときだけな、と付け加えるコーチに、スガ先輩が何か感動してる。
「ずぼらっぽいのに・・・!」と小さく聞こえたけど、聞こえなかったらしいコーチは大野ににやりと笑いかけて見せた。


「上出来じゃねえか、大野。大エースのアタックをカットできたんだぞ」

「・・・!!そんっ・・・!」

「まぁ理想には程遠いがな。せめてチームメイトのいる方向に返せよ」

「が、頑張ります・・・っ・・・」


ぺこぺこと頭を下げる大野だけど、コーチの言うとおり、強いボールから逃げなくなってるだけすごい進歩だと思う。
前は下手したら目瞑ってたもんなぁ・・・
でも、やっぱり皆色々練習してんだな・・・!


「・・・オイ」

「?」


不意に影山が話しかけてきて、クルリとそちらを振り返る。
いつもの仏頂面だけど、最近ちょっと会話減ってきてたのに、向こうから話しかけてくるなんて・・・
なんだろ?と体ごと振り返れば、チラ、と大野に視線を向けた影山はさらりと言いやがった。


「大野がレシーブできるようになったら、一番サーブ決定率の低いお前が下げられる可能性高いんだからな」

「!?!?!?」


暢気にしてんな、ボゲ。と忠告なんだか貶してんのかわかんねえ言葉を残して、用は済んだとばかりに背を向ける影山。
けど、それに構ってる場合じゃねえ!
大野に、レギュラー奪われる・・・!?


「ま、負けねえぞ大野!!」

「ふひぃ!?」

「ちょっと、僕を巻き込まないでくれる?」


おれの勢いに圧された大野は、さっと月島の影に隠れて、月島にめんどくさそうな顔されてた。
ぜってえぜってえ!!誰にも負けねえからなぁ!!


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