菅原先輩のセット


17対19

条善寺の奔放なプレーに翻弄されながらも、負けずに相手を振り回して守ってきた優位。
それでも何の気負いも感じさせない相手チームのメンタルは、強固なのか考えていないのか。


「月島、ナイッサもう一本!」


安寧に入っていくサーブを目で追って、向こうの動きを観察する。
さっきから自由すぎる陣形は正直次の動きが予想しにくいけど、月島のサーブのときはレシーブが崩れないから、なんというか、落ち着いて攻撃してくることが多い。
・・・逆にそのほうが、拾いやすい気もしなくもないんだけど。


「ナイスレシーブ!」


しっかり見て。戦って。糧にする。
俺ならここは旭のバックアタックで、と思ったと同時に影山が旭にトスを上げて、思わず小さくガッツポーズを作ったのは秘密だ。
でも・・・変人コンビもちゃんと機能してるし、この調子なら。
そんな、ちょっとした慢心が、脳裏を過ぎった瞬間だった。

バァン!!


「ひィッ!!?」


激しい音と、隣からの耳につきささる短い悲鳴。
ピッ、とそ知らぬ顔で鳴らされたホイッスルが、頭痛をより増長させたような気がした。


「うわあああ!!!影山ァァァ!!!」

「はぁっはっはっはっはっはっ!?!?!?!?!?!?」

「ちょ、大野落ち着いて!!!」


テンパりすぎて高笑いみたいになってるから!
どこか楽しそうに試合の展開を見ていた大野の顔から、一気に血の気が引く。
見るからに駄目そうだもんなぁ、大野って・・・!
何故か他の皆と同じような鼻ではなく、胃の辺りを押さえる大野はきっと他人の血とかダメなタイプなんだろう。
今度はコートの中からも悲鳴が聞こえてきて、とうとうやっちゃったなぁ、とどこか遠いところで考えた。
“三年生なのに可哀想”と思われたって、影山の代役だって。
いいとは思ってたけど、まさか本当に直面することになろうとは。
大野を宥めながらチラリと烏養コーチを見れば、意外と落ち着いた様子のコーチに来い来いと手招きをされる。
くっと腹に力を入れなおすと、未だ目を回している大野のことは一旦山口に預けて、ベンチへと走り寄った。
大地に促されて不承不承ベンチに戻ってきた影山に、清水がティッシュを持って近付く。


「目は?」

「大丈夫っス!」

「どうせ血止まるまで出らんねぇし、見てもらって来い」

「〜〜〜〜〜〜っ」


見るからに不満そうだな!
でも、流血している選手を試合に出すことができないなんて、ルールブックに書くまでもなく当たり前だ。
顔面とはいえ、一応は頭だしな。
ぶつかったとき頭が勢いで一瞬後ろにぶれたの、脳震盪起こしてないだけましなほうか。


「念のためですよ!」

「行くぞホラ!」


武田先生に宥められ、山口に促され、しぶしぶ付いていく影山。


「ヘイ影山!」


そんな凶悪面を呼び止める元気な声に、思わず影山と合わせて振り返った。
コートどころかここにいる選手の中でもおそらく一番小さな体躯を、ドン、と仁王立ちで大きく見せて。ビシィ!と自身につき立てられた親指は、ほんとにまっすぐで。


「留守は任せろ!」


自信満々に言われた言葉に、いいこと言うなぁ、なんてちょっと年寄りくさいことを考えてしまった。
まぁでも、日向の言う通り。
こーゆーときのための俺たち、だべ!


「そうそう、センパイに任せなさいっての!」


本心8割、演技2割で自信満々にそう言えば、それでも交代させられるのが嫌なのか、重い足取りで出口へ向かう影山と山口。
・・・ん?そういえば大野は・・・?


「かっかっげ、あ、ぅっ、・・・ぅっ、か、影山、君・・・!」


何か、えづいてないか!?
コートの中でハイタッチを交わしながらも、意識は半ばそちらにもっていかれる。
ていうか、正直皆そうだろ!手ぇ合わせてんのにこっち見てないし!!


「ひ、け、血管が縮むから、コレ!鼻!!あの、柔らかいとこ、に・・・っ!」

「大野落ち着いて!?」


クーラーボックスからとってきた保冷剤をタオルに巻きながら、影山の顔にぐいぐい近付ける大野。
普段からしたら考えられない行動だ。
というか、ここまで声が聞こえてくること自体普段じゃありえない。
いやぁ、これは、かなりテンパってるべ・・・


「あの、あの、あのっ、・・・う、上向いたらダメだって!強く押さえるのも、駄目で・・・ぇっ!えと、あと、あとは・・・!?」

「大野!」

「っ!!」


半泣きで何かを探すように視線をキョロキョロさせる大野に、影山の大声がぶつかる。
あ。絶対今、コート中の全員があの二人見てる。自信ある。
視界の端に映る月島が、すごくゆっくりエンドラインまで歩いているのがその証拠だべ?


「鼻血ごどぎでガダガダざわぐん゛じゃべぇ!ずぐぼどっでぐるがら、ばっでろ!」

「はっはぃいっ!!?」


影山に一喝されて、ピシィ!と直立不動になる大野。
オロオロしていた山口もきっかけと思ったのか、影山の背中を押して出口へと向かっていった。
残された大野も気になるけど―――今は、コートに集中しなくちゃな。
大野たちが落ち着いたのを見てようやく一心地ついて、「月島も一本ナイッサ!」と試合に向けての気合を入れなおす。
月島のサーブで始まった次の一本は、上手いところにスパイクを決められて、条善寺の得点。
そして再び鳴った副審のホイッスルに、あぁ、やっぱりなとどこか納得した思いで掲げられたナンバープレートを見やった。
メンバーチェンジは、成田と―――日向。
入れ替わりで入ってきた成田とハイタッチを交わして、次の一本。調子を見る意味も込めて成田にトスを上げる。


「ナイスキー!!」


練習どおり、安定した速攻。
サインどおりに飛び込んでくる成田に合わせて、成田が打ちやすい高さの球を上げる。
期待通りに上がったその球が、成田が打ちやすい高さだと分かったのだって随分経ってからだ。
俺は、日向みたいなトンデモ武器を扱えるような技量はない。
影山みたいに、技術ですべてがカバーできる、わけでもない。
でも、積み上げた練習では!


「成田!」


飛び上がった成田が、腕を思い切り振り下ろす。
ドパッ、と真芯に当たった音に、えもいわれぬ充足感が胸を占めるのを感じた。


「ナイスキー!!」


バチッと手を打ち鳴らせば、互いの笑顔が今の攻撃の満足感を伝えてくれる。
かぶせるようにコートの外から聞こえてきた「ナイスキー!!」には影山の声も混じっていて、思ったよりすぐ止まったみたいだな、と胸をなでおろした。
きっと次のセットはまた影山がセッター。
なら、今俺ができることは。


「チャンスボール!」

「オーライ!」


確実にこのセットを獲って、次のセットに繋げる!
ふわりと上げたトスは、大地の手のひらに吸い込まれる。
やっぱり感じる充足感に、これだからセッターは止められない、と今度こそガッツポーズを決めた。


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