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それからお互い無言のままで、私も何も言い出すことができず、恭弥も何も言わず、広々とした和室に辿りつくまでは何も話さなかった。

…何も、聞かないのかな。

全く何にも気づいていない、というわけでは絶対にないだろう。
興味がないだけ?それとも、気をつかっているの?
変わらない表情から読み取れず、和室についた途端体を降ろされた。



「お茶」

「(え、いきなり!?)…は、はい。あ、茶室があるのでしたらお茶をたてますが…」

「本当?」



少し嬉しそうにそう聞き返した恭弥に頷くと「ワオ」と驚きの声。
じゃあお願いするよ、とお茶をたてることになったので洋服ながらも準備をし始める。
どうやら道具一式は揃っているようなので簡略化した作法にのっとり、お茶をたてる。
最初に出す和菓子は恭弥が自分で好き勝手に食べていたのでお茶をたてることだけに集中した。
無言の中、心地好い静寂が流れてきて、ゆっくりとした空間で丁寧にたてる。
たてたお茶をお出しすれば綺麗な動作でそのお茶を飲みはじめたので、私は静かにその様子を眺めていた。



「…聞かないんですか?」

「何をだい?」

「………リボーンのことです」



あぁ、と何とも興味なさそうな声音で頷く恭弥にやはり聞かない方がよかったのかもしれないと今更ながらに思った。
最後の一口までお茶を味わうと恭弥は「結構なお点前で」と言って茶碗をおく。



「聞いてほしかったの?」

「……それは…」



何とも、言い難かった。

確かに聞かれたとしても私は何て答えるつもりだったんだろう?
幼い頃の元家庭教師、初恋の人、憧れの人、どれも本当だけど、どの言葉を言うべきかまではわからない。
初恋の人であることを言ってもいいのだろうか、元家庭教師にそんな過剰反応なんてしないという矛盾、憧れの人なら率先して顔をあげるのではないか、考えれば考えるほどわからなくなる。

言葉につまる私に恭弥は何故か軽く笑った。



「変な子だね。自分から迷路に入る必要はないでしょ」

「…はい」

「まぁ、わざと入りこむのも悪くないけどね」

「へぇ、わざと入り込んだんですか?」

「…!沢田様」



ばんっという荒々しい音とともに沢田様が襖を開け放ち、怖いくらいの笑顔を浮かべていた。
何故か怒っているようにも見えて少しだけ体が固くなる。
それに対して恭弥はうるさいよ、と眉をひそめただけで動く気配はない。



「勝手に連れていかないでもらえますか?色々と面倒なんです」

「知らないよ、僕の勝手だろ」

「…とにかく、彼女は連れていきますよ」



行くよ、と冷たく言われて私はすぐに立ち上がる。

沢田様の命令は絶対。
それが例えば…命に関わろうとも。

沢田様を追いかけようと踏み出すと、恭弥に「姫」と呼びとめられる。



「いつでも来なよ。お茶いれてくれるなら」

「…はい」



ふっ、と小さく笑ってからつまらなそうにふわぁ、とあくびをした恭弥に私も小さく笑うと沢田様のあとを追いかける。

…運命の悪戯が、またすぐそばまできているとは知らず……

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