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ガトーショコラもいい焼き加減で作ることができ、せっかくだからとビアンキ様もお茶に誘ったのだが、どうやら先約があるらしく、ごめんなさいね、と申し訳なさそうに謝られた。
いえ、と少し残念な気持ちを抑えながら彼女とわかれ、もう一つ作っておいた分はお世話になったコックさんたちに渡す。
もう一つはカートに紅茶と一緒にのせて談話室へと運んだ。
談話室のテラスはとても風通しがよくてお茶をするにはとても心地のいい場所なのだ。

談話室の中へ入るとどうやら沢田様も休憩中だったらしく、コーヒーを片手に寛いでいた。
まだコーヒーも飲みはじめのようだったのでまだここにはいるだろう。
「いらない」と言われる覚悟でガトーショコラを食べるか一応聞いてみることにした。



「…沢田様」

「何?てか今はいいけど外とかでは綱吉ってよんでよ。
夫婦のくせに苗字で呼ぶとか変だし」

「はい、気をつけます。…それで、実はガトーショコラを焼いたのですが、いかがですか?」

「ガトーショコラ?」



はい、と頷くと沢田様はソファーから立ち上がりガトーショコラが乗っているお皿を覗き込んだ。
生クリームもアイスもつけそえが出来るように氷が入った箱の中にいれてきた。
沢田様はじいっとそのガトーショコラを見つめると、ぽつりと一言。



「…食べられるの?」

「食べられます!」



何て失礼な。
毒も何も入っていないし、自分でいうのも何だがかなり上手にできたと自負している。

即答で返すと沢田様はびっくりしたように目を見開いたが、それは一瞬。
小さく、ほんの小さくフッと楽しそうな笑みを浮かべた。

(え……)



「冗談だよ。超直感も嫌な予感させないし」

「……すぐに切り分けますね」



まだまだ意地悪なことを言う沢田様から不自然に目を逸らしてガトーショコラに包丁を入れた。

びっくり、した。
正直あんな表情できる人だとは思ってなかったから動揺してしまった。

…でも、少し安心もした。

沢田様は初めて会ったとき見るもの全てに無関心な目をしていた。
まるで、全てを諦め、嫌悪しているように……
あの目を見たときには「この人とは一生うまくいかない」と思っていたけど、あの笑顔もできるのならきっと少しは仲良くなれる気がした。
そう思うと少し嬉しくて小さく微笑むと切り分けたガトーショコラに生クリームを添えて沢田様の前のテーブルにおく。



「お口にあうかわかりませんが、どうぞ」

「いただきます」



ぱくり、と一口沢田様はガトーショコラを口に入れる。
自分でおいしいと思っているのだが、こうやって人に食べられると些か緊張もする。
どうだろうか、と気になり始めると沢田様は無言で二口目を食べた。

え、感想なし!?

お口にはあわなかったのだろうか、と内心慌てていると沢田様はフォークを置いた。



「…信じられない」

「何がでしょう」

「すごく、おいしい」

「……!」

「何で?俺ガトーショコラって苦くて固いもんだと思ってたのに…」

「(それは焼きすぎてしまったのでは…)」



ありえない、と言いながら紅茶を一口飲んで、また再びフォークを進める。
ぱくぱくと食べてあっという間になくなると「おかわり」とお皿を差し出されるくらい。
その食べっぷりにびっくりしながらもこんなにおいしいと言って食べてもらえたことがなかったので嬉しくて嬉しくて思わず満面の笑顔で「はい!」と返していた。



「!」

「あ、つけそえにアイスもありますが、どちらがいいですか?」

「………」

「…?沢田様…?」

「…、…あ、あぁ…えっと…じゃあアイスがいい」

「はい」



ふわりと微笑んでから切り分けたガトーショコラに今度はアイスものせる。
冷たいアイスとまだほんのり温かいガトーショコラは相性抜群で私のお気に入りなのだ。



「どうぞ」

「ありがとう」

「(あ…)」



ありがとう、って…初めて言われた。

やっぱりうまい、と小さく呟く沢田様に段々心が暖かくなっていく。
愛して結婚したわけじゃないけど、いつか人として好きになる日が来る気がしてきた。

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