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これがいいかも、あぁこっちの方がいいわね、と何度も何度も着せ替えさせられて女性のお洒落に対する意識の高さに私はもう閉口するしかない。
好きにしてください、と半ば諦めているとようやく「これ!」というものに行き着いたのか彼女は喜びの声をあげた。



「完璧!これでドン・ボンゴレの心もイチコロよ」



にっこりチャーミングに笑いながらウィンクを投げてくれた彼女に小さく笑ってみせる。
本当にそうだったらいいんだけど…っていいのか、私。
いやいやほだされるな私、と言い聞かせていると彼女はつまらなそうに、けど時々「それはダメ」と口出ししてきた恭弥を呼ぶ。
恭弥はようやく決まったの、とばかりな態度だったが私を見た途端に「ワォ」と楽しそうに笑った。



「よく似合ってるよ」

「…あ、ありがとう」

「沢田とのデートにはもったいないね」



このまま僕とデートする?と真顔で聞かれてやっぱり苦笑するしかなかった。
恭弥もあまり本気では言ってなかったようで「じゃあ行くよ」と私の手首を掴んで歩きはじめる。
え、いや、待って、まだお会計してない!と反論すると「払ってるよ」と言われて余計に驚く。
まさか恭弥にお金を払ってもらうとは思っていなかったのだ。
後でお金を返したいと言えば気にするな、の一蹴。…今度いっぱいお菓子作って持って行こう。



「お腹空かない?」

「あ、はい。そういえば…」

「そこにいい店があるんだ。そこで食べよう」



頷く前にそのお店へ行く気満々だったらしく、すでにその足はそのお店へと向いていた。
私が断らないと知っていたからか、それとも私が嫌と言っても行くつもりだったのか…どちらにしろ恭弥のゴーイングマイウェーなところに小さく苦笑する。
歩いて少しのところだったようですぐにそのお店にはついた。
イタリア家屋の小さなお店で辛うじて掠れた字でメニューが外に置いてあったボードに書かれていた。
どうやらイタリアらしいピッツア専門店のようだ。
外からも香る香ばしさに私のお腹は一気に空腹を訴えだした。
カランカラン、という鈴の音と共にドアが開かれるといらっしゃい!という豪快な声が聞こえる。



「お、雲雀じゃねぇか!」

「やぁ、久しぶり」

「何だよ可愛い嬢ちゃんと一緒に来るなんて!あぁ、好きな席に座っていいぞ!」



そう言われて恭弥は真っ先に人が少ないテーブルに座る。
恭弥らしい、と笑うと店長さんらしい先程の豪快な人が注文をとりに来てくれた。

何があるのかわからないので困っていると恭弥は見兼ねたように「適当に二つ作って」と頼んでくれた。

そのあと、おいしそうな香りと共に運ばれてきたピッツアはその香りに負けないくらいおいしかった。
とろりとしたチーズが釜戸で焼いた香ばしさを引き立ててやみつきになりそう。
ぺろり、と一枚を平らげると確信犯のように「おいしかったでしょ」とにやりと笑う恭弥に素直に大きく頷いた。
恭弥はちらり、と横に目を逸らすと「素直で可愛いね」と極上の笑み。
普通ならどきり、とするはずなのに私に襲ったのは何故か大きな寒気。

いや、あまりにも私に向けるには不自然すぎる笑顔だったから。

思わず私の顔もしかめていたようで怪訝そうにしていると「そんな反応しないでよ」と楽しそうに笑った。



「先に車に行っててくれる?」

「…はい」

「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ」



心配はしていないんだけど、何だかいい予感がしなくて…なんて言えず、私は恭弥に言われるがままお店を出て車へと向かった。


−−−そのあと、お店の中で何があったのかも知らずに。

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