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次の日、いつもより濃い目の化粧とドレスアップのような髪を結い上げる。
母そっくりの黒髪に藍色がかった髪はリボーンが綺麗だと褒めてくれた自慢の髪。
そっと彼のことを思い出しながら約束のお店まで父と車で移動する。
約束のお店はイタリアでも1、2を争うほど高級イタリアンレストランで、その中の個室を用意されてるというから緊張がさらに重なる。
しかしこの局面で失敗は許されない。
私は小さく深呼吸をして自分の意識を深いところに沈めてボスの娘という肩書のもと背筋を伸ばした。
大丈夫、愛想笑いなんて簡単。
いつもの通りにしていればいい、と胸中で言い聞かせていよいよ沢田綱吉との対面になる。
ボーイに扉を開けてもらい、中に視線を向けると…一人の男性が柔和な笑みを浮かべて椅子から立ち上がった。
蜂蜜色の髪の毛が重力に逆らってつんつんとしている。
しかし、あのふわふわな髪質を見る限りワックスなどでは立ててないようだった。
穏やかな笑みはどこか人を引き付けながらも全てを包み込んでくれそう。
…あぁ、この人があの巨大組織ボンゴレファミリーを取り纏める若きボス、沢田綱吉様。
「ご無沙汰しております、沢田殿」
「えぇ、お久しぶりぶりです。
お元気そうでなにより」
父と沢田様が互いに笑みを浮かべながら握手するのを微笑みながら見届ける。
沢田様の視線が父から私に移った瞬間、思わず私は小さく息を飲み込んだ。
…硝子の目。
その言葉がぴったりなほど彼の目は私なんかその目に映していなかった。
まるで私の存在を心から受け入れられないと暗に言っているように……
初めまして、と柔らかな笑みを浮かべているのにも拘わらずその瞳だけは温かみも何もなく、ただ無関心な色だけを映していた。
幸せな結婚なんて無理なことは百も承知していたがこんなにも無感情な目をした人は初めてだった。
それでも私はちゃんと笑顔を浮かべて挨拶を返すのだから何と滑稽なんだろう。
「お初にお目にかかります、沢田様。
私、オルマーノファミリーが一人娘、姫にございます」
「そんなに堅苦しい挨拶しなくていいよ。
これから夫婦になるんだからさ」
「……はい」
あと、綱吉でいいよ。
苦笑しながら言っている間も沢田様の目だけは反対の色を燈していて、…まるで綱吉と呼ぶなと強く言われているような感覚に陥る。
…正直、不愉快な人。
いくらドン・ボンゴレと言えどこの嘘には嫌気がさしてきた。
ため息をつきたいのを必死で抑えながら頑張って笑顔を保たせる。
お料理が運ばれてきて、会話する沢田様と父との話を軽く笑いながら時々相槌をうつ。
美味しいはずのご飯があまり美味しく感じないまま談笑していると、父がお手洗いに席を外すことになった。
若い二人で話しておきなさい、と言い残して席を外す父を見送り、沈黙だけがその場に流れる。
話せ、と言われても一体何を?
目の前の彼は明らかに私の存在を否定しているというのに…
黙々と目の前のメインにフォークをいれているとかちゃり、という音を立てて沢田様がナイフとフォークを置いた。
「…一つ言っとく」
「………」
「俺はきっと君を愛せない。
この結婚は互いの利益のためだ。
もちろんそれはわかってるよね?」
「わかっております」
「なら、君に約束してほしいことが3つ。
一つ目は俺の行動に口を出さないこと。
二つ目は外ではちゃんと夫婦を装うこと。
三つ目が…俺の許可なく俺の私室に入らないこと。
これだけ守ってくれるなら君が愛人を作ろうが、金をいくら使おうが何も口出ししない。
…どう?いい取引だと思うけど」
「わかりました」
あっさりと頷く私に沢田様は少しだけ驚いたように目を丸くしたが、次第に皮肉混じりの笑みを浮かべる。
ぴりっとした殺気が肌を掠めたが私は何の動揺もせずに真っすぐ沢田様を見つめた。
「聞き分けがよくて助かるよ。まるで人形だね」
「残念ながら興味のないことに関してドライな性格なものですから」
「…はっきり言うね。てっきり甘ちゃんの箱入り娘かと思ってたよ」
「甘ちゃんの箱入り娘ですわ。…そうやって、育てられてきたのですから」
そんなことは自分が一番よくわかっている。
だからこそ、リボーンを好きになったときあんなことになってしまったんだから…。
小さく痛んだ胸の奥に気づかない振りをしながら何食わぬ顔でフォークを持つ手を動かすと沢田様はそれ以上何もいうことはなかった。
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