僕も、みんなと
退屈な授業が全て終わって、学校におけるメイン活動の部活時間。
いつもだったら・・・少なくとも、ボールに触れられるということだけで気分が上向くこの時間。
だというのに、また今日もあの卑屈な視線を受け続けるのかと思うと少しだけ体育館に向かう足が重くなる。
くっ・・・!この俺がバレーをしにいくことが少しでも嫌になるだなんて・・・!
やり場のない怒りを体重に乗せて、床を踏みにじるように歩を進める。
とにかくボールだ。ホームルームも早めに終わったし、視界に大野が入らない状態でボールに触っていれば、多少なりとも落ち着くだろう。
そう思って、踏み込みに使っていた力を蹴るほうへと向ける。
そう。
アイツの顔を見ずに、ボールに触れると思った。
思った、のに。
「あ・・・っ・・・か、かぁっげや、か、影山くん・・・っ!」
「・・・・・・」
何でコイツ、体育館入り口の隅っこにはまってるんだ?
柱のくぼみに身体をあわせるように立ち尽くしている大野を見つけて、その挙動が理解できなくて思わず足を止めた。
日向だったら正面から待ち構えてるだろうにな、と一瞬性格が対極にいるあいつのことを考えて、すぐにそのイメージを振り払う。
アイツのことなんて部活中だけで十分だっつの・・・
無視しようと思えばできてしまう大きさの声で呼び止められて、一瞬無視して通り過ぎてやろうかと頭の片隅で考える。
そうだ。別にこっちからは話すことなんて何もない。
コイツと話してる時間より、ボールに触ってたほうがよっぽど・・・
『少しは”待て“を覚えたら?』
「・・・・・・っ」
足を踏み出そうとした瞬間、つい先日、月島に言われた言葉が脳裏を過ぎった。
・・・確かに、こっちも多少はゆずらねぇと今後三年間ずっとギクシャクしたままなのも面倒だし・・・
少し頭を冷やして、早足で通り過ぎようとしたのをゆっくり減速させる。
つか、やっぱり普通のジャージだし。着る気がないのか?
やっぱりその立ち振る舞いに少しイラッとして、それを大して隠しもせず声に出した。
「・・・何だよ」
「あの・・・っ、あの、えと、え・・・と」
そう言いながら手元の紙を持ち直そうとするが、長いこと握り締めていたのか指に紙がくっついてうまくいかないらしい。
もたつきながらそれでも何とかこちらにそれを突き出そうとして―――
「・・・あっ・・・あぁ・・・っ!」
「・・・・・・」
―――タイミングよく吹いた風に、それは攫われていった。
「(何だコイツ?漫才でもして、俺を笑わせようとしてんのか??)」
慌てて紙を追いかけていく大野の背中を目で追いながら、頭上には?マークがぽんぽんと現れる。
何で俺、アイツに笑わされようとしてるんだ?
ん?笑わせられ?笑れられ??
関係ないことで増え続ける?マークに気を取られていると、大野がどうやら風に遊ばれ終わったらしい。
ようやく拾った紙をぺしぺしと叩き、土ぼこりを落とす姿が少し遠くに見えた。
そこから引き返してくるのかと思いきや、半歩振り返った足と、向こうを向いたままの足とで体重を何度も行ったり来たり・・・つまりは、振り返るかどうかを悩みまくっている。
・・・―――はっきりしやがれ!
「はっきりしやがれ!」
あ、思ってたことが口からも出ちまった。
そしてこんな言葉を掛けられれば当然・・・
「っ・・・!!?」
大野は萎縮して、その場で硬直した。
でもそんなことは、もう百も承知だ!
ズカズカと遠慮なく地面に足を降ろし、そのまま大またで大野の元まで向かう。
俺の剣幕に驚いたらしい大野が一歩後ずさるが、そんなもの無意味。
そのまま胸倉を掴み上げてやろうとして―――くしゃくしゃに握り締められている紙にふと気付いた。
臨界点ギリギリまできていた沸騰が、一瞬落ち着く。
「・・・それ」
「えっ」
「それ、俺に関係あるんじゃねぇのか」
「えっ、あっ、」
真っ青だった大野の顔が、俺の顔と自分の手元の紙とを行き来する。
練習試合か何かの連絡だろうか。
深く考えもせずそう判断して、大野が紙を渡しやすいように手を差し出す。
なのに、大野は一向に紙を渡そうとしない・・・どころか、握りこむ始末。
一向に進まないやりとりに、時間だけが無駄に過ぎていく。
せっかく早く来れたのに、ボールに触れる時間がどんどん減っていく。
いや、それ以前に・・・まだるっこしい!
感情が再びガッと臨界点を突破して、毟るように大野から紙を奪い取った。
「あっ・・・」とか声が聞こえたけど、そんなもん無視だ無視。
なんなんだ、と紙をひっくり返して・・・さらに上下逆さまだったことに舌打ちをしてひっくり返して・・・
太字で“入部届”と書かれたそれに、大野と同じようにピシリと動きを止めてしまった。
「・・・は・・・?」
さっきまでとは比べ物にならないくらい、頭上に?マークが飛び交う。
何でコイツがこれ持ってるんだ?まさかまだキャプテンに出してなかったとかないよな??
書き直したのか?わざわざ?何で?
一番のでかい疑問は、コイツ、何でそれを握り締めて俺を待ってたんだ??
わけわかんねぇ、と考えることを放棄した頭で入部届けを見続ける。
何度見てもそこには細い字で“バレー”と“大野圭吾”の文字が書かれているだけで、特に変わったところはない。
いや、これが俺の手の中に在ること事態が変わったこと・・・なのか。
受け取った(奪い取った)のは間違いだったか、と自分の間違いに気付いて舌打ちをしながら大野にそれを返そうと腕を伸ばす。
その瞬間、大野の体が大きく跳ねたのが視界に入った。
つられるように顔まで目線を上げれば、そこには予想もしていなかった、―――泣き顔。
「!?」
「ごっ・・・ごめん、っなさい・・・で・・・でも、あの、その・・・それ、は」
それ、といいながら大野の視線はどんどん下がっていき、紙も通り過ぎて完全に俯く。
大して変わらない身長の大野の、震えるつむじが見えた。
「影山くんに、受け取って、もらいたくて・・・」
「・・・俺に?」
もう一度、手元の紙に視線を落とす。
何度見てもそこには入部届けがあるだけで、それが俺の手の中にある理由には全くいたらない。
何でこれを、俺に・・・
「みっ・・・!」
・・・鳴いた。
思わず紙から顔を上げれば、ジャージの裾を拳が真っ白になるまで握り締めて震えている手が目に入る。
「・・・認めて、貰いたいから・・・!チッ・・・チームメイト、だから・・・!」
「仲間にっ・・・入れてください・・・っ!!!」
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