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部屋に返ってきてから沢田様の「可愛くしてきてね」の言葉がいやにひっかかってどうしたものか、と頭を悩ませる。
ていうか何でこんなにひっかかるのか…別に好きな人とのデートでもあるまいし。
とにかく誰かに相談したいが、相談できる女性はこのボンゴレにいないし…困る。
うーん、と頭を悩ませているとふいに何故か恭弥の顔が出てきた。しかも、にやり、と不敵に笑った笑顔。

…なんでこのタイミングで恭弥?

これは暗に「僕に相談しなくていいわけ?」って言われているのかな。
何か嫌だなー、なんて恭弥に聞かれたら咬み殺されそうなことを考えたが、背に腹はかえられない。
仕方ない、と小さくため息をついて私は普段開かずの間として成り立っている恭弥の部屋へと行くことにした。

とんとんとん、と下りていくときめ細かい日本庭園が見えてくる。
相変わらず綺麗だな、なんて苦笑しているとどこからかあの小鳥さんの声がしてきた。
もしかしたら、と思い、その声のする方へ足を動かすとやはりというか何というか恭弥が小鳥さんの側に座ってのんびりとしていた。

予想通りすぎて小さく笑うと気配に気づいたのか恭弥が鋭い視線のまま振り向いたが、私とわかると興味なさそうな目に戻った。



「誰…って何だ姫か」

「休憩中にごめんなさい」

「いや、いいよ。お茶たてて」

「はい」



恭弥の部屋にきたら大体お茶をいれるように言われる。
作法とかは簡易でいいから、と言ったのが恭弥だから普通お茶の前にしか食べないお菓子もたまにお茶の後にまたお菓子を食べることもあった。
ただ、お茶を頂く恭弥の作法は完璧でとても絵になるから矛盾なのだ。

今日もまた完璧に飲み終わると小鳥さんと戯れながら「…で?」と私に聞いてきた。
私が何もないのにここに来ないことは充分知っているからだろう。
私も片付けていた手を休めて恭弥に視線を向けた。



「どうしたの」

「実は……」



ざっくりとであるが、先程の話をそのまま話した。
可愛くしてきてね、と言われて私はどうしたらよいのか、と聞くと恭弥はつまらない、とばかりに馬鹿にしたような笑みを浮かべた。



「可愛くしていけば?」

「そ、そうなんだけど…どんな格好していけばいいのか、わかんなくて…」

「…あぁ、そういうこと」



そんなの僕に聞かれても知らないよ。


と、言われるんだろうな、と思っていたのだが思いの外沈黙が長い。
どうしたのだろう、と恭弥を見ると何か考え込んでいる様子。
とりあえず何か言われるまで待とう、と思っていると「…出かけるよ」の一言。



「…え?」

「行くよ、君も」

「えええ!?」



何それ一体どういうこと!?

そう目を白黒させていると「服見繕ってあげる。行くよ」とすでに歩きはじめていた。
服を見繕ってあげる、ってつまりその日に着て行く服を恭弥が決めてくれるってこと?

……恭弥ってセンスいいのかな。
失礼な話だが、彼の私服というものを一度も見たことがないからそう思ってしまっても仕方ないと思う。
恭弥は決まって黒いスーツか黒い着流ししか着ないのだ。

でもこの部屋の装飾や庭は非常にセンスよく作られているし、もしかしたら恭弥のセンスはいいのかもしれない。
そう結論づけて私は慌てて立ち上がると恭弥に続いて部屋を出る。
ボンゴレを勝手に出てはいけないから、とりあえず沢田様にメールで恭弥と出かけることを送っておいた。
これで無断ではないはず。うん。

少し不安ではあるものの、早くして、と不機嫌になる恭弥の方が怖いので私は小走りで恭弥のあとを追っかけたのだった。

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